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BL(ボーイズライフ)を優しく受けとめてくれたら…『his』アサダアツシさんと南和行さんを迎えトークセッション開催

2019年12月20日

同性愛者であることを隠して生きる青年が恋い焦がれる男性と、その子供と生活する中で抱く葛藤を描く『his』が2020年1月24日(金)より公開。12月20日(金)には、立命館大学でアサダアツシさんと南和行さんを迎え、トークセッション付き上映会が開催された。

 

映画『his』は、男性同士のカップルが親権獲得や周囲の人々への理解を求めて奮闘する姿を描いたドラマ。春休みに江ノ島を訪れた男子高校生・井川迅は、湘南の高校に通う日比野渚と出会う。2人の間に芽生えた友情はやがて愛へと発展するが、迅の大学卒業を控えた頃、渚は「一緒にいても将来が見えない」と別れを告げる。出会いから13年後、ゲイであることを周囲に知られるのを恐れ、田舎で孤独な生活を送る迅の前に、6歳の娘・空を連れた渚が現れる。居候させてほしいという渚に戸惑う迅だったが、いつしか空も懐き、周囲の人々も3人を受け入れていく。そんな中、渚は妻と娘の親権を争っていることを明かし、ずっと抑えてきた迅への思いを告白する。
迅を『映画 賭ケグルイ』の宮沢氷魚さん、渚を『沈黙 サイレンス』の藤原季節さんが演じ、『愛がなんだ』の今泉力哉さんが監督を務めた。

 

上映後、本作の企画・脚本を担当したアサダアツシさんと監修を担当した弁護士の南和行さんが登壇。本作の核心を突くトークセッションとなった。

 

近年、LGBTQをテーマにした作品が多くあり、アサダさんは、可能な範囲で観ていく。あくまでフィクションとして楽しんだが「リアリティを以て踏み込んでいる作品は日本映画ではあまりない」と認識。今作では、リアリティを大命題にして考えていった。今泉監督とは6,7年前からSNSで繋がっており「会って話すこともありました。特に『一緒に仕事をしたい』という話はしておらず、どうしようもない恋愛話を聞いていました」と明かす。2年前に本作を企画した際に、今泉監督による男性を主人公にした恋愛ストーリーがないと気づき「彼の中から出てこない話を手掛けてもらうと、おもしろいかな」とオファー。あっさりと応じて頂いたが「初めての男同士による恋愛、両想いになっている設定や裁判シーンがあり、やったことがないシーンがてんこ盛り」と不安も伺えた。

 

裁判シーンについては、南さんが監修として関わっている。離婚裁判は、弁護士として離婚案件は多く担当しているが「実に興味深い」と話す。お互いの話し合いが上手く出来れば離婚は成立するが「なぜ裁判になるのか。話し合いがこじれて裁判になるので、お互いに妥協していない」と話し「結局、勝っても負けてもお互いに傷ついて終わる」と説く。「証人尋問で激しくやり合うシーンは弁護士の個性が出ている」と感じたが、裁判の展開についてアサダさんから脚本を見せてもらい「観た人は誰のことも嫌いにならずに済む」と驚いた。アサダさんは最初から裁判に向かう流れを考えており「子供の登場を考えると、お母さんが必要になる。ただならない状況は作らざるを得ない」と解説する。

 

なお、BL(ボーイズラブ)に関する作品だと受けとめられがちの本作だが、当初、アサダさんは「LGBTQを扱った真面目な話です」と説明していた。だが、途中からは「ボーイズラブではなくボーイズライフであると伝えるようにしました。ラブだけを描いておらず、人生をしっかりと描いたBL(ボーイズライフ)です」と云っている。同性カップルが子供を育てることについて、南さんは「大人の女性同士で暮らしている人達が実子を育てているケースはよく聞く」と踏まえた上で「男性同士の場合、本当に親として責任を持って一から育てていくことは現在の日本社会では難しい」と諭す。同性愛者であることがバレて生きづらくなった相談を多く受けており「多くの同性愛者にとって、自身のことが知られる瞬間は緊張感を持っている。翻って、子育ては辛いんじゃないか」と冷静に語る。

 

迅と渚が13年前に出会うストーリーは名古屋テレビのドラマで今春に放送された。17歳の2人が出会い、映画では大人になった2人が再開する。アサダさんは「同じ役者をキャスティングして制作出来たら」と考え、スタッフ皆で公開時のトレンドを練りに練って、柴原プロデューサーから宮沢氷魚さんを挙げてもらう。皆が賛同して、新しい才能に懸けたくて宮沢さんに熱意を持ってオファーし、台本を読んで気に入ってもらい出演して頂いた。また、受けの芝居が出来る相手としてこれから伸びてくる俳優として藤原季節さんは印象に残る役を多く演じており「2人の組み合わせは良かった」と納得している。「二人とも役者として真面目」だと感じており、初顔合わせでは、宮沢さんから熱心に質問してもらった。藤原さんにとっては初めて尽くしの役だったが熱く演じており「今泉監督は熱く激しい演技が嫌いなので、熱いけど熱くならないように演じてもらった。2人は作品に対して真摯に向き合ってくれた」と感謝している。また、迅と渚に関わった人達の話を作りたかったアサダさんは「渚の奥さんである玲奈の話はキッチリと作り上げたかった。2人に関わった人間がどのように変化していくかを描くことに映画の意味があり、タイトルに様々な意味を込めている」と明かした。

 

最後に、南さんは、本作のスタッフでは唯一関西から携わった者と認識し「関西宣伝隊長として頑張ります」と宣言。アサダさんは「様々な意味で生きづらさを抱えている人達が、この映画を観て、考え方を一つだけでも変えるだけで楽になれるんじゃないか」と提案し「拘っていたことを外してみたら、意外と世の中に優しく受けとめてくれる人達がいるんじゃないか。何かにとらわれず、こうあるべきという考え方を外してもらえると制作者として嬉しい」と伝え、トークセッションは締め括られた。

 

映画『his』は、2020年1月24日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、難波のなんばパークスシネマをはじめ、全国の劇場で公開。

今泉監督は本作のテーマをLGBTQだけに留めることなく、これまでにない形で誠実に向き合ってくれた。生活の様子も揉め事も葛藤も全て生々しくて、きゅうっと胸が苦しくなる。愛しい人と繋がることが、こんなにも難しくなるなんて…この世界にわかりやすい敵なんていないから、余計苦しい。マイノリティは、苦しみながらも戦うしかない。裁判所でのやり取りを終えた後の渚のセリフには虚を突かれた。彼らを特別視していたかもしれない。

 

最後のシーンはたまらなく眩しかった。何気ない日常のはずなのに。奇跡なんて散々ドラマで見てきたはずなのに。どうして涙が止まらないんだろう。

fromナカオカ

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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