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誰かにとっての喪失に寄り添えられる映画になったかな…『ラストホール』秋葉美希監督に聞く!

2024年9月21日

父親の死から目を背けてきたダンサーが、幼なじみが持って来た父親のメモを頼りに故郷へ向かう『ラストホール』が「田辺・弁慶映画祭セレクション2024」にて大阪・梅田のテアトル梅田でも公開される。今回、秋葉美希監督にインタビューを行った。

 

映画『ラストホール』は、『退屈な日々にさようならを』『少女邂逅』等の映画に出演してきた俳優である秋葉美希さんが自身の父との別れの経験を基に手がけた長編初監督作品。父の陽平の死から背を向けて生きてきたダンサーの暖。やがて踊ることを止めてしまった彼女は、故郷からやってきた幼なじみの壮介によって、陽平の残した一枚のメモに記された場所をたどる旅へと連れ出される。その旅の中で2人は陽平の面影に触れ、咀嚼できずにいた思いを飲み込んでいく。秋葉さんが監督・脚本のほか自ら主演を務め、主人公の暖を演じた。彼女を旅に連れ出す幼なじみの壮介役は『赫くなれば其れ』等で活躍する田中爽一郎さん、父の陽平役は川瀬陽太さんがそれぞれ務めた。そのほか森羅万象さん、鈴木卓爾さんらベテランも脇を固めている。若手監督の登竜門である第17回田辺・弁慶映画祭でキネマイスター賞を受賞した。

 

脚本執筆にあたり、父親が実際に残していた”食べたいものリスト”を起点にしてロケーションとなるお店を探していった秋葉さん。ロードムービーとしての構想があり、実際にお店に伺った際に作中の会話が浮かんでくることもあった。また、実話を基にした物語の中で様々なエピソードを散りばめながら、それぞれを繋ぐ箇所について、自身の実生活における気づきを日常的にメモしながら取り入れている。なお、物語の起点となる食べ物があり、どのようなキャラクターが関わっていくか考えていくとストーリーが出来上がり、自然とロケーション先も決まっていった。

 

キャスティングにあたり「自分で監督し製作もするので、一緒に作り上げてくれる俳優じゃないと実現できない」と一考。2017年に撮影した『少女邂逅』から面識があり親交があった田中爽一郎さんとは、猫目はち監督による短編『花に問う』を通じて人柄や現場での在り方が分かり「壮介というキャラクターを書く上で、田中爽一郎が演じるイメージが最初から湧いてきた」といったことがあり、脚本を書き上げた上でオファーしている。また、バックパッカーのユキオ役の高尾悠希さんは大学の同期であり、鈴木卓爾さんは大学の恩師だ。なお、大学の授業で川瀬陽太さんが来て下さったことで繋がりができ、本作準備前に別の現場で一緒になった際に川瀬さんが父親役を演じていたこともあり「ぜひ自分の映画を撮る時は、川瀬さんに一役お願いしたいな」と願い「スケジュールが空いていたら、自主映画も出られるんですか」と脚本が未着手の段階からオファーしていた。川瀬さんは若手監督にも真摯に接しており「脚本があった上で、段取りを行った後にカット割りを決める。その際、役者の演技を見て、どのようなカット割りが演技に合っているか。川瀬さんと一緒に考えるのではなく、演技で見せてくれる」と話し、秋葉監督にとっても頼りになる存在だ。

 

自分の実体験を基にして脚本を書いており、撮影現場では「長編初監督なので、他の優秀な監督には絶対に及ばない」と認識した上で「スタッフは大学の同期や関わりがある方を基盤にしたので、”このシーンはこのカットが欲しいんだけど変かな?”といったことを常に聞けるようにしよう」と心がけ、オープンなコミュニケーションが出来る環境を作った上で撮っていった。「スタッフ側は、私に苦労していた」と申し訳ない気持ちになりながらも「本当に有難いこと。みんな、よくやってくれたな」と感謝せざるを得ない。秋葉さんの演技について目線が印象に残る方もいるが、自身としては「目で演じようとしたことはない。父親に向けた目線と壮介に向けた目線では自然に変わっていった」と思い返し、冷静に話す。

 

編集作業となり、まずは粗編集の段階で120分程度になった。当初は「自分が監督し主演しているから、様々な人物にカットを振らないといけない」という気持ちがあったが、粗編集版を田中爽一郎さんに見せてみると「これは、主人公である暖の物語だから、もっと暖に迫っていくように編集した方が良い」と助言を頂く。このアドバイスを受け「自分が主演であることは関係なく、作品をより良くするためにも暖にフォーカスして編集していいんだな」と吹っ切れた。田中さんに背中を押してもらい、思い切って編集できるようになったが「編集は終わりがない。その時点で持っているものを100%出すけど、いつまでも取り組み続けられる。正直にいえば”この形しかない”という時は来ていない」と打ち明けながらも「音楽等の要素も合わさって仕上げを行い、グレーディングや整音を実施して1つの形になった時、この形が1つの正解だったんだな」と実感している。

 

自身の父との別れの経験を基にした本作について、秋葉監督自身は「同世代に肉親を亡くしている人って少ないな、と思っていた。誰しも喪失はやってくるかもしれないけれど、共感できる題材ではない」と考えていた。だが「未来の話だと思っている人達もいる中で、喪失を経験してない若い同世代の人達も、それぞれの喪失を以て映画を観てくれた」と驚いており「そういう人達がいずれやってくる喪失の時にまた思い出してもらえたらな」と願っている。同時に「自分が抱えていた喪失の形ではない部分で、それぞれの人生を通して見てくれている」といったことが想定以上にあり、嬉しかった。同じ境遇があった方からは、年齢関係なくあたたかい感想を頂いており「作った当時の私21歳。他人には理解してもらえないだろうな。別に理解されたいわけではないんだよな。どこか寄り添ってくれる存在が欲しかった。自分に捧げる映画だった」と顧みながら「あの時の自分に捧げる映画を作って世に出してみると、誰かにとっての喪失に寄り添えられる映画になったかな」と気づかされている。

 

あくまでも今作について「監督になりたくて撮ったわけじゃない。作りたい物語を自分が監督・主演で撮った」と述べており「俳優を続けていきたい。でも、俳優人生をかけて『ラストホール』を広めていきたい」という思いがある。もし、再び監督をする機会があるのなら「同じワンカットの中に現在の自分が存在し、相手だけは未来に進んでいる。自分はずっと過去に取り残されており、同じ時空の中で過去と現在が入り混じっている。そんなワンカット長回しの恋愛映画を撮ってみたいな」と話してもらった。

 

映画『ラストホール』は、関西では「田辺・弁慶映画祭セレクション2024」にて大阪・梅田のテアトル梅田で9月22日(日)と9月23日(月)に公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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