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無理をすると、ろくなことがない。今はしっくりくる暮らし方が出来ている…『僕は猟師になった』千松信也さんに聞く!

2020年8月27日

山で捕らえた動物を糧にして暮らしている、猟師の“生“の営みを映し出す『僕は猟師になった』が8月28日(金)より関西の劇場でも公開。今回、猟師の千松信也さんにインタビューを行った。

 

映画『僕は猟師になった』は、2008年に出版された「ぼくは猟師になった」で知られる、わな猟師の千松信也さんに密着したドキュメンタリー。2018年にNHKで放送された「ノーナレ けもの道 京都いのちの森」の取材スタッフが300日追加取材した約2年間の映像に池松壮亮さんのナレーションを加え、劇場版作品として再構成した。京都大学卒の現役猟師という経歴を持ち、京都の街と山の境に暮らす千松さん。ワナでとらえたイノシシやシカを木などで殴打し気絶させ、ナイフでとどめをさす。自然の中で命と向き合う千松さんの日常から真の豊かさとは何かを問いかけていく。

 

山中での撮影は、人間の臭いを残さないように最少人数で行われた。カメラマンの松宮さんと録音の蓮池さんに川原監督までいると機動力が欠ける時もあり、カメラマンと録音さんだけの時もある。松宮さんが京都在住のため「早朝や夜の咄嗟に来てもらう時は、直ぐに連絡して来てもらったりした時も」と、貴重な時間を有効に撮影してもらったことも明かす。なお、獲物に気づかれないように、GoproカメラやCCDカメラやセンサーカメラを上手く組み合わせて撮影されていった。滅多に引き受けない撮影をやること自体が実験のつもりだった千松さんは「僕が罠を仕掛けている場所を中心に、ヌタ場やイノシシが確実に通るであろう場所を伝えて、相談しながらセンサーカメラを設置していました」と解説。罠についても「一度に10〜20ヶ所程度。自分が見回り出来る時間的余裕や猟場自体の獲物の気配の濃さに影響して増減する。獲れ過ぎても、処理能力の限界を超えてしまう。見極めながら、狙った獲物を自分の中で一番良いと思えるペースで獲れるような罠の数」だと説く。罠は様々な種類があり、大きく分けると足を縛るタイプと檻を仕掛けて閉じ込めるタイプに分かれる。罠と聞くと思い浮かぶ虎バサミと呼ばれる機器については「日本では残酷過ぎる罠だから禁止されている。10年前ぐらい迄はOKだった。錯誤捕獲した場合、獲物の足を傷つけ過ぎるので禁止になっている」と教えて頂いた。

 

作中では、千松さんの様々な姿が映され、堅実な猟師であることが伝わってくる。「無理をすると、ろくなことがない。最近は、家族と友人で分け合える肉しか採らないと決めて採っているので、無理なくやれている」と振り返りながら「5,6年前は獲った獲物の肉を販売していた時期があった。その時は『採らないと…!』という気持ちが先行し、普段なら罠をかけないような道にも罠をかけ、結果として、鹿を死なせてしまうこともあった」と告白。現在のライフスタイルについて「無理に獲る必要がない。獲れなくてもいいか、という感覚でやっている。しっくりくる暮らし方が出来ている」と満足している。なお、時には失敗することも無きにしも非ず。本作には千松さんが大変な思いをするシーンも収録されており「どんくさいシーンを中心に使われているなぁ」と吐露しながらも「スムーズに獲れ過ぎていると、ドラマ性がない。淡々と毎日見回っているだけなので、失敗は撮影中に起きた程度かなあ」と冷静に話す。

 

なお、本作には、千松さんの姿だけなく、最新鋭の技術まで紹介されている。ALSOKによる有害鳥獣対策から遠隔操作できる鳥獣わな監視装置が紹介され、千松さんは「当然出来て然るべき技術。現在、獣害が酷いという状況下においては仕方がない」と感じているが「錯誤捕獲がないのは良いことだけど、僕がやりたいこととは違う。どこまでを線引きするか恣意的なもの。檻の仕組み自体は昔ながらのシンプルな檻なので、使う人が使えばよい」と捉えていた。また、有害鳥獣の処分施設が紹介されており「命を奪うなら、有効利用の意味も含めて、肉を捌いて食べることが良いと思ってやっている。焼却されている動物は有害鳥獣捕獲として掴まえられている獲物達。有害捕獲は猟のシーズン以外に行われる。シーズン以外は捕獲に適さない時期」と説明としながら「有害鳥獣の駆除は獲物の数を減らすことを目的としている。安定して農作物を収穫する為に現代の日本人が選んだ結果なので、受け入れざるを得ない」と受けとめている。

 

元々は、NHKでナレーションが一切ないドキュメンタリーとして放送された番組であり、千松さんは「ナレーションなしで番組として成立し、おもしろい」と思っていた。映画化にあたり、ナレーションは不要だと思っていたが、池松壮亮さんによるナレーションが入り「池松君にとっても大変だったと思う。実際に彼のナレーションが入った映像を見ると、彼の語り口の穏やかさが凄く良かった」と大満足。必要最小限のナレーションとなっており「観ている人が映像を受け容れやすい内容に絞り込んで、厳選してくれた内容だった。全く違和感なく受け容れられて、分かりやすい形に出来上がっていた」と気に入っている。東京で池松さんと同席する機会があり「凄く落ち着いていて、しっかりと喋っていた」と印象に残っており「決められたナレーションを数時間読み上げただけの存在。作品を観て何を感じたかも含め、映画に自分を出すより、僕がいる山の中にある一本の木のようなものとして見つめた結果、それについて説明したようなもの」と聞いていく。まさに真摯な姿に「そんな感じで捉えて言ってくれたからこそ、ああいう語り口になったんだろうなぁ。凄い俳優さんだなぁ」と感心していた。

 

千松さんには2人の子供がおり、獲物の解体を小1の頃からやっており「今でも楽しんでいる。家のお手伝いの感覚が強い」と受けとめている。「猟師を将来の職業だとは考えていない。興味がある範囲は教えるけど引き継がせたい意思はない」と考えており「子ども達には夫々に様々な関心を持って違う道を歩いてくれた方が人生的に楽しいんじゃないか」と冷静だ。千松さん自身は「彼らが自由に生きるようになった時、僕は更に山や川に行ってやりたいことをやれるようになるのか、彼等がやりたいことをフォローしてあげないといけなくなるのか」と楽しみにしている。

 

映画『僕は猟師になった』は、8月28日(金)より、京都・出町柳の出町座で公開。また、9月11日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、9月12日(金)より大阪・十三の第七藝術劇場と神戸・元町の元町映画館でも公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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