映画監督は絶対にリモート制作をやった方が良い!『はるかのとびら』松本大樹監督に聞く!
怪しいボイストレーナー・みほの狂気を描いた神戸発のインディペンデント映画『みぽりん』を手掛けた松本大樹監督がリモート制作映画『はるかのとびら』をYouTube上で公開した。今回、松本大樹監督にZoomを用いたインタビューを行った。
映画『はるかのとびら』は、現在の状況下で心の闇を抱えてしまった女性が自分を取り戻すまでの様子を描く。新人タレントの津田晴香は緊急事態宣言を受け、外出自粛をする中、眠れない日々を過ごしていた。そんな晴香を励まそうと、同じ事務所の先輩たちから次々とビデオ電話がかかってくる。しかしどうしても気分が乗らない晴香。そこで、事務所のリーダー格の女優・垣尾麻美が立ち上がる。
元々は、『(500)日のサマー』を観た松本監督が、独特の映像表現を自作にも活用できないかと構想していた。『(500)日のサマー』では、理想と現実を2画面に分けて表現している。「理想では彼女と上手くいっている。現実では上手くいっていない。2つの同じ出来事を結果が違うかたちで見せていく」と関心を寄せ、ビデオ会議ソフト「Zoom」を用いて画面分割をすればおもしろい、と着想。現状を鑑み、理想が現実を飲み込んでいく表現を用いたストーリーを作っていった。
同時に、意欲ある映画監督によるリモート制作映画も観ていく。『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督による『カメラを止めるな!リモート大作戦!』について「真魚ちゃんの演技に感動しました。泣いちゃった」と感想を話しながらも、盛り上がれなかった部分もあったことを告白。「精神的にも弱っていた時だった。『はるかのとびら』は、楽しめないぐらい落ち込んでいる人に向けて作りたい」と自作に昇華していく。また、『一文字拳 序章 カンフー少年 対 地獄の殺人空手使い』の中元雄監督による中元雄監督『地獄のテレワーク 電脳戦士ヤスダ対暗黒企業』についておもしろく感じており「Zoomではなく、FaceTime等の高音質なソフトウェアを用いて画面をキャプチャしています。あぁいう撮り方もアリだな。隣人の覗きというアイデアも素晴らしい」と称えた。当初は「リモート制作が出来るかな」と不安があったが、二人の作品を観て「出来るな」と確信しチャレンジ。緊急事態宣言の延長が宣言された5月4日の夜に制作を決意し、『(500)日のサマー』のような映像表現と結びつけた。
撮影にあたり、出演者は自宅を掃除して綺麗にしながら、カメラのアングルを拘り、入射光を調整していく。だが、ビデオ通話画面を用いた撮影による負担はなかった。松本監督は各シーンを撮りながら、撮影素材を確認して、再撮影したいしーんがあれば、俳優を呼び出して撮り直す。少しずつ撮りながら編集点を作って繋げて作品を仕上げていく。監督がホストとなり演技を見ながら撮影することで、通常の撮影より集中しやすかった。例えば、普段の撮影では、会話シーンの場合、現場では全員の顔をチェックできない。だが、リモート制作では、喋っている人も聞いている人の顔やリアクションも確認できる。監督は、演出だけに集中でき「撮影ってこんなに楽しいんだ」と実感。分業の素晴らしさに気づき「映画監督は絶対にリモート制作をやった方が良い。次に現場へ出た時に活きる経験ですね」とお勧めする。『みぽりん』では、演技については役者に任せ、現場の環境を整え、カメラのフォーカスやライティングを合わせ、食事も含めて製作も一人で担っていた。次の作品を撮る際には、助監督を入れて、自分が演出に集中できる環境を作ることを念頭に置いている。
『みぽりん』を関西の映画館で上映した際には、鑑賞したお客さんがSNSに感想を投稿してもらい、お客さんと直接話しながら盛り上下ていくことができた。まさに、劇場とお客さんによって育った作品。だが、YouTubeでの公開になると、一度アップロードした後には様々な動画がある中で埋もれてしまうことを松本監督は危惧しており、作品の届け方を難しく感じている。とはいえ、SNSで拡散するしかないが「今後に盛り上がったとしても、忘れ去られてしまう。こんな作品があったことを覚えていてもらいたい」と。映画館で上映することとの違いを認識した。課金についても憂慮しており「タダほど高いものは無い。配信だとサブスクリプションや低料金設定となり難しい。インディペンデント映画を配信しても誰が観るのか」と悩ましい。今後も、様々なプラットフォームが出来ていくことを鑑みながらも一考している。だが「ぼやいてばっかりいられない。作り続けることを止めない。考えながら走り続けます」と気持ちは前向きになっており「今月にリモートで1作品撮りたい。明るくて、エンターテイメントなジャンル系作品を」と、画面の向こうでは未来に向かっている松本監督が存在していた。
映画『はるかのとびら』は、YouTube上で絶賛公開中。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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