今このタイミングで作らないといけないドキュメンタリー…!『世界一と言われた映画館』佐藤広一監督に聞く
映画評論家の淀川長治氏が“世界一の映画館“と評した映画館をめぐるドキュメンタリー『世界一と言われた映画館』が3月30日(土)より関西の劇場で公開される。本上映に先駆け、佐藤広一監督にインタビューを行った。
映画『世界一と言われた映画館』は、山形県酒田市に存在した伝説の映画館グリーン・ハウスについての証言を集めたドキュメンタリー。映画評論家・淀川長治が「世界一の映画館」と評し、足繁く通った山形県酒田市のグリーン・ハウス。1949年の開館以降、初代支配人の佐藤久一のアイデアによるさまざまな趣向と設備で来館者を迎え、人びとから愛されたその映画館は、1976年10月に起きた酒田大火の火元となり、消失してしまう。消失家屋1774棟、死者1名、負傷者1003名という甚大な被害をもたらした記憶から、かつて地元の自慢であった映画館の名を語る者はいなくなってしまった。あれから40年以上の歳月が流れ、酒田の人びとがグリーン・ハウスとともに歩んできた自身の歴史を振り返りはじめる。
ナレーションを2018年2月に急逝した大杉漣さんが務めた。
本作の出演者には高齢の方もおり、佐藤監督は比較的短い時間で集中して撮っている。その熱意が伝わったのか「皆さんがギュッとまとめて語ってくれるので、いいところを使わせてもらっている」と感謝するしかない。とはいえ、長時間の撮影となったが「聞き起こし等では一度聞くと使うところがだいたいわかる」と話し、重点を抑えた編集作業は順調だった。なお、インタビューした皆さんは、誰も悪口を言っておらず、映画愛に満ち溢れている。監督自身も驚きながら「当初は暗い話になるかなと思っていたら、皆さんが目の色を輝かせて語っている。40年間の思いをためていたのかな」と想像していた。
酒田大火は、山形県の人である程度の年齢より上の人は大抵知っている出来事の一つ。だが、若い人達が増えており、地元でも知らない人が多くなってきた。風化しつつある状況だったが「10年後に撮ろうとしたら厳しい。このタイミングで作らないといけない」と企画した理由を明かす。映画館についてのドキュメンタリーは、それほど多くはないが「このようなドラマ性のある映画館のドキュメンタリーは意外と盲点かもしれない」と振り返った。
今後、佐藤久一さんがオープンしたフランス料理店に関するドキュメンタリーについて撮影を検討している。支配人として関わっていた「ルポットフー」も年内には取り壊して新しい場所で作る話もあり「記録として映画に残していきたい」と意欲的だ。本作を撮り終え「インタビューで撮っている風景もいずれは変わっていくので、街並みも残すことは我々の仕事の一つ」と使命感を抱いている。とはいえ「連続TV小説レベルの壮大な物語になってしまう。フランス料理店についても撮ろうとすると大変な長さになってしまう。グリーン・ハウスにまつわる話はそれだけ大きい」と実感しながら「いつか作ってみたい」と目を輝かせていた。
映画『世界一と言われた映画館』は、3月30日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場で公開。また、4月6日(土)より、京都・烏丸の京都シネマ、5月4日(土)より、神戸・元町の元町映画館でも公開予定。
大火災で失われた映画館、という壮絶な体験談からの始まりに驚くけれど、その後はただただ、この映画館に通っていた人々のことが羨ましくて仕方ない。
映画好きな青年が支配人となり、内装や上映前の音楽、劇場内のカフェなど、他所の映画観にはない企画を次々と盛り込んで、映画ファンを魅了していった歴史が語られる。「あの頃は映画館に通って、同じ映画を何回も観ていたけど、面白かったわ。」と語る、当時の常連客だった年配の女性の笑顔が本当に楽しそうだ。
この「世界一」とは、何かの数値のランキングで順位をつけたわけではなく、ある著名な映画関係者が、こんなに素敵な映画館は「世界一だ」と評したことにちなんでいる。映画を大好きな人々に愛され、「世界一だ」とまで言わしめた映画観の話を観終わって、自分にとっての「世界一」の映画観はどこだろう、やっぱりあそこかなぁ。。。と思いを巡らせて楽しい気分になった。
ところで、本作には名作古典映画「タワーリング・インフェルノ」のネタバレが少しだけ含まれるので、ご注意を。
fromNZ2.0@エヌゼット
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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