韓国の巨匠イ・チャンドン監督が村上春樹さんの短編小説『納屋を焼く』を基に映画化したミステリー『バーニング 劇場版』がいよいよ劇場公開!
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小説家を目指す若者が、幼なじみから紹介された男の存在により、奇怪な事態に巻き込まれていく様を描く『バーニング 劇場版』が、2月1日(金)より、全国の劇場で公開される。
映画『バーニング 劇場版』は、村上春樹さんが1983年に発表した短編小説「納屋を焼く」を原作に、物語を大胆にアレンジして描いたミステリードラマ。アルバイトで生計を立てる小説家志望の青年ジョンスは、幼なじみの女性ヘミと偶然再会し、彼女がアフリカ旅行へ行く間の飼い猫の世話を頼まれる。旅行から戻ったヘミは、アフリカで知り合ったという謎めいた金持ちの男ベンをジョンスに紹介する。ある日、ベンはヘミと一緒にジョンスの自宅を訪れ、「僕は時々ビニールハウスを燃やしています」という秘密を打ち明ける。そして、その日を境にヘミが忽然と姿を消してしまう。ヘミに強く惹かれていたジュンスは、必死で彼女の行方を捜すが……
本作は、『シークレット・サンシャイン』『オアシス』で知られる名匠イ・チャンドンの8年ぶり監督作。『ベテラン』のユ・アインが主演を務め、ベンをテレビシリーズ「ウォーキング・デッド」のスティーブン・ユァン、ヘミをオーディションで選ばれた新人女優チョン・ジョンソがそれぞれ演じた。第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、国際批評家連盟賞を受賞。
映画『バーニング 劇場版』は、2月1日(金)より、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマ、難波のTOHOシネマズなんば、2月2日(土)より京都・烏丸の京都シネマで公開。また、2月23日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。
「悲しみは感じますよね?」「涙という証拠がないからわかりません」という会話がジョンスとベン2人の関係をよく表していると感じた。
ボロボロのトラックを運転してるジョンスと、高級車を持って良い暮らしをしているベン。ベンは穏やかで丁寧な話し方を常に保っているが、本心では何を考えているのか分からない。なぜヘミと知り合ったのか。ジョンスの書いている小説に興味があると言ったが本当?ヘミが皆の前で熱心に話をしているときに興味なさげにあくびをするベンにどきっとした。こわい人は沢山いるが、他人に全くの無関心でいられる人は滅多にいない。ベンはそんな異質な感じを持った男だ。一方、2人を引き合わせたヘミも掴み所のない女である。いるのかいないのか分からない猫を飼い、嘘か本当かわからない幼少期のエピソードを話す。ジョンスやベンの他に親しい人がいる様子もない。ベンのように異質ではないが、風変わりな女という印象は拭えない。そして、牛たちの世話をしながら父の起こした傷害事件の裁判を傍聴しに行くジョンス。3人のなかでジョンスが一番人間臭くて実態がしっかりしてる…と思って見ていたら見事に崩れるラストシーンであった。結局、ビニールハウスを燃やしていたベンもグレートハンガーの踊りを踊っていたヘミも傷害事件を起こしたジョンスの父も、そしてジョンス自身も、それぞれに飢えを抱えていたのだろう。本作の登場人物に限らず、人間は人それぞれに飢えを抱え、何らかの方法で解消してバランスを保っている。登場する人たちは、バランスを崩してしまった人だ。ただ、その危うさの中でハンガーの踊りを踊ったヘミの美しい踊りが頭から離れない。
fromマツコ
「私、整形したの」と気軽に言う幼なじみのヘミ。序盤のこの言葉が衝撃的であった。韓国と違い、日本では「整形」が身近なものでは無い。整形する前の彼女がどんな顔だったのか、ジョンスには思い出せない。この時点でジョンスにとってのヘミはいたようで、いなかった幼なじみとなる。目の前の彼女は当時のジョンスが知っているヘミじゃない。ヘミ曰く、ミカンの存在と似ている。しかし、ヘミは最初から無い存在ではない。途中から消えた存在だ。
へミはビニールハウスのように消えても、消えたことに気づかれない存在。だから、ベンはビニールハウスの話を例え話として教えてくれた。虚言癖のある彼女には友達もいない。実際、親にも消えたことを気づかれていない。気づいているのはジョンスとベンだけだった。
本作自身も、最初はジョンスのように釈然としない透明さを持っていた。しかし、ベンのビニールハウスの告白から話は面白く進み出していく。全体の流れを「無い存在」という視点で楽しみつつ、3人の人間関係やジョンスの心情も楽しむことが出来るようになっている。
最後のシーンが一番好きだが、ジョンスにとっての「ヘミ」を、最後の長いカット回しからまざまざと見せつけられた。彼の喪失感の描き方に深みがあった。
from君山
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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