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偏りがない中間の立場で、なんらかの答えを出したかった…『赦し』アンシュル・チョウハン監督と松浦りょうさんに聞く!

2023年3月24日

未成年犯罪をめぐって、加害者と被害者家族の囚われた苦しみをテーマにした本格的な裁判劇『赦し』が3月24日(金)より関西の劇場でも公開。今回、アンシュル・チョウハン監督と松浦りょうさんにインタビューを行った。

 

映画『赦し』は、娘を殺された元夫婦と、犯行時に未成年だった加害者女性の葛藤を通し、魂の救済というテーマに真正面から挑んだ裁判劇。17歳の福田夏奈は同級生の樋口恵未を殺害し、懲役20年の判決を受ける。7年後、恵未の父である克と、別れた妻である澄子のもとに、夏奈に再審の機会が与えられたとの連絡が入る。娘の命を奪った夏奈を憎み続けてきた克は、澄子とともに法廷で裁判の行方を見守ることに。夏奈の釈放を阻止するべく証言台に立つ克と、つらい過去に見切りをつけたい澄子。やがて夏奈は、7年前に自分が殺人に至ったショッキングな動機を告白する。『義足のボクサー GENSAN PUNCH』の尚玄さんが怒りと憎悪にとらわれた主人公の克を熱演し、『台風家族』のMEGUMIさんが元妻の澄子、『眠る虫』の松浦りょうさんが夏奈を演じる。長編第2作『コントラ KONTORA』が国内外の映画祭で注目を集めた日本在住のインド人監督アンシュル・チョウハンが監督を務めた。

 

本作はあくまでオリジナルのフィクションだが、実際の少年事件からもインスピレーションを得ており、監督自身の経験を想起し「この映画を作らなきゃいけない」と取り組んだチョウハン監督。今回は、これまで手掛けた二作品より予算が上がったこともあり「インディペンデント映画らしさやアート映画らしさから脱しよう」と気品ある建築物において俯瞰した撮影を試みたり、監督自身がカメラを携えて撮影したりしている。

 

印象に残るキャラクターが多く登場している本作。MEGUMIさんが演じた澄子は、母親としての強さや常識を備えた人物かと思えば、内面的な弱さや依存心も見せるシーンもあった。監督自身は、二面性を持たせようとした意図はなく「全ては愛が惑わせたんじゃないかな。愛によって、彼女自身はどちらに向かおうか、と二面性が出てしまったかもしれない」と説く。

 

夏奈を演じた松浦りょうさんはオーディションで選んでいる。オーディションは10人程度の女優さんに来て頂いた。オーディションは3回も実施しており「最初は、松浦さん自身が本心で自分を出し切っていない、と感じていた。彼女をもっと知りたい、自分を出してほしい、という気持ちで3回もオーディションを実施し、回を重ねる毎に良くなっていった」と感心。オーディションを経て、カフェで松浦さんと話し「彼女が本心を出してくれた。彼女に演じてもらおう」と決断した。キャスティングにあたり、外国の場合、監督が役者を気に入ったら、以降はずっと起用することはよくあるが「日本では難しいかもしれない」と察しており「役者と監督の関係性は、良好で健康的な関係性を持つことが大事。撮影を始める前に役者を知らなかったら、知ることが大事なこと。知ることで、撮影では魔法のようなタイミングを感じる時があり、映像が美しくなる時がある」と述べ、役者との関係性を構築していくことは大切にしている。

 

夏奈という難しい役柄を演じた松浦りょうさん。チョウハン監督からは、役作りの徹底を依頼され「殺人を犯してしまった方のインタビューを読んだり動画を観たりして、どういう感情の時に犯してしまうのか、役に落とし込んで考えた」と挙げると共に「刑務所生活のスケジュールや食事を調べ、自分を出来る限り近い環境に身を置いて孤独を知っていく作業をして役を作り上げていきました」と話し、余念がない準備を行った。また、クランクイン1ヶ月前頃に、Netflix映画『羊飼いと屠殺者』を監督から教えてもらい何回も観て「福田夏奈と同じような環境におり、バックボーンは違えど、感情的に似ている。私の中でインスピレーションが出来たきっかけです」と話す。

 

作品の後半では、とあることをきっかけにして、夏奈が克と面会するシーンがある。松浦さんは、最初に台本を読んだ時は「克と向き合うことになったら、どういう感情になるんだろうな」と考察。夏奈を演じていく中で「後悔や申し訳ない気持ちが勝っていた。演出を受けなければ、申し訳ない気持ちが演技に出てしまう」と懸念。面会シーンを撮る前には、監督から「申し訳ない気持ちを表さないで、夏奈は夏奈として強くあってほしい、弱さを見せてほしくない」と言われたことで、迷いなく演じられた。

 

撮影を終えた現在、改めて、夏奈に対して「こんなに孤独な子っているんだ」と感じている。「現場に入る前、彼女に向き合って役作りをしている間は凄く苦しかった。本当に可哀そうに思えてしまった」と吐露し、「赦す」ということに関して「本当に彼女を赦せるか分からないですが、私は赦したい、と思えるぐらい、彼女に感情移入してしまっていた」と告白。1ヶ月程度の撮影期間は、ずっと「夏奈」が憑依していたが、撮影後に寂しい思いはあったが、役からは直ぐに抜けていた。

 

なお、本作は、元々は『DECEMBER』というタイトルだった。チョウハン監督は「夏奈が殺人を犯してしまったのが12月だった。夏奈が7年前にあったことを自供する前に12月ということを一瞬だけ言っている。これが物語の始まり」と説明する。だが、日本で上映する際に「『赦し』というタイトルにしましょう」と決定。「自分は中間の立場であるべきだ、裁判長の立場で映画を撮るべきだ」と考え「『赦し』というタイトルを考えた時、克の立場になれば、赦したんだろう。夏奈の立場なら、赦されたんだろう、とは思う。どちらかに偏った考え方で撮影はしたくなかった」と説き、常に中間の立場で作品づくりを心掛けた。監督自身の経験をふまえ「夏奈、そして、克の立場になれば、どのようにして赦したらいいんだろう、と考えた。自分の中でも答えが出ない中間の立場、そこでなんらかの答えを出したかった」と苦しみながらも作り上げている。

 

映画『赦し』は、関西では、3月24日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や心斎橋のシネマート心斎橋、京都・烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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