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現代社会にある絶望をどう変えていくべきか…『子どもたちをよろしく』寺脇研さんに聞く!

2020年3月12日

東京近郊の北関東のとある街を舞台に、現代の子供たちを取り巻く、社会に蔓延する闇をあぶり出していく社会派ドラマ『子どもたちをよろしく』が関西の劇場でも3月13日(金)より公開。今回、本作の企画プロデュースを担う寺脇研さんにインタビューを行った。

 

映画『子どもたちをよろしく』は、子どもたちを取り巻く社会の闇を繊細かつ鋭く描き出した人間ドラマ。北関東のとある街。デリヘルで働く優樹菜は、母親の妙子と義父の辰郎、辰郎の連れ子である稔と4人で暮らしている。辰郎は酒に酔うと妙子と稔に暴力を振るい、優樹菜には性暴力を繰り返した。妙子はなす術もなく、見て見ぬ振りを続けている。稔はそんな父母に不満を感じながら、優樹菜に淡い思いを抱いていた。一方、優樹菜が働くデリヘルの運転手・貞夫は、妻に逃げられ重度のギャンブル依存症に陥っている。息子の洋一と暮らす家に帰るのはいつも深夜で、洋一は暗く狭い部屋の中で1人、帰ることのない母親を待ち続けていた。同じ中学校に通う稔と洋一は以前は仲の良い友人だったが、今は稔たちのグループが洋一をいじめの標的にしている。ある日、稔は家の中でデリヘルの名刺を拾う。姉の仕事に疑問を抱いた彼は、自分も洋一のようにいじめられる側になるのではないかと怯えるようになり…
本作は、元文部科学省の寺脇研さんと前川喜平さんが企画を務め、「ワルボロ」の隅田靖監督がメガホンをとっている。

 

1986年に公開された同名タイトルのドキュメンタリー映画を寺脇さんは意識しているが、隅田監督から本作のタイトルを提案された。『子供たちをよろしく』は、35年前におけるアメリカのティーンエイジャーについて描かれたが、今の日本とは全く状況が違う。しかし「子どもたちをよろしく」と云いたくなり、このタイトルを採用した。なお、タイトルロールは本作の最初と最後に登場しており、強い意志を提示している。映画の冒頭には入れる必要があるが「『このタイトルは自分達に向けてのメッセージだったんだな』と認識してもらう意味でも最後にもう一度掲げている。これは監督と私の共通した意向だった」と明かす。前作『ワルボロ』では、不良中学生達の青春を描いた隅田監督。寺脇さんは、中学生をしっかり演出できる監督であると認識しており「子供の演出は簡単ではない。子供を演出する名士として知られている澤井信一郎譲りの腕前があるので、しっかり演出できる」と期待し、その実力を発揮してもらった。

 

子どもたちのいじめ問題を解決するために「誰かに責任を押し付けている場合じゃない。全ての大人が問題意識を以て自分が出来ることをやらない限り解決しない」と、教育問題のプロとして文部科学省で働いている時に寺脇さんは嫌という程に理解していく。元文部科学省の前川喜平さんも同じように取り組んでおり「皆に現状を伝え、参画してほしい。役所が云ったら変な話になる。私も前川も民間人になりました。皆さんに映画という形でこの子どもたちを観てもらい『どう思いますか。よろしく頼みます』と伝えよう」と本作が企画された。

 

様々な子どもたちによる事件を知っており、その中から寺脇さんは多様な要素を取り入れたが、中学2年生をベースにしている。「成人するため体と精神が発達しているが、非常に不安定。自我が目覚め、成長しているが、まだ自立する力がない。そんな中で様々な葛藤があり、ケダモノ的な部分もある」と認識しており、自身も中2の時に自殺を図ったことを告白。「途中で止めたから今も生きている」と語り「大人が自殺する場合は覚悟の上で行う。中2は非常に危ない。衝動性が強く、その瞬間は理性がぶっ飛んでしまって、後先考えずにやってしまう」と述べていく。だからこそ「慎重に丁寧に接していくことが大事」と主張する。なお、ショッキングな結末を迎える本作。この展開を最初から決めており「結末は変えられない。希望はなく、絶望だけがある。それをどう変えていくのか」と掲げた。「現実に貧困で死ぬ人を作らない為には、貧困の為に死んでいく人を見せなきゃならない」と踏まえ「映画の中では、現実にやっているわけではない。フィクションの中で描かないと伝わらない」と明確に表現させている。

 

現実の社会では、子供の貧困が問題になっており、映画にも取り入れられるようにもなった。だが、あくまで自主制作であり「自主映画だからこそ実現できる」と寺脇さんは話す。「今の日本映画にはないタイプの映画を作りたい」と日頃から考えているが「自主で作っている人達はいるけど、残念ながら若い人達が作るから、まだ未熟」だと捉えている。今作は「熟練した日本映画の腕で、隅田さんのような昔の日本映画のDNAを受け継いできた人に撮らせよう」と一念発起した。「最近の日本映画で使いたがるナレーションを一切使わない。字幕を一切使わない。回想シーンを一切使わない」と申し合わせ「無理矢理ではない。隅田が学んでいる映画作りを通した拘りがある」と説く。澤井さんから学んだ演出として「日が変わることを明確に示している」と挙げ「日本映画の正統な演出を忠実に踏襲している。日本映画の良き伝統を本作の中で観られる」と、玄人志向の映画ファンに向けても掲げている。まさに、これから映画を撮ろうと思っている若い人に観てもらい「映画のスタンダードを知ってほしい」と願っていた。なお、子役の演出については「子役に好き勝手にやらせないでしっかりと口伝えで指示する。ベテランの俳優には自由に任せるが、肝心なのは子どもたち。勝手な演技は許さず一から十まで指導したのが活きている」と絶大な信頼を寄せており「子どもたちが良かったね」とコメントを受けるのは「本人たちの演技力と演出がもたらした」と喜んでいる。印象に残るラストシーンは一番最後に撮影しており「監督が物凄い緊張感で子どもたちを追い詰めて、台詞を言わせている」と振り返った。

 

映画『子どもたちをよろしく』は、3月13日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田と京都・九条の京都みなみ会館、3月14日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。なお、3月14日(土)にはテアトル梅田で、3月15日(日)には元町映画館と京都みなみ会館で、寺脇研さんを迎え舞台挨拶の開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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