大阪のBAR文化を盛り上げていきたい…!『YUKIGUNI』渡辺智史監督、品野清光さん、荒川英二さんを迎え、公開記念トークイベント開催!
日本最高齢バーテンダーである井山計一さんの半生を描いたドキュメンタリー『YUKIGUNI』が、3月22日(金)より、関西の劇場でも公開。3月24日(日)には、渡辺智史監督、品野清光さん(BAR AUGUSTA)、荒川英二さん(Bar UK)を迎え、公開記念 舞台挨拶&トークイベントが開催された。
映画『YUKIGUNI』は、スタンダードカクテルとして広く親しまれる「雪国」を生み出し、大正から昭和、平成を生きてきた日本最高齢の現役バーテンダーである井山計一さんの半生を描くドキュメンタリー。大正15年に山形県酒田市に生まれ、戦後の混沌とした時代の中でバーテンダーとしての腕を磨いた井山は、昭和34年、壽屋(サントリーの前身)主催の全日本ホーム・カクテル・コンクールに「雪国」を出品し、グランプリを受賞。「雪国」は日本各地のバーテンダーに愛され、作られ続け、いつしかスタンダードカクテルとして知られるようになる。故郷の酒田市で92歳のいまもなお現役バーテンダーとして働く井山の半生や、撮影中に妻を亡くした井山が、それをきっかけに家族との絆を取り戻していく姿、また誕生から60年を迎える「雪国」の秘話などをつまびらかにし、激動の時代を経ても古びない「美しさ」や「愛おしさ」とは何かを描き出す。ナレーションは小林薫さんが務める。
上映後、渡辺智史監督、品野清光さん(BAR AUGUSTA)、荒川英二さん(Bar UK)が登壇。スタンダードカクテルとBARの魅力について大いに語った。
品野さんは、本作を通して井山さんと初めて出会い「大先輩でありながら、直接お会いする機会がなかった。貴重な映像を拝見でき、雪国というカクテルの作り方を目の当たりにした。レシピも日々進化させていると知った。まさに自分が今やっている仕事とリンクする部分があった」と感激している。普段の井山さんは杖をついているが、シェイカーを一旦握れば、バシッとシェイク出来ている姿が同じ人とは思えず「道を歩いている時とカウンターの中にいる時とは別人ですよね。如何にバーカウンターが大事なものか」と痛感した。荒川さんは、昨年10月に山形県酒田市を訪れ、初めて井山さんにお会いすることに。実際に、井山さんの雪国を飲ませて頂いた。カクテルブックには、ウォッカが30ml、ホワイト・キュラソーが15ml、ライム・コーディアルが15mlと2:1:1のバランスが一般的なレシピが掲載されている。コンクール優勝時はこのレシピだったが「ご本人曰く、最近は辛口志向になり、甘口は喜ばれない。試行錯誤して、ホワイト・キュラソーが8ml、ライム・コーディアルが5ml、ウォッカを50~55mlに増やして、辛口でドライな雪国を現在提供されておられます」と伝え、井山さんの柔軟な考え方に感銘を受けた。品野さんも「先輩のカクテルですので、なるべくいじらないように作らなくちゃいけないかなと思っていました。味を想像しながらレシピを紐解きつつ、材料的に調節しながらも甘めに仕上げています、この映画を観るまでは。明日からレシピが変わると思います」と共感する。
スタンダードカクテルについて、品野さんは「井山さんが作られた頃は材料が少ない時代で選ぶ余地がない」と解説。自らの経験に基づき「カウンターに来たお客様に『パッソアでなにか作ってほしい』と頼まれました。レシピがない状態で、本に掲載されるかもしれない状況だったので、難しいレシピは普及されないと思いました。パッソアと檸檬とパイナップルでシンプルなレシピでお作りしましたら美味しいと反応を頂き、リキュールの本に紹介され、人生が変わりました。文章や写真にまとめて本になると独り歩きし普及し始める」とエピソードを話した。荒川さんは、現在のバーで飲まれているスタンダードカクテルについて「200~300種類あります。19世紀後半から1950年代までに誕生したものがほとんどで、50~100年前のスタンダードカクテルを今も楽しんでいる」と説明。その理由について「様々なバーテンダーが作りお客様が飲んでくれて広まっていって今も生き残っている。どこでも手に入るような材料で3・4種類の材料で作りやすいカクテルの方が生き残っていきやすい」と挙げた。スタンダードジャズとスタンダードカクテルも結びついており「音楽のスタンダードナンバーのほとんどは20世紀初頭から1950年代までに誕生した曲が占めている。スタンダードカクテルが誕生した時期と重なっている。ジャスの曲から生まれたナンバーが多く、シンプルでメロディーが覚えやすく、多くのミュージシャンにカバーされやすい。様々なプレーヤーがカバーして広まり定着していった」と述べ、カクテルとの共通点に気づかされる。渡辺監督は「今はモノがあふれていて、様々な曲がある。昔はカクテルは2・3種類が当たり前だった。時代を超えて愛されていくものはなかなか生まれづらい時代なのかな」と取材を通じて感じており、改めて「5,60年前に生まれたカクテルを若い方が新しいカクテルとして雪国を楽しんで頂いている」と実感した。
渡辺監督は、切り絵作家の成田一徹さんを知り「BARは人なり」という言葉を知り、強く印象に残っている。本作の制作当初に「東京のバーテンダーの方に取材し井山さんへの思いを語って頂こうと思っていました。だが、井山さんと会った方は、大会で少し接点があった方がほとんどで、当初の企画では上手くいかない」と判明。そこで「BARは人なり」という言葉から「井山さんに会いに来るお客様や交流のあったバーテンダーの人生を通して映画を描いていこう」と考え直した。なお、成田一徹さんとは品野さんも良き思い出がある。自身のBARを開店して間もない頃、成田さんがふらっと来店し、品野さんを描いた切り絵をに切ってもらい、後に出版された本に掲載された。今も品野さんは成田さんに対し「若手だろうが先輩だろうが自分の選球眼でBARを選んでいる方」と大いに尊敬している。
92歳のいまもなお現役バーテンダーとして働く井山さんに対し、立ち続ける秘訣について、品野さんは「井山さんがされていらっしゃる足つぼマッサージは効きますね。気持ちが良いですね」と話しながら「お客様が来てくれるから、BARの中に立っていられます。お客様の力と自分で営業する力で成り立っています。皆様の力であと40年やらせて頂ければ」とお願いした。渡辺監督も「ぜひその時には、この映画館で品野さんの映画が観れることになるように、皆様の力で大阪BAR文化を盛り上げていきたい」と思いを込め、トークイベントは締め括られた。
映画『YUKIGUNI』は、大阪・梅田のテアトル梅田で公開中。4月6日(土)より、十三の第七藝術劇場、京都・烏丸の京都シネマ、神戸・元町の元町映画館でも公開予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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