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多くの人の心に凪が訪れますように…『凪待ち』香取慎吾さんと白石和彌監督を迎え完成披露舞台挨拶付き先行上映会開催!

2019年6月19日

人生につまづき、落ちぶれた男が、パートナーの女性とその娘と共に人生を再出発させようと奮闘する姿を描く『凪待ち』が6月28日(金)より全国の劇場で公開。6月19日(水)には、大阪・梅田のTOHOシネマズ梅田に香取慎吾さんと白石和彌監督を迎え、全国縦断完成披露舞台挨拶付き先行上映会が開催された。

 

映画『凪待ち』は、『孤狼の血』の白石和彌監督が、香取慎吾さんを主演に迎えて、『クライマーズ・ハイ』の加藤正人さんが脚本を手がけ、人生につまずき落ちぶれた男の喪失と再生を描くヒューマンサスペンス。無為な毎日を送っていた木野本郁男は、ギャンブルから足を洗い、恋人・亜弓と彼女の娘・美波とともに亜弓の故郷である石巻に移り住むことに。亜弓の父・勝美は末期がんに冒されながらも漁師を続けており、近所に住む小野寺が世話を焼いていた。人懐っこい小野寺に誘われて飲みに出かけた郁男は、泥酔している中学教師・村上と出会う。彼は亜弓の元夫で、美波の父親だった。ある日、美波は亜弓と衝突して家を飛び出す。亜弓は夜になっても帰って来ない美波を心配してパニックに陥り、激しく罵られた郁男は彼女を車から降ろしてひとりで捜すよう突き放す。その夜遅く、亜弓は遺体となって発見され……。
『くちびるに歌を』の恒松祐里さんが美波、『ナビィの恋』の西田尚美さんが亜弓、『万引き家族』のリリー・フランキーが小野寺を演じる。

上映前に香取慎吾さんと白石和彌監督が登壇。満員のお客さんと共に穏やかな舞台挨拶となった。

 

現在、2人は全国を縦断しながら完成披露の舞台挨拶で回っている。白石監督は「完成披露で全国をまわるのは珍しい」と感じており、香取さんは「僕も初めてのことですが、完成披露を何回も出来るのは嬉しいです」と喜びを表す。香取さんにとっては、ファンミーティング以来の大阪だが、以前は名物の食べ物を食べられておらず「今日は、映画館の楽屋にタコ焼きが用意されていたんです。8個を2秒で頂きました」と大変に満足している。白石監督は大阪で『彼女がその名を知らない鳥たち』を撮ったこともあり「大阪の方々の懐の深さや優しさを身に受けながら、毎回楽しみに来ています」と伝えた。

 

今回、これまでの印象とは違う役を演じた香取さんは「辛い苦しい思いで下を向く瞬間が多い役だったので、撮影期間中はその気持ちに引っ張られる部分もありましたね」と告白。撮影では、合間の時間になったら「イェーイ!」とテンションを上げる時間は無く「始まってから最後まで気持ちが一貫して続いている役だったので、1ヶ月の撮影期間はずっとその思いでいましたね」と振り返る。基本的に笑顔がない役だが、1ヶ所だけハイタッチするシーンを挙げると、白石監督は「最初に香取さんとお話しした時も、ハイタッチの時はどういうテンションでいけばいいか聞かれましたね。辛い気持ちが体の中に沈殿していく役なので、お願いしておきながら、申し訳ない気持ちで一杯でしたね」と詫びた。

 

主人公の郁男はギャンブルにハマって人生を変えようと大勝負に出るシーンがある。白石監督は「僕は20歳からカチンコを叩き始め、映画の世界で生きてきた。監督になれるかどうかのタイミングでは、もう辞めようかな、と思う時があった。安くてもいいから小さい自主映画を撮ろう、と決めた時に貯金をはたいて博打を打ちましたね」と人生の大勝負を顧みた。今では「あの頃の自分に、香取さんと仕事するんだ、と教えたいですね。もう少しお金張ったのにな」と笑い話にも出来るようになっている。香取さんの場合は「う~ん…今はまだしていないですかねぇ。こんなにいろんなことがあったのに、30年以上の芸能生活、まだ勝負していません」と言い切り「まだまだこれからですから、これからどこかいつか人生の大勝負をしたい」と目を輝かせていた。

 

香取さんは、撮影期間中について「意外と役の雰囲気が出ているんですよね。『こち亀』の両さんや『西遊記』の孫悟空でも役のまんま。それぞれの監督達が違う僕を見てくれている」と認識している。白石さんは、香取さんについて「カメラと被写体の関係性において、シンプルな映画のことを物凄く分かっていらっしゃる」と衝撃を受けており「シンプルなことを説明するのが一番難しい。僕が言ったことを理解して、カメラの立ち位置を理解してくれてビシッと決めてくれる。俳優的な技術力が物凄くレベルが高い」と絶賛した。これを受け、香取さんは「この作品に参加できて、僕は幸せ者だなと思ってます。白石組を見たら、また香取慎吾がいるって言われるようになれたらな」を期待している。白石監督も「是非!何でもやるというので」と楽しみにしていた。

 

本作の注目ポイントについて、白石監督は「途中で、郁男がそこでビール開けちゃうの!?というシーンがある」と挙げ「郁男の表情に僕は現場でゾクゾクしながら『俺は凄い映画を今撮っている』と一人ほくそ笑んでいた。ぜひ感じてほしい」と期待を込める。香取さんは「映画全体で、僕が演じた郁男という役は逃げる男であり、いろいろな感情を以て周りの人間から逃げている。何かが起きそうな話の後ろにいる僕が自然に少し後ろに下がっている。その瞬間に下を向いていたり、言葉だけじゃなく感情が勝手に体を動かしたりしている郁男の細かい描写も観てもらえたらおもしろいかな」と提案した。

 

最後に、白石監督は「ちょうど一年前は撮影真っ最中でした。ようやく皆様にお届けすることができる日が来ました。心の中に波が立つ社会や出来事が沢山ありますが、多くの人の心に凪が訪れますように思いを込めて作りました」と思いを伝えていく。香取さんは「この作品に参加できて幸せに思っています。撮影は去年だったんですが、僕が観たのはその後10月ぐらい。完成した作品を観させて頂いた時からずっと6月28日(金)の公開を心待ちにしていたので、今日皆さんに観て頂くことを嬉しく思っています」と感謝し「皆さんの心に引っかかったり感じたりすることがあったら、それを一人でも多くの方に伝えてもらって、より多くの方にこの作品を感じてもらえたら」と思いを込め、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『凪待ち』は、6月28日(金)より全国の劇場で公開。

どうしようもないダメな男の再生を丁寧に描いた本作。作中では、後ろめたさを全開にした雰囲気を放つ。絶望と希望が渦巻く静かなギャンブルシーンにおける一喜一憂は、白石和彌監督の手腕が光っている。

 

無意味な毎日を過ごしていると、途轍もない喪失感に襲われ目の前のことから逃げ出したくなることが何度もある。本作の主人公である郁男も同じ。自分を見失ってギャンブルをしている時、郁男は生きている心地を微かに感じる。だが、ギャンブルでは郁男の心に空いた大きな穴は埋まらない。人間は不幸が続くと何をしても空回りな結果ばかりが目立ち、悪循環に陥ってしまう。自分を「疫病神だ」等と決めつけて外界との交流を拒み、どんどん視野が狭くなる。挙げ句の果て、絶望という名の海に放り出されてしまい、近くを通った助け舟すらも見えなくなってしまう。

 

本作は、絶望の海で今にも荒波に揉まれ溺れてしまいそうな郁男と、彼を取り巻く環境を見事に描いている。今作を鑑賞し実際に救われる人も数多くいるのではないか。抗うばかりではなく、時には荒波が穏やかになるまで待ち、絶望から這い上がるのも一考。『凪待ち』というタイトルに込められた思いを想像すると胸が熱くなる。

fromねむひら

 

人生で最も「死にたい」って感情に近づいた。

 

「これ以上のどん底はないだろう」と思ったら、まだ落ちる、落ちる、どんどん落ちる…苦しい、本当に苦しい。「おれはクズなんだ。最低野郎なんだよ」と叫んで、何度も自暴自棄になる郁男。彼は本来誠実な男だ。故に己の愚かさが許せない。「あとはもう、死ぬだけだ」という段階に来て差し伸べられる手が、周りの優しさが、たまらなく苦しかった。明日も生きなきゃいけないのか。

 

いや、でも、彼の涙は「生きたい」と言っていた。クズにも明日を迎える権利がある。

fromナカオカ

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映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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