原爆を作るために生まれた町で生きる人々のドキュメンタリー『リッチランド』がいよいよ関西の劇場でも公開!
©2023 KOMSOMOL FILMS LLC
長崎に投下された原子爆弾のプルトニウムを精製したハンフォード・サイトで働く人々が住むために作られた町であるリッチランドに被爆3世の川野ゆきよさんが訪れ、人々と対話を試みる中で、アメリカが原爆の歴史とどのように向き合ってきたのか映し出す『リッチランド』が7月20日(土)より関西の劇場でも公開される。
映画『リッチランド』は、第2次世界大戦下のアメリカ、マンハッタン計画のもとで生まれた町の知られざる歴史と現在を描いたドキュメンタリー。ワシントン州南部にある平和で美しい郊外の町リッチランド。ここは、1942年からのマンハッタン計画における核燃料生産拠点「ハンフォード・サイト」で働く人々とその家族が生活するために作られた町である。「原爆は戦争の早期終結を促した」と町の歴史を誇りに思う者がいる一方で、多くの命を奪った原爆に関与したことに逡巡する者もいる。また、暮らしやすい町に満足している人々も「川の魚は食べない」と語り、現在も核廃棄物による放射能汚染への不安を抱えながら暮らしている。さまざまな声が行き交うなか、被曝3世であるアーティストの川野ゆきよさんが町を訪れ、住民たちとの対話を試みる。リッチランドの誕生と発展の歴史をひも解きながら、人々の何気ない日常の背景に常に“原爆”が横たわっていた町の姿を映し出し、近代アメリカの精神性、そして科学の進歩がもたらした、人類の“業”を重層的に浮かび上がらせていく。
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映画『リッチランド』は、関西では、7月20日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場と神戸・元町の元町映画館、7月26日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。
日本では今年公開された映画『オッペンハイマー』で改めて知ることになった、アメリカ・イギリス・カナダが原子爆弾開発・製造のために、科学者・技術者を総動員したマンハッタン計画。本作では、マンハッタン計画における核燃料生産拠点であるハンフォード・サイトで働く人々とその家族が生活するために、当初は”一時的に”作られるだけの予定だった町、リッチランドに焦点を当てたドキュメンタリーだ。作られた、とはいえ、元々はその場所には原住民の方々がいた。だが、国が戦争に勝つために別の場所に追いやられてしまう。どれだけ複雑な心境であったが、想像に難くない。当初は一時的の予定だったが、終戦後に冷戦時代となるのであれば、町の存続を止めることは異議があるだろう。人間が生き続けるのならば、町も活き続けるのだ。すると、過去の実績は名誉的な出来事として讃えられていく。冷静に考えれば、おぞましいとしか言いようがないキノコ雲が含まれている校章。一体誰がこれを心から望んだのか。現代の生徒の中には気にしない者がいれば、心から嫌悪感を抱く者もいる。淡々と町の歴史を追いかけ、住民に町の在り方について訊ねていく。それだけでなく、被曝3世であるアーティストの川野ゆきよさんが町を訪れ、住民たちとの対話を試み、彼女なりの方法でアジテートする姿も映し出す。一筋縄ではいかぬアメリカの多様な意見を1本の作品に纏め上げた興味深い作品である。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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