台湾で2000年代に青春時代を過ごしてきた人達の記憶が描かれている…『アメリカから来た少女』ロアン・フォンイー監督に聞く!
SARSが猛威を振るう2003年の台湾を舞台に、乳がんを患った母のためロサンゼルスから移り住んだ少女が、自分の弱さに気づき成長していく姿を描く『アメリカから来た少女』が1月6日(金)より関西の劇場でも公開。今回、ロアン・フォンイー監督にインタビューを行った。
映画『アメリカから来た少女』は、SARSが猛威を振るった2003年の台湾を舞台に、アメリカから帰郷した13歳の少女と家族の物語を描いたドラマ。母親の病気を受け入れられず、やり場のない感情を抱えた少女が、やがて自分の弱さに気づいて成長していく。
2003年冬、母と妹とロサンゼルスで暮らしていた13歳のファンイーは、乳がんになった母の治療のため3人で台湾に戻ってくる。台北の学校に通い始めたファンイーだったが、アメリカでの学校生活との違いから周囲になじめず、クラスメイトからは「アメリカン・ガール」と呼ばれて疎外感を味わう。家では母が術後の不調を訴え、久々に一緒に暮らすことになった父は出張で家を空けてばかり。ファンイーはやり場のない怒りや不満をブログに書いて気を紛らわしていたところ、ブログを読んだ教師からスピーチコンテストに出ることを勧められる。しかし、コンテストの前日、発熱した妹がSARSの疑いで病院に隔離されてしまう。
ロアン・フォンイー監督の半自伝的映画という本作。作中の出来事で8割が実体験に基づいており「まず、記憶の中のディテール、ある事件や様々な出来事を書き出していった」と振り返る。例えば、両親の夫婦喧嘩、妹がSARSの疑いで病院に隔離されたこと、学校での出来事などがあり「自分の記憶の中にある出来事を整理していった。思い出した様々な出来事について、当初は因果関係を無視して書いていきました。そして、それらの事件や出来事をどのように配列していくか、それがどのような物語になるか注力して脚本を書いていきました」と説く。「フィクションの部分はなるべく後で加えた方が良い」と判断し「省けるなら可能な限り省いた方が良い。馬が好きだったのは真実だが、台湾で馬に会いに行ったのはフィクション。フィクションと実体験をバランスよく調整していこう」と考えながら、脚本を執筆。何度も書き直しており「10数回の頃に、ようやく、作品になる」と手応えを掴み撮影に臨んでいる。
キャスティングにあたり「父親役フェイを演じたカイザー・チュアンは私の父に雰囲気が似ています」と明かしながらも「外見にとらわれて選んではいません。醸し出す雰囲気をどのように表現するか、を重点に置きました。特に、家族として成立するか」と総合的に考えながら選んでいる。
撮影現場では状況に合わせて脚本を変えていったところがあるが、大きく変化することはなく、撮れた手応えがあった。作中では学校での教師による体罰も映し出されるが「現在、体罰は禁止されています。本作で描いた2003年、体罰禁止と法律で決められた。本作で描かれている体罰のシーンは、台湾で1990年代に学校で行われてきた体罰の末期だと云えます」と説明。なお、終盤では、ファンイーが馬に会いに行くシーンがあるが「馬をコントロールするのは難しい。安全面で気を遣いました。撮影するのに難しいシーンでした」と振り返った。撮影の終盤はコロナ禍に入った頃であり、調整することが多く苦労したようだ。
今作が、ロアン・フォンイー監督にとっては初長編映画となったが、映画制作プロセスで一番大変だったのは、ポストプロダクションだった。編集段階を迎え「全体のリズムを掴むのに非常に苦労しました。最初から最後まで100回以上観ます。その苦しみは大変なものでした。自分が監督する映画を作るには少なくとも100回は見ないといけない」と学び「毎回新鮮な気持ちで、初めてこの映画を見る観客の立場になってみないといけないのは大変ですね」と実感する。とはいえ、プロデューサーを務めたトム・リンから全体的に指導を頂いており「脚本を書く段階から、大先輩として様々なアドバイスを頂きました。自分の体験を基にした映画ですので、描き方について厳しい御意見を頂きました。キャスティングについても相談にのって下さいました」と明かす。ポストプロダクションの段階では「短くした方が良い」とアドバイスを頂き「最初に観て頂いたものは、長過ぎる、と云われ、次第に短くしていき、劇場公開バージョンは一番短くしています。良いアドバイスを頂き、今の状態になりました」と納得している。
台湾での公開時には、監督と同年代の30~40歳の方々から反応を頂いており「以前の台湾映画は1990年代を描いた作品が多かった。この映画は私達の世代を描いた作品だと思ってくれた。或る世代にある共通の記憶は、この映画の中に盛り込まれている。2000年代に青春時代を過ごしてきた人達の記憶がある」と良い評判を受け取った。今後は、「小説を基にした作品を手掛けたい」と構想しており「最近は台湾の作家で台北を描いた物語を読むようにしています。台北という街について思い入れがあるので、台北を撮りたい」と創作意欲は止まらない。
映画『アメリカから来た少女』は、関西では、1月6日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、1月7日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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