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トロフィーハンティングを読み解く!禁断の狩猟世界を捉えたドキュメンタリー『サファリ』トークイベント開催!

2018年3月18日

アフリカ諸国の一大観光資源となった、毛皮や頭部だけを目的に動物を狩猟するレジャー[トロフィーハンティング]を題材にしたドキュメンタリー『サファリ』が、大阪・十三のシアターセブンで3月17日(土)よりセカンド上映。3月18日(日)には、京都在住の猟師/作家の千松信也さんと、映像人類学とアフリカ研究を専門にする国立民族博物館の川瀬慈さんを招き、トークショーが開催された。

 

映画『サファリ』は、野生動物を狩猟するトロフィー・ハンティングに密着したドキュメンタリー。アフリカの草原で群れをなすインパラ、シマウマ、ヌー、キリンなどの野生動物たち。そうした動物を嬉々として撃ち、狩猟するハンターたち。値段が付けられた野生動物を殺すことを趣味や娯楽とするオーストリア人とドイツ人のグループ、彼らを草原へと案内するナミビアのリゾートホテルのスタッフ、そして彼らが狩猟した動物の毛皮を剥ぎ、余った肉を食べる現地人。そんな人間たちの姿をカメラが肉薄していく…

シアターセブンでのセカンド上映2日目、上映後 に千松信也さん(以下、千松さん)と川瀬慈さんさん(以下、川瀬さん)が登壇。

 

☆トロフィーハンティングについて

千松さん:

トロフィーハンティングは何度か聞いたことがある。狩猟関係の雑誌で、リッチな猟友会がアフリカで行っていることを知った。昔から行われている狩猟の方式。

川瀬さん:

千松さんの自宅を訪れた際に鹿肉を美味しく食べさせて頂いた。千松さんの山を頂くという考え方は、自然や動物と人間とのつながりの中での営みであり印象に残る。トロフィーハンティングとは異なる営み。映画はハンター側に寄り添った貴重な内容を見せてもらった。

千松さん:

出演されている方々は批判されていることを認識していながら、自分たちの主張を伝えている。

川瀬さん:

作中では、「人間が消え失せたらもっと良い世界になる。人間が多すぎる」と言っており、必ずしも人間中心主義ではない。レヴィ=ストロースによる「世界は人間なしに始まり人間なしに終わるだろう」を彷彿させる。ハンター達に決して後ろめたさはなく、トロフィーハンティングが経済的利益をアフリカの地域社会に生み出している。と彼らは考えている側面がある。その裏には重層的に複雑な力、トロフィーハンティングに対する地域社会での葛藤、経済的利益関係がある。『サファリ』というタイトルから想像する内容ではない。

千松さん:

僕には気持ち悪く、何故こんなことをしたいのかと思った。だが、その中に日本の猟師がやっていることと共通する要素を感じた。例えば、獲物となる野生動物に対して尊敬の気持ちが多くの猟師が持っているが、今作で登場する人達も『こいつは勇敢な戦士だった』と言っている。最後の食事をさせるのは世界各地の猟師に共通する。取り出した心臓を土地の神に捧げる等の儀式的なことも見受けられる。自己正当化させているだけかもしれないが、老いたり弱ったりしている動物を獲ることで生態系を維持する。狩猟行為が普遍的に持っている自然との関わり方も前提として描いているあたりがおもしろい。狩猟とは様々な面で興味深いことがあり、トロフィーハンティングはその中で撃って獲る部分だけを極端に突出させた営み。歪さを感じるが、共通する面を感じる。

川瀬さん:

狩猟した後の動物の魂を自然界に返す。山の神に感謝することは、千松さんの住む京都でも共通して行われていることがありますか。

千松さん:

僕はあまり引き継いでいない。私の行っている罠猟は単独で行う。僕の師匠は合理的で実施しない方だったので、直接的には教わっていない。日本の場合、鉄砲でやるグループ猟では儀式は伝承されやすい。

 

☆トロフィーハンティングの裏側

川瀬さん:

地域社会の文脈によると、ハンティングを支える人達には雇用の機会が与えられる。観光客らが2カ月かけて現地に落としていくお金をハンターは1週間で落としていく。経済的なインパクトがある、と作品の前半で述べている。日本で唯一のトロフィーハンティングについて研究している安田章人さんによると、年間約18,500人のハンターが欧米からアフリカに訪れている。少なくとも200億円以上の観光収益が生み出されている。だが、雇用機会を確保できているのは一部の人達。映画の舞台は、アフリカ大陸南西部のナミビア共和国。欧米からの移民の子孫達が土地を持ち、土地の一部分をハンティングに使ってもらっている。狩猟牧場経営者にお金を払い、経営が成立していたり、国営の狩猟場があったりする。

千松さん:

ハンターの皆さんが行うことより、現地の方々がやっていることを僕はやっている。その視点では現地の方の描き方が恣意的。狩猟牧場は野生ではなく、ある程度飼育されているので、それを撃って何が楽しいのか。狩猟の楽しみには、自然界を生き抜いている賢い野生動物を自分の知恵を使って獲る要素がある。それを現地のガイドに任せ、飼われた動物を獲るなら写真と毛皮しか価値がない。その背景に自分でやったことは何もない。歪だと思うが、珍しい動物や大物を獲りたい気持ちは大抵の人間は思っているんじゃないか。日本でもガイドハンティングは小規模だが存在する。北海道が一番盛ん、ヒグマとエゾシカを獲る。本州の狩猟家は関心がある。

千松さん:

現地の方の皮のさばき方は上手い。食肉向けと毛皮向けでさばき方が違う。食肉向けは腐敗が早い内臓を直ぐに取り出し冷やす。映画では、まず写真が大事、次に毛皮に傷をつけないようにしている。

川瀬さん:

映画後半、フィックスのカメラでガツガツと肉を貪っていたり物思いに耽っていたりしている現地の方をテンポ良く見せている。彼らの声を聞きたいが、ハンティングの営みに関する権力の不均衡や、アフリカとヨーロッパの関係を恣意的に監督が演出していると捉えられるかもしれない。ハンター側の人達の日常の営みに対しての距離感を保って淡々と描き出しており、強烈な印象がある。アフリカを西欧列強が線を引いて土地を分配していったようにメタフォリカルに読み取れる。

千松さん:

鹿や猪は狩猟の対象になっていると思っているが国によって違う。日本でも、兎や小鹿だと批判されることがある。感情移入しやすい生き物や麒麟やライオン、縞馬といった動物園でもアイドル対象となる動物を殺すのはかわいそうとされる。他人の土地に踏み込んで狩猟をしたくはない。

川瀬さん:

安田さんがシノドスの記事で書いているが、欧米の富裕層が2週間で400万円を落としていく。この営みによって地元の人達のアクセスが制限されている。結果、密猟を行い発見された場合は罰金や懲役1年が課せられる。雇用機会の喪失だけではない影響がある。

 

☆トロフィーハンティングによって発生している課題

川瀬さん:

殺すための動物の養殖、新種配合によるミュータントが創られている。合法だが倫理的にはどうなのか。

千松さん:

大物を獲りたい欲求は共通している。魚釣りと同じ。大きい猪は長年自然界を生き抜いており賢い。狙ってもなかなか獲れない。立派なものをあたかも自分の力で獲ったと思うのは本来的に狩猟者に大物を獲りたい感覚があったから。普遍的に人間が持っている独占欲や人より優れていたい欲求がトロフィーハンティングでは如実に現れる。人間の本質と裏側の醜い部分が見えてしまう。

川瀬さん:

自然を征服できないけど征服したい。野生を征服したような証拠が欲しくて写真におさめることがトロフィーハンティングにはある。

 

映画『サファリ』は、3月30日(金)まで、大阪・十三のシアターセブンで公開中。また、京都・烏丸の京都シネマで5月26日(土)公開予定、神戸・元町の元町映画館で近日公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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