中国社会の底辺で生きる人間達の現実を描くノワールサスペンス『鵞鳥湖の夜』がいよいよ劇場公開!
(C)2019 HE LI CHEN GUANG INTERNATIONAL CULTURE MEDIA CO.,LTD.,GREEN RAY FILMS(SHANGHAI)CO.,LTD.,
警察官殺しを犯した裏社会の男と湖畔の娼婦がめぐり合い、危険な逃避行を繰り広げていく様を描き出す『鵞鳥湖の夜』が、9月25日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『鵞鳥湖の夜』は、中国社会の底辺で生きる人間たちの現実を鮮烈な映像で描いたノワールサスペンス。2012年、中国南部。再開発から取り残された鵞鳥湖(がちょうこ)周辺の地区で、ギャングたちの縄張り争いが激化していた。刑務所を出て古巣のバイク窃盗団に戻った男チョウは、対立組織との争いに巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまう。全国に指名手配された彼は、自身にかけられた報奨金30万元を妻子に残すべく画策。そんな彼の前に、見知らぬ女アイアイが妻の代理としてやって来る。鵞鳥湖の水辺で娼婦として生きる彼女と行動をともにするチョウだったが、警察や報奨金強奪を狙う窃盗団に追われ、後戻りのできない袋小路へと追い詰められていく。
本作は、『薄氷の殺人』で第64回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した中国の気鋭ディアオ・イーナン監督による研ぎ澄まされた演出で創出したサスペンスとアクション、魅惑的な闇と色彩が渦巻く映像美に目を奪われる一作。『1911』のフー・ゴーが主演を務め、『薄氷の殺人』のグイ・ルンメイ、リャオ・ファンが共演。2019年の第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品である。
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映画『鵞鳥湖の夜』は、9月25日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、吹田の109シネマズ大阪エキスポシティ、京都・烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開。
赤や青の鮮やかなネオン、暗闇の中にわずかに差し込む光、廃屋のようなアパートを照らすセピア色のライト、影絵芝居のように映し出される人物達。他の作品では観ないスタイリッシュな映像が連続し緊張と快感を溢れさせる。行き場のない男女の逃亡劇、無慈悲に振るわれる暴力と命の軽さ、ヒリヒリとした緊迫感が途切れず、独特なビジュアルの美しさによって、類を見ない作品に出会えた嬉しさで笑みがこぼれながらも、一瞬も目が離せない。
主演のグイ・ルンメイは10代にデビューして以降、爽やかさと美貌に似合った役柄によって、自由で力強くコミカルなヒロインを演じることが多かった。台湾出身俳優の中で、日本での知名度や人気は20年近くずっとトップクラスだ。しかし、本作では、他に仕事の選択肢がなくセックスワーカーとして生きている貧困層の女性を演じている。ずっと怯えた目で、媚びるような表情で、あてもなく逃げ惑う。終始半泣きの顔で笑顔を見せず、ネガティブで暗いキャラクターだ。出身地の台湾と、本作の舞台となる中国の武漢では、文化も大きく違う。武漢の方言を習得することから役作りを始めており、難易度の高い「水浴嬢」役を、下層の人間として見下さず、懸命に生きようとする一人の女性として、哀しさに満ちた存在感で演じ切っている。さらに薄っすらと伺える正直さと純粋さが愛おしい。
また、アクションシーンも特異なレベルを備えたクオリティである。バイク窃盗団のならず者達がつかみ合い、殴り合う。傍から見ればくだらない小競り合いは次第にエスカレートし、刃物や銃で次々と命を奪い、奪われていく。容赦なく殺し合う男達の姿は、鮮やかなライティングのカラー、光と影のコントラスト、相手を屠った瞬間のキマりきった立ち姿によって、美しい殺陣としてクライマックスを飾る。本作はディアオ・イーナン監督とグイ・ルンメイによるタッグ2作目。前作の『薄氷の殺人』でも、ルンメイは儚げで秘密を抱え、主人公を転落させていく存在だった。今作も、ファム・ファタールと表現される役柄に見えるが、彼女は誰かに死を招く象徴ではない。底辺の生活を変えられるかもしれないという微かな希望を求め、なりふりかまわず掴もうとした、とある女性が歩んだ人生における一幕でしかない。だからこそ、思いがけない結末に着地するラストでは、肩の力が抜けていきながらも満足感が込み上がった。数多の作品を観る映画ファンにも、中国映画に不慣れで観賞を迷っている方にも、きっと楽しめる個性的な作品だと強くお勧めしたい。
fromNZ2.0@エヌゼット
雨で視界が悪い中、バッグを抱える男の前に「妻の代理だ」と名乗り上げる女が現れた。死んだ魚のような目をした男、チョウは身に起こったことを振り返る。雨はまだ止みそうにない。
本作を端的に云えば「警察に追われた男が、妻のためにお金を工面する話」だが、事態は簡単に進まず、観ている側に焦燥感を与える。物語がこれから起こるのではなく、既に起きた話の後日談を見させられているような不思議な感覚を覚えた。ちょっとしたやっかみで恨んでくる対立仲間、娼婦だと告げる謎の女、警察に見張られ夫と会うことが許されない妻。キャラクターが少なく、セリフも少ないことが本作品の魅力の一つにもなる。映画のカラートーン、雨の演出、男の身につける服や家具、影と電飾のコントラスト、不毛な男女関係が絡み合い、複雑なストーリーが織り成されていく。観ていると次第に心苦しくなっていくが、画面から目を逸らせなくなってしまう。
ディアオ・イーナン監督の前作『薄氷の殺人』(2014)でも感じたが、とりわけ目を引くようなギミックがあるわけでもないのに、物語に没頭させる力を本作は持っている。言語化が難しい無意識の演出と云うべきか。ディアオ・イーナンの虜になってしまった。どこにでもいそうな主人公のチョウを映画らしくない登場人物として描いており、監督特有のバランス感覚が秀でている。『薄氷の殺人』では儚い表情を見せたグイ・ルンメイだが、今作では更に無邪気な少女のような佇まいに驚いた。彼女の透明感を放つ演技とフー・ゴーの粗野な演技が良い組み合わせ。まさに「どうしようもねえ男のどうしようもねえ話」であり、焦燥的な気持ちになって鑑賞してほしい。
from君山
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!