昭和の在りし日の景色を観てほしい…『わたしは光をにぎっている』松本穂香さんと中川龍太郎監督を迎え舞台挨拶開催!
銭湯の仕事を手伝う女性が、そこに集まるさまざまな人々と関わることで、前進していく姿を映し出す『わたしは光をにぎっている』が11月22日(金)より関西の劇場でも公開。本公開に先駆け、10月25日(金)には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田に松本穂香さんと中川龍太郎監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『わたしは光をにぎっている』は、注目の若手監督である中川龍太郎さんが、ひとりの若い女性が自分の力で自分の居場所を見つけていく過程を描いたドラマ。20歳の宮川澪は、両親を早くに亡くし、祖母と2人で長野県の湖畔の民宿を切り盛りしていたが、祖母が入院してしまったことで民宿をたたまざるを得なくなる。父の親友だった涼介を頼りに上京し、涼介が経営する都内の銭湯に身を寄せた澪は、都会での仕事探しに苦戦し、次第に銭湯を手伝うようになる。そして個性的な常連客たちと交流し、徐々に東京での生活に慣れてきたある日、銭湯が区画整理のため閉店しなければならないことを知った澪は、ある決断をする…
NHK連続テレビ小説「ひよっこ」やauのCM出演で知られ、『おいしい家族』など出演作の公開が続く松本穂香さんが主演を務めた。
上映後、松本穂香さんと中川龍太郎監督さんが登壇。若い女性の成長譚であると共に現代の都市開発に一石を投じている本作の魅力を語る舞台挨拶となった。
関西の劇場では今回が初上映となる本作、堺市が地元の松本さんは「いかがでしたでしょうか」と伺ってみる。演じた澪はおとなしくも難しい役であったが「監督が当て書きした役は台詞が少なくとも、難しいことはなかった」と明かす。「澪と私は似ているところがあり、コミュニケーションが上手じゃなかったり、声が小さかったりします」と説明するが「ただ弱い人には見せたくなかった。私自身の中にも譲れないことや変な正義感があるので、澪にもそんなところがあるんだろうな」と意識したことを思い返していく。中川監督は、最初に松本さんとお会いした時、物凄く静かな方だなと感じ「きっとこの人は凄く気が強いんだろうな」と思いながらも「静かな方が澪さんに繋がる」と直感しオファーしていった。
現代の都市開発を重要視して描いている本作について、中川監督は「自分の故郷は神奈川。下町で治安が良くなかったけど、親切な商店街のおじさんがいる優しいコミュニティがあったんです」と述べ「久しぶりに戻ったら、自分の家がどこにあったか分からないほど変わっていた。あのおじさんは何処に行ったのか」と嘆く。「その場所で自分の父と母が出会って愛を育んで僕が生まれ、おじいちゃんに自転車を教わって…そんな思い出が根こそぎ奪われた気がした」とショックを受け「その場所を自分の子供や孫に継承出来ない」とに焦りのような感情を抱いた。今回、ドキュメンタリーとして撮るとメッセージが強く出てしまう、と考えた時に「松本さんの存在が大きかった。松本さんを主人公にすれば、僕の怒りや悲しみを間接的に表現出来る」と気づき、描いていく。松本さんは本作を客観的に捉え「一つの映画として最初から最後まで楽しめました。とても大好きな映画になり、もう一度観たいな」と印象的に残っている。本作には、昭和の頃にはあった雑然とした街が切り取られているが、中川監督は「そろそろ都市開発によってなくなっていく。今の日本社会にはカオスが必要で、残しておいてもらいたい。或いは僕らでもう一度作っていく」と心から願っていた。松本さんも「言葉で上手く言えないですが、監督には熱い気持ちがあり、私も教わることがあり、モノの見え方が変化していく。様々な人の心に残っていく映画になれば嬉しいな」と願ってやまない。
今作には、数多くの著名人からコメントを頂いた。スタジオジブリの鈴木敏夫さんから「この国も捨てたもんじゃない。こんな美しい日本映画を作る若者がいる」と絶賛して頂いている。中川監督は「『魔女の宅急便』が公開されたころは、都会に行くことや異性と出会うことに輝きがあった時代。今、日本人の若い人は地味になっているけど、悪いことではない」と説く。「東京に行って自己実現しようとした時、自立するというストーリーは、『魔女の宅急便』と同じような話は今の時代には難しい。澪さんは元々は出てきたくて出てきたわけでない。その中で出来上がった自己実現はささやかであっても構わない」と表現し「『魔女の宅急便』を現代にアップデートさせたくてささやかに作った作品なので、鈴木さんがコメントを言ってくれるのは励みになります」と感謝していた。
予告編にも映されているが、お湯をすくうシーンが印象的に残る本作。松本さんは、独特な演出だと受けとめており「お湯の温度を感じ、お湯を慈しむように、水の綺麗さや光を、監督が実践してやってくれた。その時間は夢のようなファンタジーの世界」だと表現し「お湯を出したところから現実に戻る」と意識的に観てみることを提案する。これを受け、中川監督は「澪さんが自身の内側に入ってくる場面がそれまでにはない。心を閉ざしオープンではない子だけど、外からの刺激に対して彼女がリアクションを見せていく映画」だと考えており「あの場面は完全に一人ぼっちになって自分と向き合う。お湯の温度を感じることによって、澪さんが自部の内面に深く降りていく」と解説した。松本さんも「自分の内側に入り込んだシーンの一つですね。もう一つは湖に入った時。澪が自分と向き合う時間は意味があった」と加えていく。中川監督は「水は、宗教的なモチーフ。水とつながることで澪は一つずつ人間として成長していく」と伝えていく。なお、このキラキラとした映像の裏側には、中川監督による「羅生門作戦」があった。黒澤明監督が、森を撮影する時、衣装部が持っている鏡を森の外から継ぎ足して照明代わりにした作戦があり「浴槽の下に鏡を貼り付けて光を当てると水面が揺れるほど光が乱反射して綺麗に撮れる」と明かしていく。
最後に、中川監督は「この映画が少しでも広がることによって、ここに本当にあった景色を多くの人に見てもらえたら幸せだな」と思いを込めていく。松本さんは「日々辛いこと、しんどいこと、先が見えないことがあると思うのですが、自分の好きなものとか目の前にある出来ることを少しずつ頑張ることで何か見えてくるモノも沢山あると思っているので、日々一緒に頑張りましょう」と伝え、舞台挨拶は締め括られた。
映画『わたしは光をにぎっている』は、11月22日(金)より、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、11月23日(土・祝)より、京都・烏丸の京都シネマ、11月29日(金)より、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸をはじめ、全国の劇場で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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