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歴史的事実を知った時の危機感による衝動と感情が合わさって出来上がった…『HAPPYEND』空音央監督を迎えQ&Aトークイベント開催!

2024年10月12日

幼なじみで大親友のふたりの少年が、高校卒業を控えて自分自身と向き合い、徐々に変化していく姿をユーモラスかつシニカルに描く『HAPPYEND』が全国の劇場で公開中。10月12日(土)には、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸に空音央監督を迎えQ&Aトークイベントが開催された。

 

映画『HAPPYEND』は、『Ryuichi Sakamoto | Opus』の空音央監督が長編劇映画初メガホンをとり、ありうるかもしれない未来を舞台に、友情の危うさを独特のサウンドとエモーショナルな映像美で描いた青春映画。XX年後の日本。幼なじみで親友のユウタとコウは、仲間たちと音楽を聴いたり悪ふざけをしたりしながら毎日を過ごしていた。高校3年生のある夜、こっそり忍び込んだ学校で、ユウタはとんでもないイタズラを思いつく。翌日、そのイタズラを発見した校長は激怒し、生徒を監視するAIシステムを学校に導入する騒ぎにまで発展。この出来事をきっかけに、大学進学を控えるコウは自身の将来やアイデンティティーについて深く考えるようになり、今まで通り楽しいことだけをしたいユウタとの間に溝が生じ始める。共にオーディションで抜擢され本作がスクリーンデビューとなる栗原颯人さんと日高由起刀さんが主人公ユウタとコウをそれぞれ演じ、『ロストサマー』の林裕太さん、『サマーフィルムにのって』の祷キララさんが共演。2024年の第81回ベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に出品された。

 

今回、上映後に空音央監督が登壇。ロケ地となった神戸への愛情が伝わってくる舞台挨拶が繰り広げられた。

 

10月4日(金)に公開され、お客様の反応が様々であることを受けとめており「本当に深く刺さった人は涙して感想を伝えに来てくれる方もいる。世界の映画祭の方や日本での上映後に『自分も同じような経験があるんだ』と言ってくれる人もいる」と思い返す。

 

ほとんどが神戸で撮影された本作。「学校が全てですね」と断言し「神戸市立科学技術高等学校と神戸市立神戸工科高等学校がなければ撮れなかった作品なので、本当にありがとうございます。拍手を送りたいです」と感謝の気持ちを伝えていく。「深い懐で受け入れて頂いた。神戸という街自体も最初にロケハンで来て電車を降りた時から、道で座っていたおじいちゃんおばあちゃんから手を振られた。街自体に受け入れられた」と感じると共に「神戸フィルムオフィスの皆さんも素晴らしい方々ばかり。映画愛が熱く、それ以上に神戸愛が熱い。様々な場所に連れていってもらいました」と振り返る。「ロケハン中は神戸の家賃を検索していた」と打ち明けるほどに神戸を気に入っており、今回の機会を嬉しく感じていた。

 

昨年の夏に撮影しており「本当に暑くて、台風が2つも直撃する頃に撮っていた。そんな中で、高校の冷房設備のリプレイスする時期だった。本当に学生のエキストラも多いし、熱中症だけは気をつけて、皆のはたらきのおかげで無事に撮影を終えることができた」と労うと共に「学校の先生達までも様々に動いてくれた」と感謝している。なお、アタちゃん役の林裕太さんは暑すぎて制服がびしょびしょになりドライヤーで乾かすことを繰り返していたエピソードが明かされ、エキストラさんに対して「申し訳なかったです」と素直に気持ちを伝えていた。

 

 

ここで、お客様との質疑応答の時間に。表情や心情の変化を撮る上で大事にしていることを聞かれ「俳優メイン5人のうち4人は演技未経験。今回が初出演だった。ユウタ、コウ、ミン、トムは初出演。キャラクター達に似ている人達が奇跡的にも見つかった。ワークショップで気にしていたのは、空想上の物語の設定だけれども、その前提の中で如何に自分らしくいられるか練習していた。もし自分が同じような状況におかれたら、どういう反応をするのか、をしつこく聞いた。ワークショップでは、一緒に演じている相手にどれだけ集中をして自然な反応を得られるか、ばかりを見ていた。演技の経験がないけども自然体の状態で出来ていたんじゃないか。本当に良い表情は、本人達にとっても感情が動かされているような状態だったんじゃないか」と応える。メインキャストの5人は仲が良く「この映画を通して青春を経験して、そのまま本当に親友になった。こないだも、皆で一緒でカラオケに行っていた写真が送られてきた」と明かし「その仲の良さがフィクションだけれども映っていた」と親になったような気分に浸っていた。

 

劇伴等のサウンド効果形成について聞かれ「音楽は拘りがあった。重要なコンセプトがあり、ショットの構成の仕方、照明の作り方、音楽の感情について、ユウタやコウらキャラクター達が大人になった時、自分の高校時代を思い返しているような感覚で、さらに未来から近未来を思い出している」と説き「楽しいシーンでも必ずしも楽しい音楽ではない。逆に、結末を知っているからこそちょっと悲しげな音楽。喧嘩のシーンでも激しい音楽等じゃなく喧嘩して良かった、みたいな感じな音楽をつけてみたり。彼等が感じている感情とは別の視点から音楽や撮影もしている。だから、懐かしい、といわれることが多いが、懐かしさは、そういうところからきているんじゃないか」と察する。また、監督自身が本作の脚本を書いている時について「高校時代を思い出して懐かしく感じていた」と明かした。

 

近未来を舞台にしたことについて聞かれ「発案したきっかけはいくつかある。自分の高校時代や大学時代に体験した友情の決裂。それとは別に、自分の中で、大学時代に3.11をきっかけに政治性に芽生えていた。対応する企業や政府の行動を注意深く追っていた。それがきっかけで様々な本を読んだり調べていたりしていった」と思い返し「その後、アメリカにいた。様々な政治運動が盛んだった。ウォール街を選挙せよ運動、ブラック・ライヴズ・マター、その後はトランプが大統領になった。激動の時に本作を発案した。同じ時期に日本の地震の歴史を調べていた。衝撃的だったのが、1923年9月1日に起こった関東大震災とそれがきっかけで起こってしまった朝鮮人虐殺。それらを調べていたのが2014年から2015年。その頃、東京・大久保や川崎でヘイトスピーチや差別的なデモが多くあった。それと歴史を見ると、当時起こってしまった虐殺の要因にある差別が現在でも残っていたんじゃないか、と感じた。東京に戻ってくると、30年以内に大地震がくるであろう、とよく云われている。差別や植民地主義の歴史に起因する構造的な暴力が反省されないまま再び大地震が起きてしまったらどうなるんだろう。もしかしたら、そういうことだって起こりうることだってあるんじゃないか、という危機感があった」と言及。そこで「未来のことを考え始めたことが、この映画を作りたいと思わせる衝動の一つだった」と挙げながらも「そのことを書きたいわけではなく、僕は大学時代に経験した友情の決裂があり、友人達を政治性の違いによって、僕から距離を置いたり、僕も切り離されたりしたけど、それが悲しい出来事として自分の心の中に残り、感情を描きたかった」と吐露。つまり、歴史的事実を知った時の危機感による衝動と感情が合わさって出来上がったわけだ。

 

タイトルの変遷や由縁についても聞かれ「撮影に来て頂いた方に記念品としてタオルを渡していた。その時は『地震』というタイトル。その前後では『トレモロ』というタイトルだったことも一度あった。結局『HAPPYEND』というタイトルになった」と告げ「本当に最初は『地震』というタイトルだった。地震が、この映画を発案するきっかけの出来事として3.11や1923年があり、タイトルをつけていた。最初から『地震』というタイトルを仮でつけていた。この映画は地震とそれが引き起こす酷いトラウマと向き合っている映画ではないと僕も思っている。メタファとして地震が使われている。地震を体験した人に対して、変な印象を与えてしまうと思ったので、違うタイトルの方が良いのかな、とずっと考えていた。一度は『トレモロ』というタイトルに戻ったが、映画を観終わった時に見るタイトルとして違和感があった」と告白。さらに様々なタイトルを考えた結果として「50個の中から『HAPPYEND』というのがずっと自分の頭の中に残っていた。よくよく考えてみたら、”HAPPYEND”はシンプルなフレーズで誰もが分かる。”HAPPY”が持っているハツラツとした語感や感情と、”END”が持っている終末的で終わりに向かっていく世界観が合わさった時、映画の最後で抱く感情、友情関係が終わってしまい、世界が混沌とした状態だけれども、若者のエネルギーが詰まった映画にしたかったので、それが表れている『HAPPYEND』にしました」と語った。

 

 

そして、ロケ地となった神戸市立科学技術高等学校の河野彰信校長より花束が渡される。実は、本作に一瞬だけ登場しており、お客様も驚くばかり。監督自身、大学学生時代に教わった映画の先生から「映画を作りたいなら科学を勉強しろ。映画は常に様々な問題が出て来るから、それを具体的に解決をしていかなきゃいけない芸術だから」とよく言われていたことがあり「今回、感激したのが、車やモニターを立てた時に先生が自ら出て来て”ココの溶接部分が素晴らしい”、”こんな綺麗な溶接が出来るのか”と感激されていた。ものづくりはこういうところで繋がっているのか」と感心。また、生徒達は音楽研究部の部室にある装飾に携わっており、感謝の気持ちを伝えていく。最後に「今日、神戸に戻ってきて、本気で住みたくなってきたので、もしかしたら、また戻ってくるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。神戸は素晴らしかったです」と神戸への愛情を伝え、舞台挨拶を締め括った。

 

映画『HAPPYEND』は、全国の劇場で公開中。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田や難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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