大阪出身の小田香監督がボスニアの炭鉱に迫った『鉱』、シネヌーヴォで1週間限定上映
ボスニア・ヘルツェゴビナの地下300メートルにある炭鉱で黙々と働く炭鉱夫を追いかけたドキュメンタリー『鉱』(あらがねと読む)が、大阪市西区のシネ・ヌーヴォで12月10日(土)から公開される。
『鉱』は、ボスニアの炭坑で黙々と働く坑夫達が絶え間なく響く音のなかで杭を掘り進めていく姿を捉えていく。炭鉱夫が付けるヘッドランプの光を頼りに、闇にうごめく彼らをカメラはひたすら見つめる。時折交わされる仕事上の会話や掛け声、冗談の数々を含め、鉱山から掘り出される石の小さな断片を「あらがね」の如く、カメラの視線が労働と鉱山そのものの断片をつなぐ。
大阪府枚方市出身の小田香監督による本作品が山形国際ドキュメンタリー映画祭2015で上映された際に、シネ・ヌーヴォの山崎紀子支配人が気に入り、全国公開に先駆け、今回の上映に至った。
『鉱』は九条シネ・ヌーヴォにて12月10日(土)より1週間限定にて各日18時20分より、過去短編作品と合わせて上映される。12/10日(土)には上映後に小田香監督と『月夜釜合戦』の佐藤零郎監督、12/11日(日)上映後には小田香監督と『風の波紋』編集の秦岳志さん、12/13日(火)上映後には小田香監督と小説家の玄月さんと吉村萬壱さんをゲストに迎えトークショーが行われる。
【12月11日(日)鑑賞後追記】
これまでありそうでなかったドキュメンタリー作品を鑑賞した。敢えて近いと感じた作品として例を挙げるなら『ハント・ザ・ワールド 【ハーバード大学 感覚民族誌学ラボ 傑作選】』の作品群だろうか。
『鉱』は振動から始まる。金属が揺れているシーンから始まる。ノイズから始まる。まるで、インダストリアル・ミュージックのプロモーション・ビデオを見ているかのような錯覚に陥るのだが、あくまで炭鉱の中での出来事を描いた作品である。
何なんだ、この作品は…と思っている間に観ている側をトロッコに乗せて炭坑内へと案内してくれる。固定カメラによって撮られた炭坑内での坑夫の有様をこれでもかと見せつけられ、その姿に魅了される。字幕をしっかりとつけているわけではないので、観客の想像力に委ねられることで、映像や作品の意味合いが増していく。
個人的に好きなシーンは、予告の51秒あたりにも出てくる坑夫達の道具がぶら下げられている場所を捉えたところ。小田香監督に実際にこれは何なのか聞いてみたが、坑夫の更衣室の中で撮影したものとのこと。あえてこのアングルで撮影することで、まるで3D映像を観ているかのような錯覚を起こす。作品自体を3Dメガネで掛けてみるか4D施設で鑑賞してみたらさらにおもしろい映画体験ができるのではないか。
この作品は、まさに監督の直感によって撮影されたものだ。一部にエフェクトをかけたとはいえ、このような作品として編集した手腕には驚かされる。29歳にしてここまで作り上げた才能に脱帽するしかない。監督の今後が楽しみだと思える作品に出会った。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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