”人間は関係性によって出来ている”と菊地信義さんは語る…『つつんで、ひらいて』広瀬奈々子監督に聞く!
装幀者・菊地信義さんの仕事を約3年にわたって追いかけたドキュメンタリー『つつんで、ひらいて』が関西の劇場で1月11日(土)より公開。今回、広瀬奈々子監督にインタビューを行った。
映画『つつんで、ひらいて』は、『夜明け』の広瀬奈々子監督が、ブックデザイン界の第一人者・菊地信義を追ったドキュメンタリー。ブックデザイナーの菊地信義は独立から40年、中上健次や古井由吉、俵万智、金原ひとみらの著作1万5000冊以上の装幀を手がけ、日本のブックデザイン界をリードし続けてきた。インターネットが日常的になり、デジタル全盛の時代にあって、紙の本にこだわり、紙と文字を触りながら手作業で一冊ずつ本をデザインする菊地の指先から、印刷、製本に至る過程を見つめ、ものづくりの原点を探っていく。
父親が装幀家だっ広瀬監督。だが、装幀については、漠然とした理解しかなく、本のカバーを作る人だと捉えていた。監督が20歳の頃に父親が亡くなり、改めて「装幀とはどんな仕事だったのか」と疑問に思い始め、家の本棚にあった菊池さんの『装幀談義』を読んでみることに。その内容は非常におもしろく、菊池さんの思想に次第に惹かれていく。芸術家ではなく、あくまで、職人であろうとする姿勢から装幀という職業が腑に落ちてしまう。「器であることに自覚的。制約も当然あるし、自己実現が目的ではなく、テキストがあってこそ成り立つ。テキストを外側に引っ張り出す表現」こそが装幀だと理解し「自分の作家性や個性を本に込めていない姿勢が素晴らしい」と感銘を受けた。
2014年12月に菊池さんに取材を依頼したが、第一声は「僕は映像が嫌いだ」。これまで、ほとんどの取材は断っており、唯一受けた取材では、作られたシナリオに当てはめるスタイルが求められてしまい、性に合わなかった。だが、1か月後にお会いした時は態度が一変しており「良いことを思いついたんだ」と云われ「頭部に小さなカメラをつけて撮影してはどうか」と嬉しそうに提案されてしまう(実際には行っていない)。まさに「厄介な人だな」と感じざるを得なかった。初めて事務所で実施した撮影では、装幀についてイチから説明し講演会の如く2時間近く一気に喋られ、圧倒されてしまった。「言葉で武装し哲学がある人なので、これだけを撮っていくのはマズい」と気づき、「解説ではなく、菊池さんの仕事をしている指先と紙を出来る限り撮りたい」と趣旨を伝えていく。また、必要に応じて聞くので仕事に集中してもらうことをお願いした。やはり、紙を触っている手が最も雄弁に装幀を語っているので、焦点を絞った撮影となっている。
装幀を映像で紐解いた本のようにしたかった広瀬監督は、机上で要素出しを行い、言葉で書いて当てはまるようなシーンを組み合わせながら本作の断片を並べていった。装幀を担った本の作り方は全て繋がっており「どのように繋げるとおもしろく見えるか」と意識している。各章は、ひらがなを用いた動詞にしており「タイトルをつけてしまうことで、当てはまらないシーンも出てくる」と気づき、出来るだけ抽象度の高い言葉を選んでいった。なお、学生時代は制作会社でアルバイトをしており、是枝裕和監督による制作会社「分福」に所属して以来、先輩監督達の姿を見て、TV番組「きょうの、あきない」等の制作にも携わっており、ドキュメンタリーは身近なものとなっている。
今作により、装幀の仕事を取材し、菊池さんの姿勢から常に刺激を受けており「自分がこうしたいという姿勢を貫くことが正解ではない。イメージと違ったものを好意的に受けとめている姿勢には見習いたい」と話す。本作最後のインタビューでは、受注仕事における創造性について尋ねており「人間は関係性によって出来ている」と言って頂けたことが救いになった。「今後の自分自身のものづくりにおいても大切に携えていきたい言葉」だと述べ、菊池さんに本作を観てもらい「『僕は君に装幀された』と言われ、腑に落ちました」と嬉しそうに語った。
映画『つつんで、ひらいて』は、1月11日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場、神戸・新開地の神戸アートビレッジセンター、1月24日(金)より、京都・出町柳の出町座で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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