映画は人間をより良いものにする、と信じている…『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』アルノー・デプレシャン監督を迎えトークイベント開催!
両親の事故を機に再会した、憎み合い顔も合わせずにいた姉弟を描く『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』が全国の劇場で公開中。9月18日(月・祝)には、シネ・リーブル梅田にアルノー・デプレシャン監督を迎え、トークイベントが開催された。
映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』…
舞台俳優として活躍する姉アリスと、弟で詩人のルイ。アリスは演出家である夫との間に1人息子がおり、ルイは人里離れた山中で妻と暮らしている。姉弟は長年にわたって互いを憎みあい疎遠になっていたが、両親の事故によって再会することになる。『そして僕は恋をする』『あの頃エッフェル塔の下で』等で知られるフランスの名匠アルノー・デプレシャンが監督・脚本を手がけ、『エディット・ピアフ 愛の讃歌』のマリオン・コティヤールと『わたしはロランス』のメルヴィル・プポーが憎みあう姉弟役を演じた。『彼女が消えた浜辺』のゴルシフテ・ファラハニ、『歓楽通り』のパトリック・ティムシットらが共演している。
上映後、アルノー・デプレシャン監督が登壇。ティーチイン形式を中心としたトークイベントとなり、作品の理解を深める良き機会となった。
まずは、デプレシャン監督より「日本には6,7回来ているはずなんですが、大阪を訪れたのは今回が初めて。大阪の皆さんにお会いできることを嬉しく思っております」と感激のご挨拶。さらに「今まで東京に閉じ込められていたので、ようやく自由を勝ち取りました」と誇らしげだ。そして、司会の方から、メルヴィル・プポーとマリオン・コティヤールのキャスティングについて聞かれ、メルヴィル・プポーについて「代表作である、エリック・ロメールの『夏物語』を思い出してみても、完璧な美青年であり、理想の恋人を演じていた。年月と共に深みを増していき、彼が演じる若い息子を亡くしてしまう悲劇を背負った男を演じられる俳優になっていました」と印象を話す。「ルイは、沢山の弱点を持っています。アルコール中毒やドラッグ中毒を患い、暴力的であり挑発的であり粗野なところもある。しかし、全ての弱点が彼を魅力的な人間にしています」と述べ「彼曰く、ルイを演じていて、かつてジャック・ニコルソンが出演した『ファイブ・イージー・ピーセス』を思い出しながら演じていた」と語った。マリオン・コティヤールについて「アリスという女性を解放したい。暗闇の中にいる暗い感情を抱いている女性であり、そうした感情を演じられる女優をフランス映画の中で考えてみました」と明かし「脚本を読んでもらい『彼女に何が起こったの?』と聞かれ『君が映画の中で探求していくことなんだよ』」と振り返る。さらに、彼女について「どんな役を彼女が演じても、マリオンが演じていれば、その役を観客に受け入れさせてしまう力を持っている女優。彼女の目や肌の全てにおいて、私達は彼女が演じているどんな役も受けとめていく。そんなマリオン・コティヤールが演じるからこそ、アリスを私達は赦してしまう。そして、アリスは、信じ難い程に複雑なところを持っている人間ですが、マリオンはその複雑さをシンプルに演じる才能を持っている」と言い表した。
ここからは、お客さんからの質疑応答の時間に。まずは、監督の出身地であるフランス北部の町ルーベについて聞かれ「フランスで最も貧しい町です。美しく栄えた時期もあったんですが、今は経済的に一番貧しく、朽ちているところもあり、暮らしが荒れている地区も多い町になりました。パリに上京した時、ルーベの訛りを全部捨てパリジャンになろうとした時期もありました。しかし、デビュー作『二十歳の死』を撮り始めた時、自ずとルーベに戻っていく自分がいました」と思い返す。「映画の力は、見捨てられたような朽ちている場所に対してカメラを向けることで、まるで夢のように輝く場所にすることが出来る」と述べ「『クリスマス・ストーリー』という作品では、ルーベに雪が降るシーンで、雪によって町が輝き始める。本作では、ルイがルーベの町を飛んでいるシーンがあり、町が輝いて見える。映画の力によって、自分自身も再発見している」と話す。
詩人であるお客さんから、自身と重ねるような問いが投げかけられ「姉のアリスは著名な女優であり、弟のルイは詩人で秘められた存在だと思う。読者はそんなに多くない。慎ましい仕事であり、影のような存在です。そんな弟のルイに対して、姉は栄光に包まれている存在。弟は、詩人の生活を続けるために教師をしながら田舎に住んでいる」と説明。ここで、詩人に関するエピソードとして「映画の最後で、ルイが教師に戻り生徒の前で呼んでいる詩を書いたピーター・ギズィは私の知人であり、詩人として評価され読者もいるけれど、詩を読む読者は限られており、教師をしながら田舎に住んでいる。ところが、そんな影のような存在なのに、ある日、有名な画家のジャスパー・ジョーンズ本人から絵画が送られてきて、そこには『あなたの詩を読んで感動しました』と書いてあったという素晴らしいエピソードがあります」と挙げた。また、本作にあるシーンについて「幻想的な物語のようでもあり、姉に自分からコンタクトがとれない弟が姉への手紙を読む姿を演じるメルヴィル・プポーは素晴らしい。自分を揶揄い恋焦がれているような情熱的な演技に心奪われました。挑戦状でもありラブレターでもあるような手紙だからです」と印象に残っている。
ルイとアリスの確執について問われ「冒頭から3つ目のシーン、アリスの楽屋シーンがあります。自傷行為によって顔を腫らしているアリスがスタッフに対して『弟が私の名前を盗んだのよ』と言う。彼らの間にはライバル関係があり、強烈な程に競争関係が生まれてしまった。子供達が親を取り合うような喧嘩が続いてしまっている。或いは、彼らはあまりにも愛し合っているからこそ、それが恐ろしくなり憎しみ合ってしまったのか。或いは、ベッドの上にいる姉を見ながら弟が話しているシーンで、一度は流産を経験した姉が弟に新たな妊娠について告げる姿は、まるで彼女は自分の恋人に別れを告げているようだ」と説き「ルイとアリスは大人のふりをしているけど、不幸な子供達のようだ。最後に、大人になることで子供に戻ることが出来る二人だ」と言い表す。
最後に、本作に描かれている映画のオマージュについて聞かれ「映画監督には二種類あると思います。一つは自分の映画しか興味がない監督。例えば、ロベール・ブレッソンは自分の映画しか興味がない。私は、自分の好きな映画を告白できるし、その影響を隠さない。観た映画によって私が作られている。映画は人間をより良いものにする、と信じている」と述べ「例えば、演じている舞台から逃げようとしている女優について撮ろうしたら『オープニング・ナイト』を考えないわけにはいかない。その影響を隠すことなく見せているつもり。ルイが空を飛ぶシーンについて、メルヴィル・プポーはマルク・シャガールの絵画のように捉えたが、私は(シャガールじゃなくて)『マトリックスのようにだよ』と言ったんです」と明かした。
映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』は、全国の劇場で公開中。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や京都・烏丸の京都シネマで公開中。また、9月22日(金)より神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。なお、「<特集上映>映画批評月間 フランス映画の現在をめぐってvol.5 アルノー・デプレシャンとともに」として、アルノー・デプレシャン監督作品の回顧上映が10月27日(金)から京都・出町柳の出町座、10月28日(土)から大阪・九条のシネ・ヌーヴォで開催予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
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