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佐藤泰志さんは人生の悩みや喜びに誠実な小説家だった…!『きみの鳥はうたえる』関西公開直前、三宅唱監督に聞く!

2018年9月17日

函館を舞台に、3人の若い男女の交流や関係性の変化を繊細に映し出す『きみの鳥はうたえる』が関西の劇場でも9月22日(土)より公開される。公開を目前にした今回、三宅唱監督にインタビューを行った。

 

映画『きみの鳥はうたえる』は、佐藤泰志さんによる原作小説の舞台設定を東京から佐藤さんの地元である函館に移し、3人の若い男女の交流や関係性の変化を繊細に映し出す。函館郊外の書店で働く“僕”と、一緒に暮らす失業中の静雄、“僕”の同僚である佐知子の3人は、夜通し酒を飲み、踊り、笑い合う。微妙なバランスの中で成り立つ彼らの幸福な日々は、いつも終わりの予感とともにあった…

主人公“僕”を柄本佑さん、友人の静雄を染谷将太さん、ふたりの男の間で揺れ動くヒロインの佐知子を石橋静河さんら若手実力派俳優がそれぞれ演じる。

 

三宅監督は、まず初めて『きみの鳥はうたえる』を読んだ時について「主人公の3人が楽しそうだったりヒリヒリと感じたりする、かけがえのない時間を過ごしている様子がおもしろかった。自分自身が体験せずとも、身近に感じる。他人事とは思えない時間が楽しかった」と振り返る。映画化にあたり「小説には沢山の要素があり、全てを映画化できるに越したことはないが、重要なのはこの3人」と抑えた上で「今回、函館の映画館シネマアイリスさんが企画して下さり、函館にロケ地を移すということが最初に決まっていた。時代設定を現代にした方が、この小説に普遍的な要素を持っていることが伝わる」と確信した。

 

キャスティングについて、三宅監督は「直感です」と断言。小説を読みながら「彼らの顔がすぐに浮かんだ、読み進めていても、疑問もなく、ワクワクして堪らない」と楽しんだ。染谷将太さん、柄本佑さんと古くから友人で、石橋静河さんとは「この話があった後に会ったが、友人のような距離感で過ごしていたこともあり、役作りにも役立った」と明かす。演出に関しては、具体的な指示をするより、3人と一緒に良い時間を過ごすことを大切にし「小説には、3人の起伏ある豊かな時間を過ごしていることが描かれている。それを分析するように撮るのではなく、僕ら自身も映画撮影を通して、同じ時間を過ごし、濃密な撮影になった」と印象に残った。3人がリラックスして演技ができる環境を大切にし「一つ一つの演技やシーンは、彼ら3人が素晴らしい以外の理由はない」と太鼓判を押す。作中では、コンビニでの何気ない会話のシーンが印象に残るが「コンビニって好きなんですよ、僕」と告白し「一人で行くコンビニはおもしろくないが、友達とコンビニに行くとウキウキする。色々な発見があり、ドキドキする。何の変哲もなく僕らの身近にあるが、実は凄くおもしろい場所。そのおもしろさが撮れればいいな」と思いを込める。

 

ヒロインの佐知子を演じた石橋静河さんについて、三宅監督は「この小説の映画化にあたり、佐知子がどれだけ魅力的に見えるかどうか」と踏まえたうえで「見事に石橋静河が輝いてくれた。僕は完全に惹かれてながら撮っていたので、撮っていて楽しかったですね」と絶賛。柄本佑さん演じる僕については「小説を読み、主人公が僕という名前のない男なので、捉えどころのなさがある」と感じた。男性の読者は自分を重ねて読むこともある、と考え「捉えどころのない人物を演じるのは文字通り難しい。佑と一緒に試行錯誤してテイクを重ねていった」と振り返る。

 

タイトルの『きみの鳥はうたえる』は、The Beatlesの楽曲「And Your Bird Can Sing」を佐藤泰志さんが直訳したことに由来する。三宅監督は「僕らを翻弄してくれるような素敵なタイトル」だと称賛。小説でも「And Your Bird Can Sing」のレコードが登場するシーンがある。レコードを持っていて聴こうと思ったら、レコードプレーヤーがないので、代わりに僕が唄います、と言って唄い出すシーンは、監督も美しいと感じた。本作の制作にあたり、函館の映画館が映画を作ったり、今の時代に映画制作を手掛けたりすることにも重なり「自分達が喜びを感じられるものを、自分達で制作できる。映画を観にいくという能動的な行為まで含めて我々は出来る」と制作を通して感じる喜びを表す。

 

本作では、SIMI LABのHi’Specが全般的に劇伴の音楽を担当した。三宅監督は「僕が最も尊敬するミュージシャンであり、彼が出す音は間違いがない。今一番おもしろいものを作ってくれると信じていたので、彼を信頼するだけ」と称える。さらに「HIP HOPのトラックメイカーとして、1ループで気持ち良くなれる。こんな音が世の中に存在するのかと思う程、聞いたことがない音をパンと1音だけで感動させてくれる」と解説。撮影現場にも来てもらい「『彼ら3人と共に居るように』とお願いし、友達のような距離感で、芝居と同じ動きをしながら、寄り添える音楽を作って作ってくれた」と感謝を惜しまない。

 

佐藤泰志さんという小説家について、三宅監督は「人生の暗い部分を真摯に見つめるような作家という一面的なイメージがあるかもしれないが、それだけじゃない」と読み解く。実際に小説を読み進め「人生の悩みに誠実であり、喜びにも同じように誠実である」と感じ取った。特に『きみの鳥はうたえる』は「登場人物が若いこともあり、人を好きになることの喜びや、友達とお酒を呑んで過ごしている居心地の良い時間といった清々しい部分が、魅力的に描かれている」と捉え、映画で表現できたことを満足している。本作の鑑賞について「一人で観にいってもおもしろい。友達と観たり、デートで観たりして、映画の感想を話し合うと、その人の恋愛観がバレる映画かもしれない」とスタッフとも同じように現場で映画について話していたことを懐かしんだ。

 

なお、三宅監督は、昨年の秋から今年のGWまで山口県の山口情報芸術センター(YCAM)で滞在し、6面スクリーンのビデオインスタレーション作品『ワールドツアー』と、地元の中高生と共に長編映画『ワイルドツアー』を制作。『ワイルドツアー』は来年以降に公開予定となっている。

 

映画『きみの鳥はうたえる』は、9月22日(土)より、大阪・梅田のテアトル梅田、心斎橋のシネマート心斎橋、京都・烏丸の京都シネマ、桂川のイオンシネマ京都桂川、神戸・元町の元町映画館で公開。また、10月27日(土)より宝塚のシネ・ピピアでも公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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