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言葉に出来ない感覚が核となり映画を撮り続けていく…『半世界』阪本順治監督に聞く!

2019年2月6日

中学生時代に一緒に過ごした友人の帰郷によって、自分たちの人生のこれからを考えるようになる39歳の男たちの葛藤と希望を描くヒューマンドラマ『半世界』が2月15日(金)より全国の劇場で公開される。公開を目前にした今回、阪本順治監督にインタビューを行った。

 

映画『半世界』は、人生の折り返しを迎えた39歳の炭焼き職人を主人公にした物語。山中の炭焼き窯で備長炭の職人として生計を立てている紘の前に元自衛官の瑛介が現れた。突然故郷に帰ってきた瑛介から紘は「こんなこと、ひとりでやってきたのか」と驚かれるが、紘自身は深い考えもなく単に父親の仕事を継ぎ、ただやり過ごしてきたに過ぎなかった。同級生の光彦には妻・初乃に任せきりの息子への無関心を指摘され、仕事のみならず、反抗期である息子の明にすら無関心だった自分に気づかされる。やがて、瑛介が抱える過去を知った紘は、仕事、そして家族と真剣に向き合う決意をする…

 

26作品目の監督作品である本作においても、阪本監督はこれまでに撮ったことがない題材にチャレンジしている。「飛んだり跳ねたりし続けたいんだろうね」と率直に話すが「自分に色を付けたくない」と明確だ。「自己模倣を恐れ、以前の手練手管が通じない作品にしないと、自分もおもしろくないしスリルもない」と認識している。撮りたい題材の発見は大変だが、おもしろい企画を提案してくれるプロデューサーがいたり、以前に書いたシノプシスがあったりしながら、映画を1本終えると、さらに次の作品に取り組んできた。アイデアを書き貯めているノートに10ページに及ぶメモがあっても、使えるのは数行しかない。だが、現在の生活や世間を観察しながらヒントを見つけていく。前作の『 もう一人のゲバラ』を撮り終えた時には「改めて、日本の小さな町で撮ってみたい」と今作のアイデアが自ずと思い浮かんだ。近年では、『人類資金』でニューヨークやタイやロシアに行ったり、『団地』で宇宙を取り入れたり、『エルネスト もう一人のゲバラ』でキューバに行ったりしながら、自分の地元に近い日本語が通じるエリアで撮りたい気持ちが強くなった。

 

今作ではそれぞれの役に最適な俳優陣がキャスティングされている。特に阪本監督自身がオリジナル作品を書く場合は「この役を誰にやってもらいたいか想定はしますね。書きながら顔が生まれてくる場合もある」と話す。今作の場合は「稲垣君ありきで映画を撮ろうと思った時、炭焼き職人を調べて書いた長いあらすじがノートにあった。本人にとっても意表を突かれただろうが、それも含め、おもしろがってくれたんじゃないだろうか」と稲垣さんの反応を楽しんだ。当初の稲垣さんはキョトンとしたようだが「俳優さんは以前演じた役の延長上で仕事を引き受けるより、あらぬ方向からオファーが来る方がおもしろい」と自信があり「炭焼き職人と稲垣君が結びつかない、とは思っていなかった。コツコツと同じ工程を日々重ねていく仕事は、彼らがやってきた仕事と同じ」と、求められるものに対して応えていく方々からの拒絶は想定していない。

 

人生の折り返しを迎えた39歳の男達を本作では描いているが、39歳の阪本監督は、藤山直美さん主演の『顔』を準備していた。40歳手前がひとつの境界線だと捉え「自分が40代に何をしているか考えた時、何かを仕掛けようとしたら30代後半から準備しないといけない」と『顔』を撮る気構えによって体温を上げていた時期を振り返る。台本を書くと「3人それぞれに当時の僕自身が投影され、台詞が自分の言葉になっている場合も多々ある」と気づく。オリジナル作品を書く時は自己模倣しないようにしながらも「結局、自分の中にしかヒントがない。ニュースを見たり新聞を読んだりしてインスパイアされても、結果的に、子どもの頃に抱いた答えが出ない疑問や経験が根底にある」と書き終わった頃に実感してきた。

 

出来上がった台本に描かれている男には、お客さんが観たいキャラクターが備わっている。主人公は、炭焼き職人を生業に決めただけで、ダメ親父の不器用な生き方をしており言葉足らずな人間。「観客は、父親としても夫としても申し分がない人物を見たくない。欠損ある人を観たいんじゃないかな」と自身の作品を表す。また、子供同士の関係も自身の経験を踏まえて書いている。中学校は校区で決められ、貧富の差があれば、様々な事情を抱える人間が混在していた。「その時代を過ごした子供達が大人になった時に郷愁を引き継いでいけるとも限らない。家庭を持ったり地元を離れたりと変化があり、当時には戻れない」と認識しており、本作について「3人が再会すると中学時代の思い出に浸るだろうが、郷愁だけで大人は暮らしていけないと気づく話であり、取り戻す話でもある」と説明する。いじめや不良グループも単純化した簡素な描写にしておらず「中学時代の不良仲間との経験が反映されている。先輩や同級生の中にいた不良と呼ばれる人達を思い出した。あの頃の不良は他校の不良と喧嘩するが、先生に怒られたら逆に宥めたりしていた」と思春期の一番多感で大人に疑問を抱く時期を入念に描いた。

 

なお、本作は豊田美加さんによる映画のノベライズが既に出版されており、映画とは違った印象が読後感として残る。阪本監督としては「ノベライズは、文字面から醸し出す別の表現によってイメージを想起させる。映画とノベライズが合致してもおもしろくない」と述べ、豊田さんには自由な表現を依頼した。様々な作品があるが「後からノベライズを見たら『これを先に書いてくれたら、これ映画でやらせてもらったのに』と思うことがある」とコメントする。映画と小説による表現手段の違いはあるが「自分の核は、思春期、あるいは、幼い頃に森の中に基地を作った経験や妄想による遊び。妄想で無邪気に遊んでいる頃は何の弊害も感じず自由な時代でもある。自分が感じた言葉では説明できないものがこの職業では核になる」と自らの感覚を大事にしてきた。現在では「大人になって知識を蓄え、世の中が分かってくる。だが、分からずじまいのことがあり、ものづくりをする人は皆それを具体にしようとした時に芸術作品が生まれる」と確信している。

 

昨年、60歳を迎えた阪本監督だが「60歳になる前にこの業界を辞めよう」と以前は同業者に伝えていた。だが「体が元気なうちに職業を変えることはどうなんだろうか。ゼロから修業しないといけないことが60歳を過ぎてからあってもいいだろうか」と考え、60歳が近づいてくると「別の業界にシフトしても、やり遂げられなかったことは引き摺るだろうな」と思い直していた。才能を持った若い監督が次々に登場しているが「爺でもこんな作品が撮れるぞ、とセンスを見せたくなってくる」と意気込んでおり「そんな欲が生まれた時、この作品を撮った。自分の中学時代や子供時代の喉の奥に刺さったままでいる棘を抜こうとして抜いた瞬間に業界を辞める思いは無くなった。他人の人生を脚本に書いて、人物を演出しながら、自分と向き合っている感覚になった」と60歳の節目を感じている。自ら選んだ映画作りという職業に対し「体力を失うと映画が変わってくる。歳をとって体が衰えた時に出来る作品をこれから見つけていかないといけない。やりきれなかったものはずっと付きまとう。僕に声をかけてくれる人がいる限り、映画を撮り続けます」と意気揚々と未来を見据えていた。

 

映画『半世界』は、2月15日(金)より、全国の劇場で公開。

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映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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