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友川カズキさんはフレームにとらわれていない、だが表現者として確固としたスタンスがある…『どこへ出しても恥かしい人』佐々木育野監督に聞く!

2020年4月2日

大島渚や中上健次ら文化人を魅了した孤高のアーティストで詩人、画家の友川カズキさんの音楽とギャンブルの人生を見つめたドキュメンタリー『どこへ出しても恥かしい人』が、4月3日(金)より関西の劇場でも公開。今回、佐々木育野監督にインタビューを行った。

 

映画『どこへ出しても恥かしい人』は、歌手・画家・詩人としてカルト的人気を誇るアーティスト、友川カズキさんの競馬狂いの日々とその合間の表現活動を追ったドキュメンタリー。1974年にレコードデビュー、その後画家としても活動を始め、1985年に初の個展を開催。その多彩な表現活動は、作家・中上健次や映画監督・大島渚ら多くの芸術家・文化人を魅了したが、広く大衆に受け入れられることはなく、現在も川崎の小さなアパートで粛々と暮らしている。20年来、競輪にどっぷりのめり込んでいる彼は、1日の大半を競輪場か家でのレース予想に割いている。そんな友川の2010年夏に密着し、テレビの前や競輪場で車券を握りしめて叫ぶ姿、近所の公園で水浴びをする姿、絵を描き、ライブで歌う姿など、その生活の一部始終をカメラに収めた。

 

友川カズキさんについて、佐々木監督は「世の中における善悪に対する判断の範疇からは自由な人。フレームにとらわれていない」と印象を受け、稀な人として関心を持った。そんな方に対して、『どこへ出しても恥かしい人』という友川さんの楽曲名を用いたタイトルを名付けている。タイトル候補は「生きてるって言ってみろ」を含め様々にあったが、最終的に「映っている友川さんの姿と一番マッチしている」と直感。「結局、いつまでも戦い続け負け続けているから恥ずかしいのかな」と気づいた。現在のご時世において「自ら負ける戦いは避けがち。負けると分かっているなら最初から戦わない」ことが風潮であると鑑みるが「友川さんは負けると分かっていても戦っちゃう人。そういう生き方もアリなんじゃないのかな、肯定していきたい」とフォーカスを当てている。友川さん自身もこの捉え方に納得し喜んでおり「弱さを隠している人ではない」と感じた。

(C)SHIMAFILMS

 

だが、フォーカスを当てているが、画の中では友川さんを中心に映していないシーンが本作では多々見られる。佐々木監督は、今作を通して「友川さん自身の姿よりも、友川さんが何を見ているのか、友川さんを包んでいる空間をしっかり撮ろう」と意識していた。却って「後ろ姿で魅せることにより、友川さんの動きが強調されている部分もある」と編集段階から魅力を感じていく。むしろ、監督自身がよくスクリーンに映っており「どう写し込むかは絶えず撮影時はスタッフ間での打ち合わせでも何回も繰り広げていた。どれぐらい入り込むべきか」と手探り状態ながらも撮影を進めていった。勿論、最初から友川さんと対立する軸として監督がいるとは考えていない。友川さんと仲良くなるきっかけとして、お互いに好きな作家の西村賢太さんを挙げ「西村賢太さんは藤澤清造さんの作品に傾倒して同化していくようなスタンス作品が初期に多かった」ことを意識し「友川さんの姿に自分の思いを投影しながら、同化していくイメージが個人的にはあった」と振り返る。

(C)SHIMAFILMS

 

「破綻しているものが好き」と友川さんは話す。とはいえ「表現者としてしっかりしている」と佐々木監督は感じており「あまり破綻を受け入れない部分もある。無暗に人を傷つけるようなコメントをしない。気遣いもしっかりしている」と信頼を寄せていく。ご家族とは離れて暮らしているが「連絡する頻度が少なくても、仲はいい」と見受けられ「最近、息子さん達は関東圏内で近くに住んでおり、よく会っているんじゃないかな。家族の距離感は安定していますね」とプライベートも撮りやすかった。LIVEシーンについては「魔法にかかったような時間を撮れた」と告白。あえて画面の切り返しを行わずに見せており「これで魔法を共有できる。画的にも、しっかり撮れていた」と納得している。1ヶ月をかけて集中して撮影していき、毎日のように友川さんの住まいに通い、朝から晩まで過ごしており「実際に追いかけてみると、日常の大半は、競輪。ミュージシャンを意識する瞬間は、少なくとも傍目にはない」と率直に話す。撮影後の編集については「最初のフレームづくりを宮本杜朗さんに手伝ってもらい、細かいシーン毎の組み立てに貢献して頂いた」と明かし、最終的に全体構成を自ら作り込み完成に至った。

(C)SHIMAFILMS

 

なお、本作は既に東京の劇場では公開され、お客さんの反応は好評。友川さんのファンが中心ではあるが、作品を気に入りリピーターも多くいた。おもしろがってくれる女性のお客さんも多く「意外と、友川さんファンだけでなく、多くの人が楽しめる作品になっているかな」と自負している。俳優の六角精児さんが観に来ており、ラジオで「俺なんか偽物だ。友川さんは本物のクズです」と仰って頂いたことを聞き「作品を素晴らしく評して頂いた」と感謝していた。まさに「それぞれのフィルターを通しておもしろく感じて頂いている」と実感している。

 

現在の佐々木監督は、日本語の”きわ”に関心があり「移民の方が用いる片言の日本語や平仮名を用いて複雑な話を語る作品に興味がある。言葉が通じない言語圏の方のミュージシャンに3週間程度を密着して、共通しているものを掴んでいくことに興味があります」と話す。短時間で簡単な作品をつくることが苦手であり「しっかりと入り込んで作ることしかできない。最初から誰がやっても難しい作品の方が個人的には向いている」と自身を見つめ、今後の作品作りを楽しみにしていた。

 

映画『どこへ出しても恥かしい人』は、4月3日(金)より京都・出町柳の出町座、4月4日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。また、神戸・元町の元町映画館で近日公開。なお、4月4日(土)には、シネ・ヌーヴォで佐々木育野監督を迎え舞台挨拶を開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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