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アイヌに対して更なる理解を深める作品になれば…!『アイヌモシリ』福永壮志監督に聞く!

2020年10月20日

北海道阿寒湖のアイヌコタンを舞台に、14歳の少年の成長を描いた人間ドラマ『アイヌモシリ』が関西の劇場でも10月23日(金)より公開。今回、福永壮志監督にインタビューを行った。

 

映画『アイヌモシリ』は、アイヌの血を引く少年の成長を通して現代に生きるアイヌ民族のリアルな姿をみずみずしく描き、第19回トライベッカ映画祭の国際コンペティション部門で審査員特別賞を受賞した人間ドラマ。北海道阿寒湖畔のアイヌコタンで母と暮らす14歳の少年カントは、1年前に父を亡くして以来、アイヌ文化と距離を置くようになっていた。友人と組んだバンドの練習に熱中する日々を送るカントは、中学卒業後は高校進学のため故郷を離れることを決めていた。そんな中、カントの父の友人だったアイヌコタンの中心的人物デボは、カントをキャンプへ連れて行き、自然の中で育まれたアイヌの精神や文化について教え込もうとする。自らもアイヌの血を引く下倉幹人さんが演技初挑戦にして主演を務め、アイデンティティに揺れる主人公カントを演じた。監督は、前作『リベリアの白い血』が国内外で高く評価された新鋭の福永壮志さん。

 

北海道出身の福永壮志監督。自身について「北海道で何代も生まれ育ってきた中で、完全に(アイヌの血筋が)入っていないとは言い切れない」とは認識している。住んでいた地域では同級生にアイヌの血を引く子がいたことはあったが「(アイヌに関する)ちゃんとした教育はされていないし、本人達が公に言っておらず、聞いていいのか分からない」と悶々としていた。聞きたいけど聞けないタブーなものとして思春期を過ごしていく。(福永監督の世代では、学校教育で教えられていない。現在は、別冊の専門教材があるが十分とは云えない。)監督が渡米してから意識が変わり、今回、映画の題材にすることを決断。前作『リベリアの白い血』と同様に「マイノリティをテーマに扱うことに意味を感じる。十分に注目されていないことに題材を選んでいきたい」というスタンスである。

 

アイヌに関する様々な場所をロケハンしながら「阿寒は、コミュニティがしっかりと根付いている。普段の生活の中にある観光というものを通してアイヌの文化がしっかりと残っており、観光向けのアイヌ文化と本人達が大事にしている文化のギャップなどストーリーになる要素が沢山ある」と発見。当初からアイヌの血を引く方にアイヌ民族の役を演じてもらおうと企画していたので、役者が十分に揃っていた。様々な場所に伺い様々な方の話を聞いて、本作の意図を理解してもらい出演を快諾してもらっている。主人公カントの母親を演じた下倉絵美さんは、阿寒の人達を紹介してもらい、お世話になった。カントを演じた下倉幹人さんとは、阿寒に行く度に接しており「最初は出演を依頼する予定はなかった。最初は青年によるストーリーだったが、途中から少年になっていった。感受性が豊かで特別な子で、本人にも映画に興味があり関係性が構築できていた。全校生徒が50人もいない小さな中学校だったので、選択肢も多くなく、迷わずに幹人君にオファーしました」と明かす。本人役で出演してもらっており「様々な面で魅力的な子。お母さんは絵美さんで、お父さんはジュエリーデザイナー。二人ともアーティストの夫婦の中で育っているので、表現の素質がある」と説く。また、各シーンにおいてOKIさんによるアイヌの音楽が沢山奏でられている。ストーリーを凝縮した音楽が存分にあふれており出来る限り取り入れられた。OKIさんについて「アイヌの音楽や楽器をベースに現代音楽に昇華して活動している第一人者。本作に出演する意味は大きい。ミュージシャンとしてのOKIさんというより、カントが憧れる存在としのOKIさんに意義がある」と感じ、早い段階で出演もオファー。なお、ニューヨークを基盤に活動しているクラリス・ジェンセンとミーティングを重ね、映画音楽としてバランスよく仕上げてもらった。

 

撮影は、出演者各々による普段の生活がある中で出演して頂いているため、バランスをとるためにスタッフ皆が大変な思いをしながら進められている。また、冬に洞窟での撮影が敢行されており「北海道の中でも阿寒は特に寒い。現地まで40分も雪道を皆で機材を持って歩いて行き来したので、体力的にも大変でした」と振り返った。さらに、作中にはアイヌの血を引く方に対する観光客の無知による失言も描かれている。監督曰く、日常的にある出来事であり「差別や偏見を主軸に描くつもりはなかったが、避けては通れない。観光を営む人たちの生活の中で、悪意はないけど無知によって失礼な発言は頻繁にある」と述べ、自然と脚本に描かれることになった。あくまで演出であり「もっと過剰な言葉を用いる選択肢もありますが、出演者からは反対されていない。特にへこんでいる姿はなく、日常的なことで冗談で返して軽くあしらっている」と解説。現実に対する様々な意見がある中で「映画制作に賛同して手掛けている。距離感含め様々なことに気を付けながら、皆さんと一緒に作った映画です」とふまえた上で「これがアイヌの全てではない。阿寒のアイヌで現代を生きる人たちの姿を描いた映画なので、間違ったことはしていません」と本作への誇りがある。なお、本作において重要なアイヌの儀式であるイオマンテは、1990年より現在まで行われていない。多種多様な意見があり、賛成派も反対派も理由は様々だ。アイヌの文化や精神世界・信仰の集大成と云われている儀式であり、以前は頻繁に行われていたが「現代のアイヌを描く中で、様々な意見や葛藤を描くためには必要」だと考え、本作に取り入れ作り上げられた。「アイヌと云えども現代人。僕らと同じ生活様式があり、普通の人達の中にアイヌというアイデンティティがあり、文化を継承していく。生身の現代人として姿を出来るだけ描くようにしました」と語り「アイヌに対する更なる理解となるきっかけになれば」と願っている。

 

映画『アイヌモシリ』は、10月23日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、12月11日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。また、神戸・元町の元町映画館でも近日公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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