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家族の温かみや人の良心を描きたかった…『ひとくず』上西雄大さんに聞く!

2020年9月24日

虐待されている少女と、その母親、虐待された過去を持つ男の心の通い合いを、真摯なまなざしで描き出す『ひとくず』が関西の劇場でも10月16日(金)より公開。今回、監督、脚本、主演を務めた上西雄大さんにインタビューを行った。

 

映画『ひとくず』は、児童虐待や育児放棄をテーマに描いたヒューマンドラマ。母親の恋人から虐待を受け、母親からは育児放棄されている少女・鞠。ガスも電気も止められた家に置き去りにされた彼女のもとに、ある日、さまざまな犯罪を繰り返してきた男・金田が空き巣に入る。幼いころに自身も虐待を受けていた金田は、鞠の姿にかつての自分を重ね、自分なりの方法で彼女を助けようと、鞠を虐待していた母親の恋人を殺してしまう。一方、鞠の母親である凜も、実は幼いころに虐待を受けて育ち、そのせいで子どもとの接し方がわからずにいた。金田と凜と鞠の3人は、不器用ながらも共に暮らし始め、やがて本物の家族のようになっていくが…

 

児童相談所の嘱託医である楠部知子先生は虐待に遭っている子供達を沢山看ており、上西さんは、様々なケースについて伺った。特に衝撃だったのは、アイロンで火傷させられた子供が沢山いること。しかも、一人や二人の特殊なケースではなく沢山あること。この事実を「沢山いますよ」と普通に云われ、これが現実であると実感した。衝撃を受けると同時に、性的な虐待に関しても訊いていき「本当におぞましい。人間がすることじゃな。怒りでどうしたらいいか分からなくなりました」と嘆かざるを得ない。現在の行政や法律では、子供が虐待を受けていることを訴えないと手を出すことができない。だが『虐待されていません』と子供が言う。正直に言えば親と離ればなれになる、と云われる。その後は虐待に遭うと分かっていながら、子供を置いて帰り、どうしようも出来ないので「聞いた話を心の何処に置けばいいのか分からない」と情緒不安定な状態で上西さんは考えていた。寝ずに寝られず、虐待にあっている子供を救える人間について考え出し「法律も無視して何でも出来るような価値観を持つ人間は、破綻した人間かな」と思い、金田という人間を想像していく。「社会的に破綻した人間は利己的な人間。自分の為に法を犯す。そんな人間が人の為に何かするかな」と疑問を持ちながら「同じような虐待を受けていたことがある人間なら、かつて子供だった自分を救うように手を差し出さないかな」と金田の人間像を作り上げていった。すると「金田を救いの場に連れていきたいな」と思い、物語を想像し始め最後まで辿り着き、脚本を書くことにする。深夜2時に書き出し、昼前には書き終え、気持ちの整理が出来た。書いた内容を読み返しながら、楠部先生から「一番の抑止は、周囲の人が関心を持つこと」だと云われことを思い出し「自分自身も虐待について目を背けていたな」自らを責めながらも「作品に出来たら、虐待に目を向けることにも繋がるんじゃないな」と本作を作る気持ちに至る。

 

「劇団テンアンツ」を主宰する上西さんは、当初から映像がある台本として書いており「舞台だと観る人は限られてしまう。映像として広がっていけば、劇団の力が及ばないところでも上映して頂け、多くの方に観て頂ける」と考え、舞台化は想定していなかった。映画を制作するにあたって「リアルな人間をどれだけ作り込めるか」と気をつけ、主役を演じるにあたり「金田は物凄く怯えた人間。あんな目に遭えば、虐待に対する恐怖は消えない。怯えが残り、自分が虐待を受けたことに対する恥じる思いもある」と鑑みる。また「過去を隠して人に見抜かれることに怯え、少年院や刑務所を出入りして教養がなく教育を受けることがなく育った彼なら、教養がないことを人に見透かされて軽蔑されることを恐れる」と気づき「様々なことで怯える思いから暴言を吐くし、傷づけられることが怖くて人を傷つけてしまう生き方を彷徨っている人間かな」と自覚して演じていった。また、金田について「誰もが目を背けたくなるような共鳴できないような奴」だと自ら表現するが「物語が進むにつれて、鞠と出会い金田も救われていく。最終的に、穏やかに様々なことを話せるんじゃないか」と説く。その上で「人に忌み嫌われるような人間なんですが、その中で一人の刑事が表面的な金田を飛び越えて彼の心を見ていく。あんな人間が傍にいることで救いになる」と示し「世の中から刑事のように飛び越して温かい言葉や関心を持っていれば、なにか助けてやれるんじゃないか」と案じる。そこで「虐待を受けている子供は怯えの中にいる。虐待をしている親も負の連鎖の中に置かれおり、皆が怯えの中で生きている。怯えの中に生きているから、余計に世の中との差が生じて虐待の中で動けずにいる」という視点を以て「当事者だけで虐待から抜け出すことは難しい。周りの方が関心を持って心を見ていけたら、虐待に対してアプローチできるかな」と実感した。

 

金田を演じると同時に、本作の監督を担った上西さんは「虐待される子供を演じた二人に、虐待を疑似体験させたくない」と心掛けていく。鞠を演じた小南希良梨さんに対して、お腹を空かしアイロンを当てられ火傷をつけられた子供の気持ちを考えさせるような演出を一切しておらず、演技力を見込んで「何を見てどう表現するか」を依頼して演じてもらった。鞠の気持ちを再現する演出をしていないが、小南さんが台本を読んで理解していることを踏まえながら「素直に演じてもらいながら、彼女の中には鞠を演じる要素が生まれていたのだろう」と十分に配慮しており「演技でしっかりと応えてくれた」と感謝している。なお、ベテラン俳優の方々にも出演して頂いているが、かつての御縁が繋がったお陰だ。木下ほうかさんには、まず台本を送り読んで頂き、実際に会って承諾頂いている。当時を振り返り「深夜に2時間も話させて頂いて賛同して頂いた。本を読んで力添え頂けた。初対面だったんですけど、有難く、素晴らしい方でした」と感慨深い。田中要次さんについても「台本を読んで頂いて快く受けてくれた。現場ではスタッフ皆に声をかけてもらった」と温かい人柄を称えた。

 

本作は、既に外国の映画祭で上映され、好反応を得ている。現地では、まず映画として観てもらった上で、虐待の問題を認識してもらっており「笑えるシーンで笑ってもらった上で、泣く場面では皆さんに泣いて頂いた。上映後にはスタンディングオベーションが起こる。その後に虐待に対するメッセージを受け取って頂いている」と実感。日本での劇場公開についても「虐待に関する重い悲しい映画に思われると、そうではないので分かって頂きたい」と願っており「虐待をテーマに描いたのは、家族の温かみや人の良心をドラマとして描きたかった。決して観た後にどんよりと暗く悲しい気持ちで劇場を後にするのではなく、逆に暖かく感動した気持ちで劇場を出ていける作品にしています」と表現する。痛みからの救いを大切にして「人を悲しく追いやるのは人、人を救うのも人。人の心にある良心がどうなるか」と深く考えており「ずっと人間を描きたい。人間の心を役者がしっかりと演じて届ける作品を今後も作り続けていきたい」と上西さんは自らの作品に今後も取り組んでいく。

 

映画『ひとくず』は、関西では10月16日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田と京都・九条の京都みなみ会館、11月13日(金)より茨木のイオンシネマ茨木で公開。また、神戸・元町の元町映画館でも近日公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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