性的虐待の被害者が神父を告発、フランソワ・オゾン渾身の社会派ドラマ『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』がいよいよ劇場公開!
(C)2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS-France 2 CINEMA-PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE
虐待のトラウマを抱えながらも神父の告発に踏み出した、被害者たちの葛藤や希望を描き出す『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』が、7月17日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は、フランスで実際に起こった神父による児童への性的虐待事件を描いた作品。妻と子どもたちとともにリヨンに暮らすアレクサンドルは、幼少期にプレナ神父から性的虐待を受けた過去を抱えていた。アレクサンドルは、プレナ神父が現在も子どもたちに聖書を教えていることを知り、家族を守るために過去の出来事の告発を決意する。彼と同様に神父の被害に遭い、傷を抱えてきた男たちの輪が徐々に広がっていく中、教会側はプレナの罪を認めながらも、責任を巧みにかわそうとする。信仰と告発の狭間で葛藤するアレクサンドルたち。彼らは沈黙を破った代償として社会や家族との軋轢とも戦うこととなる。
本作は、『8人の女たち』『2重螺旋の恋人』のフランソワ・オゾン監督が事件を基にオリジナル脚本で挑んだ社会派ドラマ。メルヴィル・プポーをはじめスワン・アルロー、ドゥニ・メノーシェら演技派俳優が出演。第69回ベルリン国際映画祭で審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞した。
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映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は、7月17日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田、難波のなんばパークスシネマ、京都・二条のアップリンク京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸をはじめ全国の劇場で公開。
本作は、実際にフランスであったベルナール・プレナ神父による当時のボーイスカウトに在籍していた児童への性的虐待を描いている。取り扱う内容が常識を逸脱しているため、被害者側と加害者側の対話を中心にストーリーは展開され、出来るだけ感情を削ぎ落とし、事件の全貌や事実を見せていく。ストーリーのテンポと登場人物達の感情はコントラストに表現されており、名だたる映画監督として活動するフランソワ・オゾンの力量を十分に発揮した作品だ。
固定された主人公は登場せず、元・ボーイスカウトで被害者でもある大人達とその家族、パートナーが登場する。彼等は30年という月日が経ち大人になった現在も、性的暴行に苦しんでいた。大人になり家族を持つ者もいれば、底辺で生きている者、対人関係に問題を抱えた者等、様々な被害者たちが現れ、共通意識である”苦しみ”を滲ませる。30年を経ても消えない傷は癒えないが、誰からも理解されない憎悪をやっと今分かち合う。私たちが想像する以上に残酷な現実を演者一人一人が体現している。
『わたしはロランス』(2012)で圧倒的な演技力を見せつけたメルヴィル・プポー、『ジュリアン』(2017)『動物だけが知っている』(今秋日本公開)にて本作とは180度違う演技を披露したドゥニ・メノーシェ、「マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル2020」にて出演した4作品が同時公開して話題を呼んだスワン・アルロー等、現在のフランス映画界を魅了する素敵なキャストたちのアンサンブルな演技も見逃せない。特にスワン・アルローの演じたエマニュエルの存在には胸を掻き毟られるほど苦しくなってしまう。本作で2020年セザール賞にて助演男優賞を獲得し、その時のスピーチはアワード終焉間際にアデル・エネルが起こしたMeToo騒動へのスワン自身の意思表明と一致しており、彼やその周りが社会的に価値観を成熟させていることを証明した。
本作を鑑賞後、原題の『Grâce à Dieu』(神の恩恵により)という言葉の重さを噛み締めざるを得ない。同様に聖職者による”児童への性的虐待”をテーマにした作品は少数であるが『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)、『バッド・エデュケーション』(2004)等もあり、本作を合わせて観ると更に理解が深まるのでお勧めしておく。
from君山
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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