皆に好かれなくても良い、自分達の表現したい作品が実現した…!『さよならテレビ』圡方宏史監督と阿武野勝彦プロデューサーを迎えトークショー開催!
自社の報道部にカメラを入れ、テレビの現場では今何が起こっているのかを追っていく『さよならテレビ』が、1月4日(土)より関西の劇場でも公開。1月5日(日)には、大阪・十三の第七藝術劇場に圡方宏史監督と阿武野勝彦プロデューサーを迎え、トークショーが開催された。
映画『さよならテレビ』は、現在のテレビの現場で何が起こっているのか探ったドキュメンタリー。さまざまな社会問題を取り上げたドキュメンタリー作品を世に送り出している東海テレビによる劇場公開ドキュメンタリーの第12弾。潤沢な広告収入を背景に、情報や娯楽を提供し続けた民間放送。しかし、テレビがお茶の間の主役だった時代は過去のものとなり、テレビを持たない若者も珍しくなくなってしまった。マスメディアの頂点に君臨していたテレビが「マスゴミ」とまで揶揄されるようになったのは、市民社会が成熟したのか、それともテレビというメディア自体が凋落したのか。テレビの現場で何が起きているのかを探るため、自社の報道部にカメラを入れ、現場の生の姿を追っていく。
2018年9月に東海テレビ開局60周年記念番組として東海地方限定で放送されたドキュメンタリー番組に40分以上のシーンを追加した。
上映後、圡方宏史監督と阿武野勝彦プロデューサーが登壇。満席立ち見完売札止め状態の中で多い賑わったトークショーとなった。
『さよならテレビ』の構想自体を『ヤクザと憲法』と同じタイミングで思いついていた圡方監督は、自社や仲間を撮ることが怖く、まずは『ヤクザと憲法』を撮った。結果的に、取材者であるドキュメンタリー取材班もカメラに追われることを認識し「自分達が観ても居心地が悪い状態を維持できた」と納得している。今作は、製作スタッフの中でも意見が分かれ、自画像を真正面から描けているか議論した。劇場公開を迎え「一般のお客様が観てどのように思われるか」と不安と緊張の面持ちで登壇している。
昨年1月に定年退職のタイミングだった阿武野プロデューサーは、58歳の時に圡方監督から企画書を提示され「平穏に定年を迎えられない」と率直に感じた。「取材対象にタブーはないよ」と日頃から言っており、今更否定できず「やってみたら」と伝える。阿武野さんが38歳の頃にメディア・リテラシーが云われ始めており「当時の報道局長は新し物好きで、随分と云い始めた。私に『メディア・リテラシーを題材にしろ』と命じ、番組を制作した」と振り返っていく。当時は、小・中・高での学校における視聴覚教育からの延長上にあるメディア・リテラシーやニュースの作られ方を描き、タブーな取材を暴こうとしたが、突然3年間の営業への人事異動を命じられ、曰く付きの題材となった。だが「当時と現在では東海テレビの考え方も変化している」と感じている。
テレビ版の『さよならテレビ』は週末の16時台に放送されたが、視聴率は2.8%だった。一般の視聴者からは「見れなかった現場が見れた」という反応があったが、同業者からの感想が多く、当初の意図とは違ってしまう。今回の劇場版で初めて一般の方による率直な反応を聞けることになった。なお、テレビバージョンは77分、劇場版より30分程度短い。最初は、映画版に違い長い作品を作っており、テレビ向けに切っていった。圡方監督も個人的には気に入っているが、必ずしも必要ではないシーンやメインとなる登場人物の人となりを表す場面を切っている。テレビ番組は視聴者を飽きさせないような作り方をしており、テンポを早くしているが、今回は「全体的にゆったりと延ばしている」と明かした。この後、お客さんからの賛否両論含めた活発な質疑応答が絶え間なく交わされていく。
最後に、圡方監督は、取材や編集の際に「関係者全員が手放しで喜べないような作品にしよう」と話していたことを振り返る。これまでは、作り手、取材対象者、視聴者やお客さんが三方良しとなる作品を目指してきたが「この作品はそうならない。今のテレビの現状を撮り、皆が居心地悪い気分になる。舞台挨拶が少し荒れるような状況があってほしい」と願った。「そんな状況にならないと帰って危ないぞ」と思いながら、スタッフの中でずっと話しており「僕らがテレビ番組を作る時、反対意見が来ることを怖がっており、誰からも嫌われない番組をずっと作っている。だから今お客さんに飽きられている」と実感。「今回は皆に好かれなくても良い。自分達が表現したい作品を表現しよう」と、普段のテレビ番組を作っている時とは真逆の感覚で作っており「この感覚がテレビ番組に必要だ、という思いがあります。自分達が思っていることを出し切った」と話し、清々しい気持ちを以って感謝を伝え、トークショーは締め括られた。
映画『さよならテレビ』は、大阪・十三の第七藝術劇場、京都・烏丸の京都シネマで公開中。また、1月18日(土)より、神戸・元町の元町映画館で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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