他人の人生を手に入れた男の運命描く『未来を乗り換えた男』がいよいよ劇場公開!
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第2次世界大戦中のファシズムの悪夢と現代の難民問題を重ね合わせた物語を描く『未来を乗り換えた男』が、1月12日(土)より全国の劇場で公開される。
映画『未来を乗り換えた男』は、ファシズムの風が吹き荒れたナチスによる史実と現代の難民問題を重ね合わせ、祖国を追われた人々が希望を求めてさまよう姿をサスペンスフルに描いたドラマ。ドイツで吹き荒れるファシズムから逃れてフランスにやってきた青年ゲオルクは、パリからマルセイユへと流れ着く。偶然の成り行きから、パリのホテルで自殺した亡命作家ヴァイデルに成りすますことになったゲオルクは、そのまま船に乗ってメキシコへ行こうと思い立つ。そんな時、必死に人捜しをしている黒いコート姿の女性マリーと出会ったゲオルクは、ミステリアスな雰囲気を漂わせる彼女に心を奪われる。夫を捜しているというマリーだったが、その夫こそゲオルクが成りすましているヴァイデルのことだった…
本作の原作は、1930~40年代にかけて、ナチス政権下のドイツから亡命した小説家アンナ・セーガースによる「トランジット」。『東ベルリンから来た女』『あの日のように抱きしめて』のクリスティアン・ペッツォルト監督が手掛け、2018年の第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品作品となった。
映画『未来を乗り換えた男』は、1月12日(土)より、大阪・梅田のテアトル梅田、京都・烏丸の京都シネマ、また、1月18日(金)より、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。
この映画は設定に特殊さがあり惹かれる。フランスを舞台に1942年頃の戦況下の切迫感をそのまま現代に持ってきている。なんて大胆なことを考えついたんだ!市民の装いが違うと印象もだいぶ変わった。一見旅行に来ているだけのような主人公ゲオルクも、実は不法滞在で当局から追われている。 話の中心となる人物が作家であるため「作文するために全ての出来事があるように思える」「捨てた者は孤独なだけよ」等、シーンの端々に文学的な言葉遣いを散りばめていく。まるで原作である小説へ敬意を示すようで、その言葉たちが一層映画をドラマチックに演出しているのも見どころ。
出国の迫るゲオルクがメキシコ領事館で出会った女性と食事をするシーンは、「ドイツ軍」や「一斉掃討」等の言葉が似合わない。だが、わざとらしく街を駆け抜けるサイレンの音が現実に引き戻す。フランスがドイツ軍に占領されていることを、忘れた頃に思い出させる。 映画を観ていると言うより、小説を「観て」いるような作品であり、奇妙な映画体験になった。
from君山
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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