夢破れた若者達が歩んでいった先にある人生を描きたかった…『東京バタフライ』佐近圭太郎監督に聞く!
かつてメジャーデビュー寸前まで行くほどの人気を集めながら解散した大学生バンドのメンバー達が6年後に再会する姿を描く『東京バタフライ』が9月25日(金)より関西の劇場でも公開。今回、佐近圭太郎監督にインタビューを行なった。
映画『東京バタフライ』は、同じ夢を追いかけた4人の若者たちの人生の再生を描いた人間ドラマ。『進撃の巨人』『甲鉄城のカバネリ』『ヴィンランド・サガ』などで知られるアニメーションスタジオのWIT STUDIOが制作に携わった実写作品の4作目。大学時代にバンドを組んでいた4人。バンドはメジャーデビューが期待されるほどの人気を誇っていたが、デビュー寸前にささいな行き違いで解散してしまった。あれから6年、30代を目前にした彼らは、結婚や仕事、人間関係など、人生の悩みに直面しながら、それぞれの道を歩んでいた。そんな4人が、ふとしたきっかけから再び集まることとなる。シンガーソングライターとして活動する白波多カミンさん、『魔進戦隊キラメイジャー』の水石亜飛夢さん、『菊とギロチン』の小林竜樹さん、『台風家族』の黒住尚生さんが主人公の4人を演じるほか、松浦祐也さんや尚玄さんらが脇を固める。監督は、池松壮亮さん主演の短編映画『家族の風景』を手がけ、本作が初長編作となる佐近圭太郎さん。
日本大学芸術学部映画学科監督コースで学んでいた佐近圭太郎監督。3年生の時に10分間の短編を作る実習があり、中川龍太郎監督の『Calling』に主演の藤村駿さんに出演してもらう。そこで中川監督と出会い、親交を深めていく。しかし、台風により撮影が延期となり、中川監督作品の撮影とまさかのバッティング。その報告が遅れてしまい御叱りを受け、謝罪後すぐに許してもらったものの、申し訳なさから縁遠くなってしまう。大学卒業後は助監督の仕事に就き、一年間頑張ったが、心身共にボロボロになり、最終的に実家に戻り、夜勤のバイトをしながら、インディーズバンドのMV等を2年ほど撮っていた。ある作品で昭和テイストな家のロケーションが必要になり、昭和感漂う家に住んでいた中川監督に撮影の使用許可をもらうために再会。当時の中川監督は『走れ、絶望に追いつかれない速さで』を撮り終えた直後で、かなり疲弊していた。お互いの近況報告をしながら「一緒に映画を作っていこう」と意気投合し、『四月の永い夢』の企画段階から携わることになる。撮影時には助監督を担当し、撮り終えたわった頃にTokyo New Cinema代表の木ノ内さんからもオファーをもらい、社員として本格的に映画制作へと携わっていく。中川監督から、プロットの書き方や物語の作り方、或いは、同志を集め映画制作を実現していく巻き込み力を学び「映画の中身だけに限らず、人との向き合い方や感謝の伝え方等、人として基本こそ、最も大事なんだということ意識するようになりました」と現在も日々精進している。
中川監督の近作に制作として携わっているWIT STUDIOの河口友美さんから本作の原案となる脚本を受け取った佐近監督。当初は、解散したバンドが再集合して自分達の音楽を取り戻すストーリーだったが「昔から、スポットライトが当たらない日陰にいるような人達に興味があった。夢破れた若者達が歩んでいった先にある人生に興味があり、そこを描いてみたかった」と告白。さらに、『モダン・ラブ』の福島拓哉監督が脚本協力として携わっている。中川監督は『走れ、絶望に追いつかれない速さで』を撮り終えた直後、助監督の視座から現場を学ぼうとして、親交があった福島監督のCM撮影現場に助監督として参加していた縁があり、佐近監督も「僕が心身共にボロボロになって一度実家に引っ込んでいた時期に、映像制作の世界に戻るきっかけを与えてくれた恩人」と信頼を寄せていた。本作を制作する中で「初めての長編映画で脚本執筆は大変だった。群像劇であったため、4人のエピソードの配分が難しい。河口さんの脚本をリライトしていくにあたり、行き詰ってしまった」と打ち明け「福島監督はそんな僕の思いを汲み取り、バンド回りの台詞を中心にアドバイスを与えてくれ、非常に助けられました」と感謝している。
主人公の4人について、仁と稔はオーディションで決め、修は小林竜樹さんにオファーしていたが、安曇は演奏シーンもあり、役柄の性質を考慮してミュージシャンの起用を検討していた。プロデューサーから若手アーティストを紹介してもらいYouTube等で確認していったが、役に合う人が思うようには見つからず。49人の候補がいても決まらない状況の中で、プロデューサーから最後の1人として紹介されたのが白波多カミンさんだった。「バタフライ」のMVを観て、楽曲に衝撃を受け「白波多カミンさんのアンニュイな表情と独特の存在感に魅せられ、この楽曲が映画で流れたら気持ち良いだろうな」と感じ、プロデューサーに直訴。白波多さんにお会いして直接オファーした。主役を依頼された白波多さんは、あまりに突然の連絡だったため「詐欺だ、私は騙されている」と当初は疑ってしまったが、佐近監督の思いを受けとめ、戸惑いながらも出演を快諾する。白波多さん自身もメジャーデビューした後にバンドが解散しており「安曇と同じような経験をしていた。彼女自身も今後の活動について悩み考えていた時期だった」と鑑み、新たな挑戦に対する意志を汲み取った。なお、主人公4人を取り囲む人物達も抜群のキャスティング。松浦祐也さんについては「制作前から気になっていった俳優。独特の雰囲気もあり、いつか必ずご一緒したいと思っていた」と熱望し、ピッタリの役柄をオファー。また、ショートショートフィルムフェスティバルに監督した短編映画『女優 川上奈々美』がノミネートされ映画祭に出席した際に尚玄さんと偶然お会いし、様々な話をして魅力を感じ「映画を本当に愛していて、若手と何かを作りたいという情熱を感じ、人間味のある音楽プロデューサーの役柄に合っている」と気づき、本作への出演をお願いした。
本作は、既に東京の劇場で公開を迎えており「理想の自分の姿と今の自分とのギャップに苦しむという経験は世代を問わず、どんな人にもあると思うし、自分もある理想に見切りをつけて生きてきた。そんな今の自分の姿も肯定してもらえた気がして気持ちが楽になった」という声を受け、嬉しく感じている。初めての長編作品を作り終え、佐近監督自身は、真っ直ぐに生きる人間を素直に描くことを大切にしており「どんな人も想いを持って生きている前提の中で物語を作っていく」と映画作りへの情熱は止まない。学生時代に、池松壮亮さん主演の短編映画『家族の風景』を手がけた経験を糧にして「次は、40代の独身貴族の女性が、折り合いのつかない実家に帰省する最中に起こる家族の物語を考えています」と未来に目を輝かせていた。
映画『東京バタフライ』は、関西では、9月25日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、9月26日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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