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皆さんの”世界一の映画館”を大切にしてほしい…『世界一と言われた映画館』佐藤広一監督を迎えトークショー開催!

2019年2月24日

映画評論家の淀川長治氏が“世界一の映画館“と評した映画館をめぐるドキュメンタリー『世界一と言われた映画館』が3月30日(土)より関西の劇場で公開される。本上映に先駆け、2月24日(日)には、大阪・十三の第七藝術劇場で大杉漣さん追悼上映会を開催。上映後には、佐藤広一監督を迎えトークショーが開催された。

 

映画『世界一と言われた映画館』は、山形県酒田市に存在した伝説の映画館グリーン・ハウスについての証言を集めたドキュメンタリー。映画評論家・淀川長治が「世界一の映画館」と評し、足繁く通った山形県酒田市のグリーン・ハウス。1949年の開館以降、初代支配人の佐藤久一のアイデアによるさまざまな趣向と設備で来館者を迎え、人びとから愛されたその映画館は、1976年10月に起きた酒田大火の火元となり、消失してしまう。消失家屋1774棟、死者1名、負傷者1003名という甚大な被害をもたらした記憶から、かつて地元の自慢であった映画館の名を語る者はいなくなってしまった。あれから40年以上の歳月が流れ、酒田の人びとがグリーン・ハウスとともに歩んできた自身の歴史を振り返りはじめる。
ナレーションを2018年2月に急逝した大杉漣さんが務めた。

 

上映後、佐藤広一監督が登壇。本作は既に1月5日から東京・有楽町のスバル座から全国公開が始まっている。今回は、本作のナレーションを担う大杉漣さんが昨年2月21日に急逝されたことを受け、追悼の意を込めた先行上映となった。

 

本作は、2017年の山形国際ドキュメンタリー映画祭用に制作された作品として映画祭側が企画し制作されている。映画祭内の「山形と映画」部門より、20分程度の短編企画として相談があり、プロデューサーの高橋卓也さんより佐藤監督に依頼。映画祭まで3ヶ月しかなかったが「短編なので大丈夫」だと考え、引き受けた。

 

山形県の映画関係者にとって憧れの伝説的な映画館といえばグリーン・ハウスである。地元の新聞社も資料集めに尽力してくれた。だが、酒田大火の火元になっているため、写真自体が少なく、行き詰ってしまう。取材も始めたが、大火の火元となった映画館のため「怒られるんじゃないか」とドキドキしていた。だが、実際は「皆さんがイキイキと嬉しそうに話して頂いた。文句等を話す方がいない。複雑な思いを持っている方もいるが、文句を言う雰囲気ではない」と安心して取材を続けていく。なお、酒田大火は、大規模な火災だが亡くなっている方は消防士の方のみ。港町であるため、頻繁に火事があるので、対応力があるとはいえ「まさかこんなに燃え広がるとは…」と皆が感じていた。大火があったことで、現在の酒田市に映画館はない。

 

かつてのグリーン・ハウスには、現在の映画館では見かけない構造設計がなされてた。劇場内にはBarが備えられており「映画を観終わった後、誰かと話したくなる。Barがあれば入り浸ってしまう」とウズウズしてしまう。さらに「シネコン的要素がありつつ、ホスピタリティ面はシネコンとはまた違う」と解説する。「グリーン・イヤーズ」と呼ばれるスケジュールを盛り込んだお便りは綺麗に作られており「特典が凄い。抽選で自動車自賠責保険や宝石をプレゼントする。今では考えられない」と驚くばかり。支配人の佐藤久一さんについて「突拍子もないことを思いつく、とんでもない人だった」と評せざるを得ない。

 

ナレーションを務めた大杉漣さんと佐藤監督は仕事をしたことがあり面識もあった。自主映画にもよく出演し、知り合いの監督が撮った自主映画を手伝っていたので「おもしろいおっちゃんだな」と印象に残っている。「いつか自身の作品への出演をお願いできないかな」と思いながら、今作のナレーターとして一番最初に思い浮かんだのが大杉漣さんだった。今回、2013年の山形放送開局60周年記念ラジオドキュメンタリードラマ「港町の幸福な昭和~日本一と世界一を酒田から発信した男~」への出演がきっかけとなり、ナレーションをオファー。山形県には大杉漣さんと仲良しのシネマ・パーソナリティの新井幸博さんがおり、すぐさま快諾頂いた。大杉さんは『教誨師』を撮り終えた直後の時期だったが、予算が少ない中でスタジオを確保し、録音まで成功。現場では何度もやり直しをさせてしまい、周りが心配していたが、文句も言わず応じてくれた。

 

昨年2月に亡くなった時、関係者の誰もが「自分こそ大杉漣さんと親しくしていた」という気持ちになったが「少しでも仕事で関わった方は特別な感情を抱いてしまう。人たらしな部分がある」と佐藤監督は説く。本作を映画祭で上映した際には、グリーン・ハウスの姉妹館である港座での上映会開催を大杉さんから依頼された。大杉漣バンドの演奏もするからと言われたが、予算が足りるか心配になる。だが「”ゴチになります!”で2週連続ピタリ賞で獲得した200万円を使うから心配しなくていい」と言われ、無事にライブが実現。2017年10月29日に開催したが「10月29日は酒田大火の日なので、皆が心配していた。でも無事に成功した」と良い思い出を頂いた。大杉さんは作り手の気持ちが分かる方だと感じており「下積みが長かった方なので、スタッフに優しく接してくれる。ナレーションを収録する前には『よくこの映画を作ったね。ご苦労様』と労い『最後にお手伝いしただけだから、大したことない』と終始謙遜していた」と敬意を払うしかない。今となっては「人の思いに共感してくれたのかな。芸能人らしくなく庶民的な精神を忘れていない。類稀なる俳優さんだったので、亡くなったのが惜しい」と嘆くしかないが「大杉さんも全国上映になるか気にしていたが、作品が残って良かった」と感謝する日々が続く。

 

生まれ育った山形県に対し、佐藤監督は「自分が住んだ土地は思い入れがあり、磁石のように遠くに行っても、引き寄せられるものが生まれ育った場所にはある」と、故郷を大切にしたい気持ちがある。翻って、お客様に向けて「皆さんにとってそれぞれの”世界一の映画館”があります。大事な場所は映画館に限らず大切にしていってほしい」と伝えた。最後に、本作の出演者の方達に向けて「映画館が無くなって40年以上経っても未だに青春の思い出のように大事にしています。山形も古い建物が壊されており、風景がガラッと変わっています。風景が変わっていってしまう中で、何もできないが、なくしたくない気持ちだけは心に留めておいて頂ければ」と思いを込め、トークショーは締め括られた。

 

映画『世界一と言われた映画館』は、3月30日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場で公開。また、4月6日(土)より、京都・烏丸の京都シネマ、5月4日(土)より、神戸・元町の元町映画館でも公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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