右翼も左翼も宗教も関係なく、なぜ様々な人と仲良く出来るのか…『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』中村真夕監督に聞く!
政治活動家の鈴木邦男に密着したドキュメンタリー『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』が7月10日(金)より関西の劇場でも公開。今回、中村真夕監督にインタビューを行った。
映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』は、異色の政治活動家である鈴木邦男の素顔に迫るドキュメンタリー。17歳の時、愛国党党員の山口二矢が日本社会党委員長を刺殺する映像に衝撃を受け、「愛国」に目覚めたという鈴木。大学時代には全国学協の代表にまで登りつめるも失脚し、その後、自身が右翼運動に引き入れた大学の後輩・森田必勝が三島由紀夫とともに自決したことをきっかけに、政治団体として一水会を立ち上げた。政治的・思想的な挫折と葛藤を繰り返す中で、鈴木は自らが訴えてきた愛国心さえも疑い、異なる意見や価値観を持つ人たちの言葉に耳を傾けるようになる。2年間にわたって鈴木の活動に密着し、彼の思想遍歴をたどりつつ、様々な人たちと交流を続ける姿を映し出す。右翼活動をともにした雨宮処凛、一水会代表の木村三浩、赤軍とも関係が深い映画監督の足立正生、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会の蓮池透、元オウム真理教の上祐史浩らが出演。
『ハリヨの夏』でデビューした中村監督。その後もフィクション作品を企画していたが、なかなか撮影まで進まなかった。そこで「ドキュメンタリーなら自分で撮影を進行できる」と気づき、撮り始めていく。鈴木邦男さんは中村監督の父親と知り合いで、前作『ナオトひとりっきり』のトークショーで登壇して頂いており交流があった。『ハリヨの夏』は全共闘の親を持つ女子高生の苦悩を描いた不思議な青春映画だったが、今作では1960年代を多様な思想から総括しようとしている。監督の周囲にいる著名人の中でドキュメンタリーが撮られていない人として鈴木さんを見つけ、カメラを向けていった。実際に撮り始めてみると、大きなトラブルもなく進行していく。”邦男ガールズ”と呼ばれる30~40代の女性に囲まれ叱られながら活動しており「普段は物腰柔らかで、とぼけている」と表現する。鈴木さんは人の話をよく聞いており「この世代のおじいさんは自己主張が激しく人の話を聞かないが、鈴木さんは逆で遜っていて、威張らない」と興味深く感じた。
右翼や左翼の思想を超越して国を愛する鈴木さん。自らをアナーキストだと思っており、中村監督は取材しながら、捉えどころがなかった。熟考しながら撮り進め「この人は、政治的殉教者になりたかった。(今でいえば)テロリスト的な人物に憧れ続けた」と受けとめていく。次第に「右翼も左翼も宗教も関係なく、なぜ様々な人と仲良く出来るのか、憧れてきたのか」を疑問を持ち、本作が展開されていった。結果的に鈴木さんと仲の良い方々が中心となったが、鈴木さんに対して批判的で堅い保守派の方への取材は断られており、心残りでしかない。エンディングテーマには頭脳警察の「ふざけるんじゃねえよ」が鳴り響く。頭脳警察のヴォーカルであるPANTAさんと鈴木さんは仲良しで、様々なイベントで共演している。元々は、中島貞夫監督による『鉄砲玉の美学』の主題歌として書き下ろされた楽曲。PANTAさんからは「今の鈴木さんには合わないんじゃないか」と後になって言われたが、中村監督は「鈴木さんの生き方に合致する歌詞だ」と押し通し、反骨精神のある鈴木さんに捧げている。
既に東京では劇場公開されているが、特に大きな問題は起こっていない。「あくまで鈴木邦男のドキュメンタリーなので、物議をかもす要素が無い」と自負しており、上映後のトークを毎回開催し、満席が続いた。鈴木さんは、昨年11月から公開直前まで入院していたが、ギリギリで退院し上映中の2週間は支援者の力もあり毎日登壇している。現在、中村監督は「怖い女性の話を制作したい」と願っており「ドキュメンタリーでは出来ない。フィクションだからこそ出来る女性のホラーを撮りたい」と未来に目を輝かせていた。
映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』は、7月10日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開。また、7月31日(金)より京都・烏丸の京都シネマでも公開。なお、神戸・元町の元町映画館でも順次公開予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!