観察映画第7弾『港町』いよいよ関西の劇場で公開!公開目前、想田監督に聞く!
前作『牡蠣工場』の撮影中に出会った岡山県瀬戸内市牛窓に住む人々を捉えた『港町』が4月21日(土)より関西の劇場で公開。今回、大阪での公開タイミングに想田和弘監督にインタビューを行った。
映画『港町』は、『選挙』『精神』『演劇』等を手掛けた想田和弘監督が、港町で暮らす人々にフォーカスを当てたドキュメンタリー。前作『牡蠣工場』の撮影で岡山県瀬戸内市牛窓を訪れた想田監督は、撮影の合間に港を歩き回り、その最中に町の人々と出会う。失われつつある土地の文化や共同体のかたち、小さな海辺の町に暮らす人々の姿と言葉が、モノクロームで映し出される。ナレーションやBGM等を排した想田監督独自のドキュメンタリー手法「観察映画」の第7弾として製作された…
今作は、『牡蠣工場』の撮影後、風景ショットを撮ろうと牛窓をウロウロしているところから始まる。そこで、86歳の漁師ワイちゃんに港で偶然出会った。ワイちゃんを撮っていくなかで、想田監督は「牡蠣工場の映像と合わせて1本の映画にするつもりだったが、編集段階で、『牡蠣工場』とは別の作品にした方が良い」と判断し、2本の映画に。ワイちゃんを撮る中でクミさんが画面に入り込み、最初は困惑したが「観察映画は、自然の成り行き、目の前に展開している現実を素直に撮っていく。クミさんを撮っていったら、いつの間にか主役級の重要人物になっていった」と明かす。だが、想田監督の観察映画では、誰を主人公にするかは決めない。撮れた映像が決めていく。クミさんは想田監督らを丘の上に連れていき、自身の半生を語り出す。その瞬間に「クミさんは映画にとって重要な存在になる」と予期せぬその内容に驚きながらも確信した。
想田監督による[観察映画の十戒]の1つに「ナレーション、説明テロップ、音楽を原則として使わない。それらの装置は、観客による能動的な観察の邪魔をしかねない。また、映像に対する解釈の幅を狭め、一義的で平坦にしてしまう嫌いがある。」があり、本作でも音楽は付けられていない。監督自身が十分に見聞した結果を映画にしているため「お客さんもじっくり観て聞いてもらった上で作品を解釈してほしい。音楽で感情を盛り上げたりせず、現実の音があるだけ。感じ方はお客さんに委ねた方が良い」と考えている。
ロケ地となった岡山県瀬戸内市牛窓は、日本の原風景といえる昔ながらの田舎だ。想田監督の故郷である栃木県足利市とは異なった空気が流れている。監督が育った当時は、田園を埋め立てた場所にマイホームを建てることが流行った時期であるため、車が中心の新興住宅地だった。監督が育った足利と大きく違う牛窓は「万葉集にも詠まれている古い町。車が登場する前に形成された。猫1匹が通れる路地がある程に入り組んでいる。家同士が近く、隣家の包丁が出す音や笑い声、往来の足音等がそこら中から聞こえてくる」と説明する。近代以前の古い田舎があり「強烈に惹かれる。牛窓に行くだけで、経験したことがなくとも懐かしい」と感じた。なお、想田監督作品には猫が多く登場するが「猫が大好き。視界に入ると撮らない選択肢はない。最近は自分の署名のように猫が入っている」と告白。牛窓の猫について「飼い猫は人馴れしているが、野良猫はもう少し警戒している」と感じ取った。
本作は、モノクロ映像で構成されている。当初、想田監督はカラーグレーディング(色調補正)まで済んだ時点で「色が重要な映画。特に、夕暮れ時の色。夕暮れ時に重要な出来事が起きるので、色には気を遣った。『港町暮色』というタイトルを付けていたほど、色が重要」だと思っていた。しかし、『港町暮色』は気に入らず、周りからも演歌みたいだと言われる。妻である柏木プロデューサーと相談した際に「モノクロにしたらいいんじゃないの」と提案された。色を大事にしている故に「何を言うのだ」と思ったが「モノクロにすると全く違う映画になった。しかも作品に合っていた。そこで『港町』が出来上がった」と振り返る。
なお、想田監督は次作『ザ・ビッグハウス』が公開待機中。全米最大のアメリカンフットボール・スタジアムであるミシガン・スタジアムを舞台にした観察映画だ。ミシガン大学で1年間の客員教授を担った際に3名の教師と13名の学生達と一緒に観察映画を撮った。当時は、アメリカ大統領選挙の時期であり「アメリカの光と影両方が映り込んだ作品。『港町』とは真逆。僕には思いつかないようなシーンを学生たちが沢山撮っていて、びっくりした」と紹介する。
映画『港町』は、4月21日(土)から、大阪・十三の第七藝術劇場で公開。4月22日(日)には想田和弘監督を迎えてトークショーや舞台挨拶を開催する。また、6月23日(土)からは京都・烏丸の京都シネマ、神戸・元町の元町映画館で公開予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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