ブルース・スプリングスティーンに刺激受けた学生描く音楽ドラマ『カセットテープ・ダイアリーズ』がいよいよ劇場公開!
(C) BIF Bruce Limited 2019
1987年のイギリス、サッチャー政権下の移民排斥運動などを背景に、パキスタン移民の青年が音楽に影響を受け、成長していく姿を描き出す『カセットテープ・ダイアリーズ』が、新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴う休業要請の緩和により、7月3日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『カセットテープ・ダイアリーズ』は、1980年代のイギリスを舞台に、パキスタン移民の少年がブルース・スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら成長していく姿を描いた青春音楽ドラマ。1987年、イギリスの田舎町ルートン。音楽好きなパキスタン系の高校生ジャベドは、閉鎖的な町の中で受ける人種差別や、保守的な親から価値観を押し付けられることに鬱屈とした思いを抱えていた。しかしある日、ブルース・スプリングスティーンの音楽を知ったことをきっかけに、彼の人生は変わり始める。
本作では、『キャプテン・アメリカ』シリーズのヘイリー・アトウェル、『1917 命をかけた伝令』のディーン=チャールズ・チャップマンが出演。監督は『ベッカムに恋して』のグリンダ・チャーダが務める。主人公に大きな影響を及ぼすブルース・スプリングスティーンをはじめとする音楽や、1980年代のファッション等も注目ポイント。
(C) BIF Bruce Limited 2019
映画『カセットテープ・ダイアリーズ』は、7月3日(金)より大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマ、難波のTOHOシネマズなんば、京都・二条のTOHOシネマズ二条、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸をはじめ全国の劇場で公開。
青春のどうにもならない悩みと、世の中のどうにもならない問題とがいっぱいに込められていて、観ていて苦しくもなるが観終わると爽快な気分になれるエンタテイメント。同じようなテーマを描いた傑作『ベッカムに恋して』の監督の作品だと知り、納得する次第。ハイスクールに進級して友達づくりに戸惑ったり、恋人ができないことに劣等感を感じたり。家族を取り巻く問題も、保守的な父親、裕福ではない家庭の経済的な問題、街中にあふれるネオナチやデモなどの人種差別、と不安しかない毎日の中で、主人公ジャベドが音楽に光を見出していく姿は生き生きとして気持ち良い。
本作では、英国内におけるパキスタンからの移民に対する差別がこれでもかと描かれており、行き場のないやるせなさと怒りが沸いてくる。映画の舞台は1987年のイギリスだが、人種差別に関する描写は他の国でも今の時代でも全く変わることなくあてはまってしまう。留学への夢を語るジャベドの「米国は出自を問わない。パキスタン人も自由に生きられる!」というセリフには複雑な気持ちにもさせられた。
原題の「blinded by the light」は、本作で象徴的に取り上げられるブルース・スプリングスティーンの曲名。直訳すると「光で目がくらむ」の意味だが、歌の歌詞からは「目の前が真っ白になるくらいの」感情の高まりやとまどいを表現されているようだ。闇の中を駆け抜けて、光で目がくらむ。この歌の歌詞を存分に受け止めるクライマックスに涙がにじむ。エンディングに流される映像と曲の演出にまで、優しさに満ちた素晴らしい作品だ。
fromNZ2.0@エヌゼット
「この町を吹っ飛ばしてやりたい」と歌うブルース・スプリングスティーンに傾倒するパキスタン系移民2世である主人公ジャベド。カレッジに入学した矢先、父が失業してしまう。恵まれた環境とは言えないが才能には恵まれた。先生や近所の住人に後押しされ、ペンを片手に作家として自らの可能性を切り開いていく青春映画。
ジャドベが妹に言う、「僕たちは悪い時期に悪い町の悪い家族に生まれたんだ」と。サッチャー政権による生活にあえがざるを得なかった人々の苦悩を浮き彫りにしている。さらに、父との確執、右翼による移民差別という複雑なテーマを時にはミュージカル風に、時にはシリアスに描いていく。夢を諦めようとゴミ箱に詩を投げ捨てたジャドベを救ってくれたのは1本のカセットテープ。彼の目の前をどれだけ開けさせ心を解放したのか、視覚的に表現されている。求められてもいないのに諦めず学生新聞に詩を投稿し続けるジャドベには、不思議と自分も頑張ろうと思えるのだ。自分を救ってくれるモノの強さを改めて感じられた。自分と向き合ってくれる親友、音楽を勧めてくれた新しい友達、味方でいてくれる恋人、才能をいち早く認めた先生、彼の周りには申し分ないほど素敵な人たちがいるのに、”父”に認められたいジャドベはずっと苦しむ。しかし自分の人生を諦めたくない。どうしても進みたい道がある。今を頑張っている人たちに是非、観て頂きたい。
『1917 命をかけた伝令』で素晴らしい演技を発揮したディーン=チャールズ・チャップマンが親友マット役で180度も違う演技を披露しており、今後も注目すべき俳優である。ジャベド役のヴィヴェイク・カルラは本作で初の長編での演技でありながら、初主演というには信じられない経歴の持ち主であった。”鉄の女’という異名を持つ、イギリス第71代首相マーガレット・サッチャーの政権は、低所得労働層の首をさらに絞めた政権であり、イギリスを理解するのにはとても参考になるテーマである。その時代を舞台にした映画は、『THIS IS ENGLAND』(2006)、『マイ・ビューティフル・ランドレット(1985)や『リトル・ダンサー』(2000)など評価の高い映画が名を連ねており、映画が好きな人ならば本作品と併せて是非観て頂きたい。特に『マイ・ビューティフル・ランドレット』はジャベドとは正反対のパキスタン系の青年が主人公であり、見比べてみるのも一考だ。
from君山
“君が好きになる音楽は今の時代のモノとは限らない。”
本作の舞台はバリバリの80’s。主人公のSONYのウォークマンから流れるPet Shop BoysのIt’s a Sinから幕が上がる。音楽が多様化を極めた時代、服装ひとつ見ても、どんな音楽を聴いているのか想像ができてしまう。例えば、劇中に登場する学生達のファッションにも「あの子は、シンディローパーを聴いていそうだな…」等、少しニッチな楽しみ方もできるのではないだろうか。音楽映画好きなら、チェックした人も多いであろう『白い暴動』とは時代背景も近いので別角度、別視点で当時のことを知ることができる作品となっている。
主人公は、”ブルース・スプリングスティーン”の音楽に出会い、世界の見え方が一変していく。しかし映画の中の世界の話だけではない。経験したことのある人は多いのではないのだろうか。「あんな作品も、こんな曲もあるのか!」「当時のインタビュー記事は…」と自分の手で過去を探り、時代を遡って行くような高揚感が本作には凄く感じられる。”あの感覚”が確かにあるのだ。音楽抜きに考えても、ブルース・スプリングスティーンを知らなくても、シンプルに感動できる物語となっている。楽曲の流れるシーンではミュージカル風であったり、リリックビデオ風であったりと、音楽の魅せ方にも飽きはこない。個人的には、スピーカーでなく、ウォークマンで自分だけで聴きながら、ハイレゾでなくても、メタルテープのちょっと贅沢なカセットでコレクションしたい、と思えてしまう音楽映画でした。エンドロールには、ブルース・スプリングスティーンの未発表曲も流れるので、最後まで席を立たないように!
from関西キネマ倶楽部
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!