中国の田舎出身の若者が抱える生きづらさや、同性愛者に対する保守的な立場への葛藤を描く『マネーボーイズ』がいよいよ劇場公開!
©KGP Filmproduktion, Zorba, ARTE France Cinema,Flash Forward Entertainment, La Compagnier Cinematographique&Panache Productions 2021
体を売って両親に送金している青年とその恋人の姿と彼らの苦悩や葛藤を描く『マネーボーイズ』が4月14日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『マネーボーイズ』…
フェイは都会で恋人シャオレイと同棲しながら、体を売って田舎の両親に仕送りをしている。田舎の家族はフェイの仕送りを当てにしながらも、彼が同性愛者であることは決して受け入れようとしない。ある日、フェイが顧客に暴行されたことを知ったシャオレイはその男を叩きのめすが、男の部下たちの報復に遭う。フェイは警察に捕まることを怖れ、シャオレイを見捨てて逃げてしまう。5年後、別の都市で男娼として羽振りの良い暮らしを送るフェイのもとに、同郷の幼なじみロンが転がり込んでくる。そんな中、フェイはシャオレイと偶然にも再会を果たす。
本作は、男娼として生きる青年とその恋人の葛藤をエモーショナルな映像美で描き、2021年の第74回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品された。主人公フェイ役に『あの頃、君を追いかけた』のクー・チェンドン。ウィーン・フィルム・アカデミーで巨匠ミヒャエル・ハネケに師事したC.B. Yi(シービー・イー)監督の長編デビュー作である。
©KGP Filmproduktion, Zorba, ARTE France Cinema,Flash Forward Entertainment, La Compagnier Cinematographique&Panache Productions 2021
映画『マネーボーイズ』は、4月14日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・心斎橋のシネマート心斎橋や京都・九条の京都みなみ会館で公開。
ワンショット毎の画面の美しさが記憶に刻まれる、詩的な作品だ。観終わった時には感触は虚無感や絶望感が残るかもしれないが、後味は悪くない。一つ一つの場面毎に「映画のワンシーン」として目を引く構図や色彩は巧みに作られていた。中国映画独特の湿度を感じる映像であり、ツァイ・ミンリャン、ロウ・イエ、ビー・ガンといった日本でも公開作の多い名匠たちの作品に通じる、ウェットで涼しい空気が伝わってくる。
一方、人と人との会話の場面は乾いており、真横から距離を置いて撮られたカットの多くは徹底的に淡々としていた。まるで、人間には何も期待していない、と云うが如く、諦観で満たされた悲しさを帯びている。C.B. Yi監督はミヒャエル・ハネケに師事しており、ハネケのような冷笑を含むシニカルさや、ときおりゾクっとさせるグロテスクさは無い。寧ろ、どうにもならない状況を、ただ無表情に見つめているような佇まいだ。
閉塞感と孤独。扉を開けなければ誰にも入られることはないからなのか、登場人物たちは誰も本心を明かさない。家族や親戚への体面を保つことに対して、日本よりもずっと縛られていることが分かる描写をいくつも見せられる。偽装結婚する友人、地元の親戚に囲まれて変態と罵られる…と観ていて本当に辛くなってしまう。
主演のクー・チェンドンは、2011年の大ヒット作『あの頃、君を追いかけた』で世に名を知らしめてから、無難な道を選ばない攻めの活躍を続けている。「まだ31歳なの?」と驚いてしまう。昨年は初の監督作品も中国で公開され、さらなる挑戦を続ける彼の主演作である本作を、押さえておいて損はない。
fromNZ2.0@エヌゼット
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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