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自らの個性を発揮して情熱を以て演じている姿は美しかった…!『RUN!-3films-』津田寛治さんと土屋哲彦監督に聞く!

2020年1月10日

はみ出し者達による3つの物語が紡ぐ、疾走感溢れるオムニバス映画『RUN!-3films-』が1月17日(金)より関西の劇場で公開される。今回、3つの短編全てに出演している津田寛治さんと土屋哲彦監督にインタビューを行った。

 

映画『RUN!-3films-』は、何者にもなれなかった男を主人公にした疾走感あふれる短編3作品を集めたオムニバス。深夜のコンビニを舞台に店員と強盗の記憶の掛け違いを巡る2人の戦いを描いた「追憶ダンス」(主演:篠田諒、木ノ本嶺浩/監督:土屋哲彦)、人に言えない秘密を抱えた男たちの奇妙な関係を通して喪失を描いた「VANISH」(主演:松林慎司/監督:畑井雄介)、夢を捨てきれない売れない役者が現実と幻想の境界線を疾走する「ACTOR」(主演:黒岩司/監督:土屋哲彦)の3編から構成。津田寛治が3作品すべてに出演する。

 

芸能事務所ラ・セッテが中心となって制作された本作。現在から5年前、当時所属していた黒岩司さんは、出演した舞台の3ヶ月分のギャラが纏まって入り「このお金で僕が主演の作品を作ってください」と言い出した。とはいえ、低予算で何を撮ればよいか話していく中で、津田寛治さんがエチュード(即興劇)を提案。以来、月に1,2回程度のペースで半年間のワークショップを実施し、毎回6時間もエチュードを行った。津田さんとしては、黒岩さんがどんな俳優かを見極めて、物語作りのきっかけにする為の提案だったが「実力不足で、何も出来ずじまい。反省会では先輩に怒られ…、すると次回はやり過ぎてしまい空回り…」と土屋監督は振り返る。とはいえ「何度空回りしても、理想に向かって必死にもがいている黒岩の姿が素敵だ」と感じ、売れない俳優が理想の演技に向かって狂気に駆られていく「ACTOR」のストーリーを構想していく。「ACTOR」完成後には、畑井監督 の企画「VANISH」を制作。また「追憶ダンス」は篠田諒さんが新しく事務所に所属し「篠田が出演する作品を撮ろう」と企画し制作された。元々は同じ作品にまとめる予定がなかったが「3作品を連ねたことで、それぞれの物語に新しい視点が生まれた」と満足している。

 

所属事務所の若手俳優達が命懸けで頑張っている姿を観ながら、津田さんは「普通の芝居ではなく、自らの個性を発揮して情熱を以て演じている」と感じ「美しかった」と太鼓判を押す。「ACTOR」の黒岩さんについては「本当に空回りしていた。撮影現場で何もないところで転倒したあげく、救急病院に運ばれてしまった」と明かし「けどそのカットも本編に組み込まれて、まさにドキュメントとドラマが淡く混じり合ったような作り」と驚いている。土屋監督も、黒岩さんを半年間も見続けてきたので、台本が完成した時には「黒岩の為だけでなく、僕自身も良い作品が撮れる。周りも素晴らしい俳優で固めましたので、おもしろいものになる」と確信しクランクインした。「VANISH」に主演した松林慎司さんについては「どんな現場でもそつなく演じられる俳優だが、初主演作として、普段の彼ではなかった」と思い返す。完成に向けて一丸となって作品作りに参加していた松林さんの姿を傍で目の当たりにして、感謝している。当初「VANISH」は長編を想定していたが、設定の壮大さゆえ実現は難しく、まずは短編として制作された。CGを使わずアナログな手法で挑んだが「却って作品の個性を作り出し、俳優の演技力も発揮できた」と満足しており「CGを使うと他と同じような作品になってしまう」と呈する。記憶の掛け違いを見事に昇華した「追憶ダンス」は、土屋監督の体験に基づく。地元に帰省し野球部の仲間と再会した際に、とある重要な試合についての皆の記憶が、自分の記憶とは全く違う内容だったそうだ。モヤモヤした気持ちを抱えながら、東京に戻ってきた日に本作の脚本打合せがあった。共に脚本を担った池谷さんも記憶にない同級生から電話が掛かってきたことがあり、二人はそんな体験をモチーフに物語を作り上げていった。また、今回は短編映画ならではの面白さを目指して「短い時間の中では裏切りがある内容が良い。でもそれだけでなくテーマがしっかりと支えている必要がある」という考えのもと、20数ページの台本を設計していった。

 

バイプレーヤーとして名高い津田さんは、主演と脇役を分けて考えていない。以前、主演経験がない時は「いつかは…!」と思っていたが、実際に主演を経験してみて「違いはない。物語を皆で一緒に作り上げていく。スタッフとキャストの垣根を越えていくことに変わりはない」と実感。俳優として自身がどれだけ輝けるかも大事ではあるが「まずは物語づくりを皆と一緒にやっているんだ」という意識を大事にしている。表舞台に立つ俳優も裏方で頑張っているスタッフにも違いはなく「日常を忘れて同じ夢を沢 山の人と見る作業をしている意識さえ忘れなければ、ずっとやっていける」と認識できた。土屋監督は「津田さんは現場でどんどんアイデアを出してくれるし、その役にとっての“正義”を貫く。だから映画が分厚くなる」と感謝している。津田さんは「悪役だからと云って自分まで演じる役をクソ野郎のように思ってはいけない。薄っぺらな役となり、本当のクソ野郎にすらならない。」と踏まえた上で「演じる人間だけは『クソ野郎じゃない。正しさがある』と思って演じ、生き様だと思える気持ちが大事。役にとって懐に飛び込めるのは本人だけ。見捨てずに演じた方が悪さは深まる。それでこそ主役も引き立つし作品が面白くなる」と話す。なお、尊敬している俳優は大杉漣さんだと語り「どこかで大杉さんの背中を追っかけている。今も変わらない」と目を輝かせていた。

 

映画『RUN!-3films-』は、1月17日(金)より京都・九条の京都みなみ会館、1月18日(土)より大阪・十三のシアターセブンと神戸・元町の元町映画館で公開。なお、1月17日(金)と1月18日(土)には、篠田諒さん、木ノ本嶺浩さん、松林慎司さん、黒岩司さん、津田寛治さん、土屋哲彦監督、畑井雄介監督、1月19日(日)には、松林慎司さん、黒岩司さん、土屋哲彦監督、畑井雄介監督が登壇する舞台挨拶が各劇場で予定されている。

普段の私たちが頼りにしている記憶がどんなに曖昧なのか、相手の強い口調につい同調し、あたかも「そんな過去も」あったような気がしてしまう本能的な誤解を描き出している「追憶ダンス」。最初はされるがままだったコンビニ店員が、今度はナイフを手に取り立場の逆転が起こる場面を機に、話が面白く広がっていく。怒涛の序盤のおかげでオチがとても愉快だ。

 

ヴァンパイアでも人間でもない怪物を人間味のある台詞で表現した「VANISH」。彼らの捕食対象を日本における年間失踪者に関連付けるという発想と、ヤクザと手を組む死体処理係を登場させることが日本ならではのアイデアを結びつけていくとは…。

 

「actor」は、印象に残る演出(ネタバレになってしまうので深くは言えないが、とてもギミックが効いている)のおかげで最後まで気が抜けない展開になっている。観終わった後に「え…?結局…?」と自問してしまうような面白さがこの映画には秘められている。それは主演である黒岩司という俳優の演技の上手さも貢献しており、彼の演技力は凄まじかった。観ていて心が痛くなるような、思わず自分自身に重ねてしまうような場面もあり、応援せずにはいられない。次の出演作を期待する俳優だ。

 

本作品は三者三様の物語だが、「追憶ダンス」と「Actor」の監督が同じであるのが興味深い。それぞれ全く別のテイストでとても楽しめる。

from君山

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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