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家族レンタルサービスに対して様々に感じ取って頂いた…『レンタル×ファミリー』阪本武仁監督に聞く!

2023年10月25日

人の幸せを願う主人公と、レンタルサービスをめぐる3つの家族の人間関係の変化を通して社会問題、日本人の国民性を描きだす『レンタル×ファミリー』が関西の劇場でもセカンド上映中。今回、阪本武仁監督にインタビューを行った。

 

映画『レンタル×ファミリー』は、人間をレンタルする実在のサービスを題材に描いた人間ドラマ。家族レンタルサービスなどを展開する石井裕一の著書「人間レンタル屋」を原作に、「エターナル・マリア」の阪本武仁監督がメガホンをとった。幼い娘のために父親をレンタルするシングルマザー、金で買える幸せにいつしか依存していく親子、ずっと父親だと信じてきた男性が実は雇われていた他人だったことを知る娘。時代のニーズに応え、仕事に真摯に向きあおうとする人間レンタル屋の主人公である三上と、サービスにまつわる3つの家族の物語を赤裸々に描き出す。『パッチギ!』の塩谷瞬さんが三上を演じ、Netflixドラマ「全裸監督」の川上なな実さん、『たまえのスーパーはらわた』の白石優愛さんが共演した。

 

或る日、ワイドショーで、人間のレンタルサービスに関する特集を視聴した阪本監督。気になり検索してみると、本作のモデルとなった石井裕一さんが経営する「株式会社ファミリーロマンス」が最初に出てくる。石井さんの著書「人間レンタル屋」では、表紙で自身の顔まで公開しており「一体、どんな意図でやっているんだろう」と興味津々。すぐに取材を依頼してみて様々な話を聞くことが出来た。人間のレンタルサービスを事業にしている会社は7社程度あり、その中では株式会社ファミリーロマンスが1番の登録数を誇っている。他の会社にも取材しており「それぞれ少しずつ提供しているサービスが違う。料金体系は大体4時間2万円程度が多い。安価なサービスもあり、それぞれに個性があり、興味深い業界」と捉え、作品作りに向かっていった。

 

だが、石井さんに取材をしていく中で違和感があったのも事実だ。「顔を出していることがはじめは理解できなかった。サービスに興味があったが、石井さんは何故そんなビジネスをやっているんだろう」と興味を持ち、深堀していく。25家庭に対して同時進行でお父さんの役割を担っており「メディアに顔を公開する倫理観が分からなかった。どのような精神状態で割り切っているのか。サービスの特殊性と石井さんが持つ特殊な雰囲気の両方に惹かれた」と関心を持って取材。尋ねたことには何でも応えてもらい「あくまでも、ビジネス。ボランティアではない。一線の引き方が絶妙で、相性がある」と捉えていった。実際、お客さんの中には、視野が狭くなっているような人も多く「考え方が極端な人が多い。消費者金融で通っている人も何人もいた。お金がどんどん無くなり、食卓のおかずが一品ずつ減っていく。最終的に”ふりかけ”として僕等は表現している。ストーカーに遭った話も聞きます。依頼者が依存して来たら、様子を見ながら利用の間隔を空けていく」と苦労は絶えないようだ。とはいえ、依頼数は年々増えているようだ。なお、コロナ禍によって、一時的に結婚式へのサービス提供は減少したが、現在は需要が戻ってきた。石井さんは創業以来、徐々に人間のレンタルサービスへの依頼数が増加していったようで「他社では、精神的に辛くなったり罪悪感で耐えられなくなったりして辞めた方もいる。石井さんは、あくまでも理想の人物を演じるサービスとして割り切っている」と伺っている。

 

映画化に向けて脚本を書くにあたり「1人の登場人物について深く描く方法もある。今回は、三部構成にして視点を変えながら描く方が、このサービスを表現できるんじゃんないか。依頼者の視点と事業者の視点、そして、ダメージを受けてしまう子供たちの視点で描けたらいいな」と着想。石井さんの著書をそのまま映像化する手段もあるが「石井さんから聞いた話を用いたオリジナル作品を作ることを一考した。基本的に、石井さんの話を可能な限りそのまま表現している」と説明する。阪本監督含め4人で執筆しており「その中でも、ナカムラユーキさんは撮影でも参加している。元々は東映の撮影部の出身で、役者に転向した。新宿ゴールデン街で次作の話になり、協力してもらえた」と感謝している。

 

キャスティングにあたり「石井さんのイメージに合う人は誰だろう」と考えていく中で、『パッチギ!』でお世話させて頂いた塩谷瞬さんが思い浮かび「一番合うんじゃないか」とスタッフらと満場一致。オファーに快く承諾頂いた。川上なな実さんは、前作『エターナル・マリア』の撮影時、川上さんの事務所と同じから出演して頂いた縁が大きく、お母さん役ではあるが、相談できたことが大きい。白石優愛さんは、オーディションで選んでおり、撮影を進めていく中でキャラクターが決まっていった。

 

撮影は、スケジュールの間隔を空けながら実施しており「そこまで大変ではなかった。準備して数日間で撮り終えて、また準備して…の繰り返し」と計画的だ。出演者の方々とのコミュニケーションを重視しており「『僕は、こういうことをやりたいんです』とそれぞれが考えていることを伝えたり、シナリオに関する疑問に対して意図を伝えたりしながらディスカッションしていった。スッキリと納得した状態で演じてもらうための時間を作りました」と説く。撮影部や技術に関わるスタッフともイメージの共有をするべく、同じようにコミュニケーションをしており、阪本監督自身も楽しんだ。

 

編集段階では、作品を100回程度見ながら完成させていっているが「あまり人の意見を聞かないんです。人の意見を聞いて変えるよりも『自分はこれをやりたいんだからこうしました』の方が良い」と確信。「監督は全責任を背負わないといけない、と思っている。『これです』と決めた瞬間で、映画は完結している」と自信があり「完結後、直ぐに試写で見せて『これがやりたかったです』と。僕の中では『もう大丈夫だ』と思い、完成した」と自負する。

 

作品は三部構成で107分、と比較的コンパクトにまとめているが「各話を30分ぐらいとしようと思っていたが、次第に延びていった。90分ぐらいが見やすくて2時間は超えると長い」と思っており「様々な素材を撮りながら試行錯誤していった。可能なら、もっと短くしたかったが、更に短くすると伝えたいことが伝わらない」と苦悩する日々だった。特に二話目は拘っており「かなりの素材があった上で編集している。全部入れたら3時間半ぐらいある。フェイクドキメンタリーのような独特な雰囲気があり個性が強い作品になった」と振り返る。

 

劇場公開を迎え、観客からは家族レンタルサービスに対する賛否があったが「光と影を描いている。表現に関する意見や感想は想定内」と冷静だ。本作について「人間賛歌の作品にしたい。最後には、希望がないと救われなない。鑑賞後、明日からもうちょっと頑張っていこう、と思ってもらえるような作品にしたかった」という思いがあり、そのまま受け取って頂いた方が多かったことには手応えを感じている。最終的には「都市部には困っている人が存在し、こういうサービスを実際に提供する人がおり、実態はこうなっています、皆さんどう思いますか」と問題提起したかったこともあり「鑑賞後、皆さんが様々に感じ取って頂いた」と実感していた。

 

映画『レンタル×ファミリー』は、関西では、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開中。また、11月3日(金)から11月5日(日)まで神戸・新長田の神戸映画資料館、11月24日(金)には神戸・元町の元町映画館で公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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