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イランの監督が撮ったと云われてもおかしくないような映画にしたかった…『ホテル・ニュームーン』筒井武文監督に聞く!

2020年10月26日

現代のイラン・テヘランを舞台に、ある秘密を抱えたシングルマザーと、自分の出生をめぐり疑念を抱く娘の衝突、ふたりの関係の修復がサスペンス仕立てで描かれる『ホテル・ニュームーン』が関西の劇場でも10月30日(金)より公開。今回、筒井武文監督にインタビューを行った。

 

映画『ホテル・ニュームーン』は、『孤独な惑星』の筒井武文監督が、現代のテヘランを舞台に撮りあげた日本・イラン合作によるサスペンスドラマ。生まれる前に父を亡くし、教師の母ヌシンと2人で暮らす大学生のモナ。過保護なヌシンは1人娘に厳しい門限を課して交友関係にも目を光らせ、モナはそんな母にうんざりしていた。ある日、ヌシンがホテルで見知らぬ日本人男性と会っている姿を目撃したモナは、自身の出生を巡る母の話に疑念を抱き始める。母娘の間に生まれた小さな綻びは、やがて大きな亀裂へと発展していく。イランの国民的女優マーナズ・アフシャルが母ヌシン、新人女優ラレ・マルズバンが娘モナを演じ、永瀬正敏さん、小林綾子さんが共演。

 

サスペンスと謳っている本作だが、当初、筒井監督自身は想定していなかった。まず、テヘランに住んでいる女子大学生と母親の二人暮らしという設定があり、母親との葛藤を描くプロットを構想。ストーリーを展開していく中で「これぐらいやらないとおもしろくないかな」と考えるようになり、脚本家のナグメ・サミニさんやプロデューサーと話していく内に作品の原型が出来上がっていった。

 

日本・イラン合作映画であり、テヘランで撮影するため、事前に脚本審査がある。脚本を説明し、脚本家でもある方が検閲官を担い、様々な質問を投げかけていく。しっかりとした受け答えが必要だったが「審査後、政治的なことや宗教的なこと、服装などの風俗関係でかなり厳しいことを云われた」と明かす。「全部応えていたらおもしろい映画は出来ない」と認識しており、直接的ではなく間接的に表現した内容にしていく。また、脚本審査後、撮影を承認する組織と完成した作品が上映できるか審査する組織がそれぞれ存在しており、日本より一段と気を遣う必要があった。外国人監督がイランで撮影するための許可が必要であり、十分な待ち時間を必要としていく。とはいえ、ロケーションに関しては、日本より撮りやすい国だった。日本の場合、街中で撮影するとなると、その地域の警察から許可を得る必要がある。イランの場合は、1作品用の許可を取ってしまうと、市内のどこで撮ってもOK。「道路をふさいで撮影する時も協力的であることにビックリしました。街の人が映画に対して寛容だった」と振り返り、エキストラ出演を快く引き受けてくれたり、俳優が運転しながら撮影することも可能だったりしており「日本でなかなか実現できないことをなるべく本作でやろう」と満足できる撮影となった。

 

なお、イランと日本の俳優について、人間性によって演技スタイルに違いがあると認識している。コミュニケーションの取り方も違っており「様々な人が自分の意見を言う。場合によっては言い争いになってしまう」とまで話す。また「日本の撮影は監督中心でピラミッド型で本番では緊張感がある。イランでは本番でも相変わらずザワザワしながら自然体である。日本では本番が一発撮りとなるようにしていくが、イランでは、1テイク撮る毎に様々な修正を加えていく」と挙げ、結果として「演技も変わっていき、ライティングも変わり、美術も変化させていく。1テイク終わる毎に修正が入るので、試行錯誤しながら作っている」と説く。日本の場合より撮影時間が3倍も要したが「シナリオを撮影当日に全部作り直すこともある。俳優も覚えてきた台詞が無くなり新しい台詞が出てくるが、戸惑わずに覚えて演じてくれる」と融通が利くことに感謝せざるを得ない。

 

さらに、劇伴も日本映画にはないイランならでも楽曲が織り交ぜられている。当初は最小限のつもりだったが、ストーリーが展開していくにつれ次第に挿入され、日本でのシーンは多くなってり「作曲家は日本的なものを意識しているんですよね。日本人が考える日本の音楽とは違います。認知期のギャップとサスペンス映画につける劇伴が混ざり合ったような音楽になったんじゃないかな」と満足いく仕上がりとなった。衣装に関しても拘っており、自宅でくつろぐ時と外出する時の落差をつけている。「女性は外で絶対にスカーフをしていなければならない。本当は家では脱ぐけども、脱がしてしまうとイランの映画館で上映できない」と細心の注意を払っており、イラン側のスタッフもギリギリまで努力した。「1カットが引っかかって公開出来なくなるとスクリプター(記録)の責任になってしまう。撮影しながら少し激しいシーンになるとスカーフがずれてしまう」と懸念し、撮影後に映像をチェックしてリテイクを重ねることが多くなってしまったが、キャラクターや年齢を考慮して相応しい衣装が決められた。

 

作品が完成後、テヘランで開催された昨年のファジル国際映画祭でプレミア上映が行われ、現地の専門家からは「撮影と編集は素晴らしい」と好評。制作時には「イランの方が観てディテールが間違っていると云われる映画にはしたくなかった。イランの人が撮ったと云われてもおかしくないような映画にしたかった」と心がけており「『イラン人の感覚と違う』と云われたことがは、ある意味で良かった。イラン映画としておかしなものにはなっていない。イラン人の監督が撮ったものと変わらなかったら日本人が撮る意味がない。バランスの良い作品になったんじゃないかな」納得している。「今後もイランで撮ってみたい」と願っており「出来れば100%イラン映画でオールイランロケになったら是非やりたい。純粋なイラン映画で、特に日本ではできないようなカーチェイスがあるようなアクション映画をイランで撮れれば」とやる気に満ちていた。

 

映画『ホテル・ニュームーン』は、10月30日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田と京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。また、神戸・元町の元町映画館でも近日公開。なお、10月31日(土)には、アップリンク京都とテアトル梅田で筒井武文監督の舞台挨拶を開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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