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大人の遊び心に羨ましくなって観終わってほしい…『一度も撃ってません』阪本順治監督に聞く!

2020年6月23日

一度も人を撃ったことがない殺し屋の奔走を描く『一度も撃ってません』が7月3日(金)より全国の劇場で公開。今回、阪本順治監督にインタビューを行った。

 

映画『一度も撃ってません』は、『半世界』『』の阪本順治監督、『野獣死すべし』『探偵物語』の丸山昇一さんの脚本によるハードボイルドコメディ。ハードボイルドを気取る小説家の市川進。まったく原稿が採用されない時代遅れの作家である市川には伝説の殺し屋・サイレントキラーというもう1つの顔があった。しかし、彼は一度も人を撃ったことがなく、旧友である石田から依頼を受け、標的の行動をリサーチするだけだった。しかし、石田が中国系のヒットマンから命を狙われたことから、市川にも身の危険が迫る。18年ぶりの映画主演となる石橋蓮司さんが、冴えない小説家と伝説の殺し屋という2つの顔をもつ主人公を演じた。また、大楠道代さん、岸部一徳さん、桃井かおりさんと日本映画界を支えるベテラン俳優陣が顔をそろえる。

 

昨今の映画ラインナップを観ていると「僕の世代でも観たいと思える作品が少なくなった」と感じるようになった阪本監督。5,6年前から「自分が観たい作品を作りたいと思った時、その中に石橋蓮司さんがいる」と考えており「バイプレーヤーとしては知っています。でも、普段から付き合っていると、あの人の可笑しみはあんなもんじゃない」と断言する。「主人公として映画の可笑しみを背負ってもらおう」と意気込み、「皆が真剣に神輿を担いで石橋蓮司祭りを」と今作を企画した。「結果的にジャンルとしては喜劇になる」とその単純化を懸念し、今作では「演出で、喜劇に落とそう、と思ってはいけない。身内の笑いやギャグやアドリブを超えると、却ってスベってしまう」と喜劇の落とし穴を警戒する。「皆が様々なキャラクターを生真面目に演じること自体が可笑しい。キメようとすればするほど滑稽である」と受けとめ「蓮司さんのスタイリッシュで格好良い部分と可笑しみを両方備えた作品を作りたかった」と本作の狙いを話す。

 

主人公の市川は、トレンチコートを着てブラックハットを被ってバーに登場する。劇中には拳銃まで飛び出す。現代の日本ではありえない架空の設定であり「今の日本で何処にヒットマンがいますか?」と自らツッコミを入れ「架空性は映画が一番に得意とする分野。自由度があるぶん、越えてはいけない境界を意識し、注意を払った。自ら喜劇にしようと思わないことが良い方向に働いた」と納得している。出演者たちは「石橋蓮司と共演することの喜びと得るものがあるんじゃないか」と期待しながら集っており「誰もゲスト出演や友情出演だとは思っていない」と伝わってきた。

 

主要キャストは熟練俳優達が集結しているが、台詞はアドリブがほぼ無く脚本通りで撮られており「皆がどこまで許されるかの自由度を理解している。アドリブに見えるのは、この人達の存在自体がアドリブだから。長年、架空の世界でアナーキーに遊んできた演技には染みついた異端の香りがある」と分析。そんな拘りは、良く言えば”かっこよさ”であるが”悪あがき”とも捉えられる。阪本監督は「自分で”悪あがき”というから良い。人生の終わりが見えてきたとしても、今の自分達は収まりたくない。コンプライアンスなんか関係ない。どこかに自分達の存在理由がありまだまだ花を咲かせたい。周りから見れば悪あがきに見えるんだろうな」と冷静に語りながら「この映画の登場人物たちは、自分の存在理由を求めて、遊ぶことをやめない」と説く。あくまで「蓮司でなにかしようよ」という声が挙がったことが本作のきっかけであり「出演者の半分が原田芳雄さんの家によく来ていた人達。芳雄さんが繋いだ縁。まだ御存命であれば、強烈な役で出演していますよ」と思いを巡らす。

 

なお、熟練俳優だけでなく、若手俳優達も大いに出演している。寛 一 郎さんが演じた五木は、上の世代を理解出来ず、理解しようとも思わず、嘲笑っていく。だが「この役がないと、癖のある人間が勝手に騒いでいるだけの映画にしかならない。ひっぱたく奴がいないといけない。寛 一 郎の役があってこそ、自由に遊べる映画」だと解説。佐藤浩市さんと三國連太郎さんとの関係があった中で、阪本監督は寛 一 郎君を生まれた時から知っている。「彼が俳優を志した時、父親の名前で活躍しようとは思わなかったはず。彼なりの自問自答もあったはず。覚悟してこの業界に入った」と認識しており「同世代と共演することが圧倒的に多い。浩市は息子に『上の世代と演技を交わすことで学ぶことが沢山ある』と伝えたかった」と感じた。現場の様子について「浩市の方が寛 一 郎の前で緊張していてNGを出していた。寛 一 郎はいたって冷静に堂々と演じていた」と称え「蓮司さんは『俺の役をどんどん潰してくれ。お前が潰すことで俺の役が成立するんだから』と依頼したが、時々は『そこまでやらなくていい』と腹が立ったらしいけど」とまで漏らす。「浩市としては、どの作品で共演するかを考えていた。それで僕を選んでくれたのは嬉しかった」と喜んでおり「寛 一 郎は渡された台本を読んで『なんだ、親父とばっかりじゃん』と言っていたらしい。二人の背中を見ると似ているなぁ」と微笑ましく話していく。「寛 一 郎は、親父の芝居心や癖や役作りを見てきた中で、自分がどのような役作りをすべきかを見つけていく。今作のような大人の遊びに加わったことを喜んでいる」と感じられ「リハーサルを重ねて演技を積み上げていくタイプではないと感じた。早くに本番へと臨み、その瞬間で魅せるものを僕が切り取っていく。その演技は、とても新鮮なものだった」と回顧する。

 

他にも、市川から依頼を受ける今西を演じた妻夫木聡さんは、数シーンしか登場しない役ではあるが、撮影1ヶ月前から溶接や銃の扱い方について練習していた。阪本監督は「彼は『蓮司さんと向き合う時に粗相があってはいけない。自分の今を観てもらいたい』と思った。2人の共演によってシーンが成立するので『出番が少ないからといって、自分が気を抜くとシーンを壊す』と思っていた」と生真面目な役作りに驚き、まさに「石橋蓮司と共演するなら、すべて準備するのは当たり前のこと」という意識の高さを感じていく。また、中国系のヒットマンを演じた豊川悦司さんは独特の雰囲気を醸し出したが「撮影技師の儀間君のパートナーは香港出身。彼女と香港、中国本土にいる親戚一同に同じ台詞をテープに吹き込んでもらって、その録音素材を豊川君に渡した」と明かした。俳優達が夫々に気概を見せ、6,70代と4,50代と2,30代と三代に渡った役者達による共演が本作の見ものとなっている。

 

また、新進気鋭の若手監督であり俳優の二ノ宮隆太郎さんも出演。阪本監督は「スター映画ではあるけど、誰これ?という強烈なキャラクターが出演した方が映画は豊かになる」と理解しており、広く知られている俳優だらけではなくニューフェイスも入れたかった。現場での二ノ宮さんについて「蓮司さんの前ではド緊張していて、物凄く寒いのに汗かいていた。退廃的な匂いがある」と感じ取り、石橋蓮司さんも褒めている。最近の若手俳優について「みんな芝居が上手いので、映画を観ているだけではその人の素の部分が分からない。実際に対面しないと、把握できない」と告白。例えば、映画祭で出会った池松壮亮さんを挙げ「業界への提言を持っていることに気づかされておもしろい役者だなと思った」と話した。さらに「生意気なのは(村上)虹郎。幼い時しか会っていないのに、俳優になって再会するなり『久しぶり~』って。悪いことではないし嬉しいのですが」と呆れながらも話す。これまで様々な俳優に出会ってきたが「指示に応じてくれる俳優も嬉しいけど、反発してくる奴やある種の生意気さを持っている奴に『畜生!』と思いながら、そういう俳優を演出したくなる。俺をビビらせてくれる若い俳優。森山未來など、慇懃無礼でおもしろい。一筋縄でいかない方がおもしろい、疲れるし、ぶち切れるけど」と正直に語ってくれた。

 

今作の撮影を振り返り「ラストシーンは背景も含め狙い通りに撮れた」と気に入っており「大人の遊び心に羨ましくなって観終わってほしい。が、昭和生まれの人間が集った古き良き時代の話にはしたくない。匂い立つけど、画作りや色や音楽などを含めて、今の映画としてスタイリッシュにしたかった。全体像として喜劇調なんだけど格好良い。脚本の丸山さんもそれを求めていた。うまくいったと思う」と太鼓判を押す。なお、音楽は安川午朗さんが手掛けており「格好良いジャズの音を作ってくれた。この映画の音響はあえてモノラル。映画館のサラウンドスピーカーを一切使っていない。センタースピーカーしか使っていない。ジャズにはモノラルが合っている。」と解説。「皆の覚悟が必要でした。いまや音楽でも効果音でもモノラルに時代遅れを感じ、なんでもかんでも立体的にしか音響を構築しない。それをあえて避けて、逆に豊かな音設計が出来たと思う」と自信があり「ジャズの切ない感じと奮い立たせる感じのその両方を求めた。登場人物たちの悲喜こもごもを一緒くたにしたような音楽を」と思いを以て実現した。他にも「カウンターでの談義シーンは動物園で動物をそのまま撮っているようで、他にはない可笑しみが溢れていた」と満足している。「この演技人たちなら、ワンカットである程度の時間を見せても飽きないだろうな。一瞬たりとも飽きさせない」と安心し「堂々と固定カメラ1カットで、そこに細かなカット割りはいらない。お互いを認め合っているからこそ、少しズレてもその間合いを補完し合える」と信頼していた。ベテラン俳優達の共演について「旧知の仲だからこそ、映画的であることを確認しあいながら追求してくれる。長回しをしても、演劇的にはならない」と監督ならでは醍醐味を堪能していく。

 

近年はコンスタントに作品を公開している阪本監督。次回作は既に撮り終えており、現在は編集中だ。その内容について伺うと「不気味でゾッとするようなSFです」と話す。さらに深く内容を知りたいが「それ以上は云えない。『Us』とも違いますね。『第9地区』とも違って…うまく言えないです」としか言ってくれない。「円盤は出て来ません。現代劇ですけど。僕がやりたかった世界ではあるんです。僕が『SFをやる』と言い出すと周りから『何バカなこと言ってるの』と返されてしまう」と打ち明け「やっと強引に『団地』を作りましたが、あれはユーモラスなSFでしたね。あのSFは”阪本・藤山”の略なんです。今度のSFは”阪本フィクション”の略です…来年をお楽しみに~」と期待せずにはいられない。現在の制作体制について「キノフィルムズさんがパートナーでいてくれて『原作ものではなく、オリジナル作品で頼みます』と言ってもらい嬉しい。オリジナル作品を制作して配給していく指針に甘えてやっています」と語った。映画ファンは今後の展開も要注目だ。

 

映画『一度も撃ってません』は、7月3日(金)より全国の劇場で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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