仕立屋が70年前の約束を果たす旅を描くロードムービー『家へ帰ろう』がいよいよ劇場公開!
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ナチスによる迫害を逃れた88歳のユダヤ人である老人が、戦時下に自分を助けてくれた親友に会うためにアルゼンチンから故郷・ポーランドへ向かう紆余曲折の旅を映し出す『家へ帰ろう』が、12月22日(土)より全国の劇場で公開される。
映画『家へ帰ろう』は、ホロコーストを生き抜いたユダヤ人の老人が、70年の時を経て、友人との約束を果たすためにアルゼンチンから故郷ポーランドへ旅する姿を描いたロードムービー。ブエノスアイレスに暮らす88歳の仕立て屋アブラムは、自分を高齢者用の施設に入れようとする子どもたちから逃れ、故郷であるポーランドを目指して旅に出る。そして、その旅には、第2次世界大戦時、ユダヤ人である自分をナチスの手から救ってくれた親友に、自分が仕立てた最後のスーツを渡すという目的があった…
本作の監督はアルゼンチンの人気脚本家で、長編監督2作目となるパブロ・ソラルス。主演はカルロス・サウラ監督の「タンゴ」で知られるミゲル・アンヘル・ソラ。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018をはじめ世界8つの映画祭で観客賞を受賞した。
映画『家へ帰ろう』は、12月22日(土)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、京都・烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。また、2019年1月26日(土)より、兵庫・豊岡の豊岡劇場でも公開。
主人公アブラハムは頑固な老人であり、私とは距離のあるキャラクターだったが、脚本が素晴らしく、エンドロールが始まるまで前のめりになって観てしまった。シェイクスピアの『リア王』のようなストーリーの始まりだが、静かな決意が彼の背中や立ち姿から物語る。70年間も音信不通だった友に会えるのか、会えないのか。私たちはドキドキしながら彼を見守ることになる。
こんなにも馴染むような古典の取り入れ方には感嘆するし、しっくりとくる出来映えになるのも監督の手腕だ。絶対にドイツに足を踏み入れたくない、意地でも踏むかと本人は真剣なのだが、観る側にとっては少し笑ってしまう頑固っぷりが逆に微笑ましい。背景に戦争があるが、悲しいというよりコミカルで感動的で魅入ってしまう画の強さがある映画だ。邦題タイトルをつけた人、わかってる。
from君山
自分が生まれ育った国の名を、口に出すことすら出来なくなってしまう。どんな恐ろしい体験をすれば、それほど深い心の傷を負うだろうか。二度と関わりたくなかった場所に、アブラハムは人生最後の旅に出る。約束を交わした友と再会するために、あの戦争で受けた傷がもとで不自由になった右足を引きずりながら。
本作を観ながら、全編に漂う言いようがない寂しさを感じた。劇中に登場するヨーロッパの様々な国の人々にとって、戦争は過去のものになっている。だが、アブラハムはたった一人でずっと恐怖の体験を抱えて生き続けていた。「どうして、ユダヤ人のこの私が、まるで何もなかったような顔をして『あの国』に足を踏み入れることができるというんだ?」という頑な過ぎる態度は、滑稽に見えるかもしれない。しかし、心の奥底に終い込んだ壮絶な戦争体験や、ポーランドやドイツの国名を決して呼ばなくなった理由について、彼が微睡む度に見る夢の中で断片的に語られる時、観客は彼の深い孤独を知る。
原題はスペイン語で「最後のスーツ」。アブラハムが人生で最後に仕立てたスーツである。「自分の命を助けてくれた友人に、約束したスーツを渡しに行くんだ」と言って旅立った真意が明らかになる結末には、涙と笑いがこぼれた。第二次世界大戦から70年以上が過ぎた今、当時の過酷な戦禍を生き残った人々を主人公にした作品、所謂サバイバーものは難しくなっている。当時10代の子供だった人ですら、今日では80歳を超えているから無理もない。本作は、ホロコーストを題材にした作品に一つの区切りを示した。あまりにも大勢の命が理不尽に奪われたあの戦争を忘れてはならない。けれども、今もあの頃の記憶に苛まれ続けている人々は、その苦しみから解放されてもよいのではないだろうか、と静かに訴えるメッセージが込められた作品だ。
fromNZ2.0@エヌゼット
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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