石川真生さんのドキュメンタリーを撮るなら今しかないんじゃないか…『オキナワより愛を込めて』砂入博史監督に聞く!
沖縄出身の写真家として、初めて2024年に文部科学大臣賞に輝いた石川真生さんを追ったドキュメンタリー『オキナワより愛を込めて』が9月7日(土)より関西の劇場でも公開される。今回、砂入博史監督にインタビューを行った。
映画『オキナワより愛を込めて』は、2024年2月に沖縄出身の写真家として初の文部科学大臣賞、3月には国内有数の写真賞である土門拳賞も受賞した、沖縄を拠点として活動する写真家の石川真生さんを追ったドキュメンタリー。1971年11月10日、米軍基地を残したまま日本復帰を取り決めた沖縄返還協定をめぐって、沖縄の世論は過熱。ストライキを起こした労働者と機動隊の衝突は警察官1名が亡くなる事件へと発展した。当時、この現場を間近で目撃していたのが10代の石川さんだった。同じ沖縄の人間同士の衝突を目撃した石川が抱いたある疑問が彼女を写真家の道に進ませた。1975年、コザ・照屋の黒人向けのバーで働き始めた石川さんは、そこで働く女性たちや、黒人たちとともに時間を過ごしながら、日記をつけるように写真を撮り続けた。写真家としての石川真生さんのルーツをたどりながら、作品の背景となった歴史、政治、人種差別、それらを乗り越えるパワーを石川さんの写真とともに映し出していく。監督は、ニューヨークを拠点に、映像やパフォーマンス、写真、彫刻、インスタレーションなどさまざまな分野の創作活動をしている砂入博史さんが務めた。
2014年、アメリカ・ニューヨーク、クイーンズのロングアイランド・シティ地区にあるMoMA(近代美術館)の別館であるMoMA PS1にて、韓国の写真家の方々と沖縄の写真の方々が集まったグループによる米軍基地の記録写真展が開催された。写真展を訪れた砂入さんは、そこで石川さんを知り、Facebookを通じて御本人と繋がり、彼女の沖縄や政治に対する考え方を理解していく。そして、石川さんの写真集「熱き日々 in キャンプハンセン!!」が、「赤花 アカバナー 沖縄の女」というタイトルで2017年に3度目の再発行がニューヨークの出版社から行われた。その後、石川さんはニューヨーク大学からの招待を受け、講義を行うことに。だが、当日は行き違いが生じ、石川さんは感情を露にする出来事があり、改めて「赤花 アカバナー 沖縄の女」の写真を撮った動機を語った。沖縄の米軍基地に対する考え方、そして、米兵に対し人間として接していったことについて語った内容について、改めて砂入さんは感銘を受けると共に、石川さんが患っている大病を鑑み「石川さんが、元気にこういった話が出来るのは、もしかしたら、あともう少ししかないんじゃないか」と直感。「これはドキュメンタリーにしよう」と決断し、即座に石川さんに報告した。
当時の砂入さんは学校の教諭をしていたこともあり、2017年の夏休みから沖縄で撮影を始めることに。1年おきにいくことになったが、取材を始める度に「赤花 アカバナー 沖縄の女」について話してもらったこともあり、信頼関係は高まっていった。また、砂入さん自身がほぼ30年間ずっとアメリカに住んでいたこともあり「彼女もアメリカとの強い絆がある。普通の日本人が日本にいる感覚ではない」と受けとめている。3回目に伺った際には、事前に電話で「この映画を撮るにあたって何をやりたいんだ」と問われ「僕は、1人の女性として、沖縄人として、写真家としての真生さんの生き様や尊厳が撮りたいんです」と応えた。すると「今日はシャワーを浴びて傷口に手当てをするから撮りに来るか」と尋ねられ「有難いものを見せてもらえるなら是非是非。僕で良いんだったら是非撮らせてください」と懇願。砂入さん自身は想定していなかった事態ではあったが「真生さん本人が写真家の人生において、人のプライバシーを沢山の写真にしてきた。だからこそ、真生さん本人が『いつかやろう』とずっと思っていた。彼女の頭の中で繰り返し考え抜かれたチャレンジだった」と受けとめ「真生さんは私の先輩であり敬う存在。ニューヨークの講義で話されたことが強烈な印象としてコアとなり、そこから生み出されるものを自然に撮っていった」と回想する。なお、夏休みの貴重な期間での取材であると同時に、石川真生さんによる「大琉球写真絵巻」に関するスケジュールで多忙な頃があったり、手術に伴う入院の時期があったりしており、お互いの時間をあわせていくことが大変ではあった。
編集段階になり、撮影素材を確認しながら「真生さんは凄く喋る方。1つの質問をすると30分ぐらいは喋ってしまう。お話は様々な方向に向かいながらも戻ってくる」と捉え、じっくりと分類していく。「お話のきっかけがあり、動機があった上で、写真の形態や文脈を作り、時間軸を意識することで作品の流れが出来上がっていく。彼女が働き始めていく中で感じることや直面する問題を適材適所に入れていくと明快になり始めた」と振り返り「話が逸れてしまわないように、パワーワードを散りばめながら作っていきましたね」と話す。また、現在の沖縄が抱える問題を真生さんが語る姿を見つめながら、格好良さを感じ、ヒップホップのビートを取り入れ、まずは3時間半規模の作品となった。そこから時間をぼる為に、今回は「赤花 アカバナー 沖縄の女」を撮るための人生感や経験といった文脈に集中し始め、現在の石川さんが抱える癌の問題を、写真家として生きていくことに繋げていく。実は三部作としての構想もあり、今作について「1作目として、石川真生さんを起点にして沖縄への愛に向かっていった話なので、怒りは1作目に残しておきたい。だけど、1作目を最初にリリースするとあまりにも重過ぎてしまい、2作目、3作目を観てもらえない可能性もある。愛を入口にして、石川真生さんの素晴らしい写真やトークがあった上で、2作目を観てもらえるようにしました」と説く。完成した本作は石川さんにも観てもらい「上等さぁ」と本心からの声を聞くと共に、グラフィカルな表現も気に入ってもらい「凄くセンスが良い」といった声も受け取り、安堵している。
映画『オキナワより愛を込めて』は、関西では、9月7日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場や神戸・元町の元町映画館、9月20日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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