恋愛は最終的に自身を豊かにしていく。人が人を好きになって、どこまでもいってくれ…『わたし達はおとな』木竜麻生さんに聞く!
ある日、妊娠に気づいた少女とその恋人の青年を中心に、若者たちの等身大の恋愛を描く『わたし達はおとな』が関西の劇場でも6月17日(金)より公開される。今回、木竜麻生さんにインタビューを行った。
映画『わたし達はおとな』は、『菊とギロチン』の木竜麻生さんと『のさりの島』『空白』の藤原季節さんが初共演した恋愛ドラマ。テレビドラマ「俺のスカート、どこ行った?」の脚本や、自身が主宰する「劇団た組」で注目を集める演出家・劇作家の加藤拓也さんがオリジナル脚本を基に映画監督デビューを果たし、20代の若者たちの恋愛の危うさと歯がゆさをリアリズムに徹底した演出で描き出す。大学でデザインを学んでいる優実には、知人の演劇サークルのチラシ作成をきっかけに出会った直哉という恋人がいる。ある日、優実は自分が妊娠していることに気づくが、お腹の子の父親が直哉だと確信できずにいた。悩みながらも直哉にその事実を打ち明ける優実。しかし直哉が現実を受け入れようとすればするほど、2人の思いはすれ違ってしまう。
台本を受け取り読んでみて、純粋に「おもしろい」と思ってしまった木竜さん。「会話や起こっている出来事含め、最初から最後まで、おもしろい」と感じ、直ぐに事務所の方に出演の意向を伝え、本読みをする機会を以て加藤監督にお会いした。本読みでは、自身の感覚を以て表現したが「私と加藤さんではリアリティや価値観が違う」と分かり「お互いに摺り合わせる必要がある」と加藤監督は気づく。藤原さんは加藤監督と何度も仕事をしていたので、リハーサルでは、加藤監督と木竜さんは共通の認識や言語を作る作業をしながら、優実と直哉の関係性も探っていった。台本に書かれている台詞は口語体となっており「嘘や違和感がないように、言語化されているものを発していくのが難しかった。加藤さんが意図する写実性やリアリティより、台詞として表現するという意識で演じていたことが多かったので、ニュアンスを具現化していくことが、最初の頃は難しかったですね」と振り返る。
演じた優実というキャラクターについて、純粋な気持ちで「直哉に100点の答えを返されるのは苦手かもしれないですね。余地がなく何も言えなくなり、言葉に出来ないことを頑張って言語化しようとしていたのに、100点の答えを出されたら、何も言えない。優実の感じ方も分かるし、優実の良くないところも理解できる」と共感できた。優実と直哉については「この2人は、どう頑張ってもこういう最後になったのかな。2人ともお互いのことが好きだ、という真実はあったと思うので、あとはお互いのせいかな」と受けとめており「自分が思っている事と頭で理解している事と出来る事はすべて違うので『どこまでもいってくれ』と思います。それが最終的に自分を豊かにすることになる気がします」と冷静に話す。
藤原さんとは、共通の友人を通じて知り合っており、出演作品を観て「素晴らしい俳優さんだな。いつか共演したいな」と楽しみにしていたが、「こんなに早いと思っていなかった」と告白。再会した際には「よろしくお願いします」と緊張しながらも「御一緒出来て嬉しいな」と喜んだ。現場では遠慮せず「不安や相談したいことを伝えたら、しっかりと受けとめてくれたなぁ」と信頼できた。加藤監督とのコミュニケーションを円滑に出来るように取り繕ってもらい「友達の時とは違う距離感のまま、尊敬している俳優同士として接して下さっていた。演技しづらいことはなかった。監督の意図を汲むことで悩んでいた時があったが、藤原さんの協力もあり、助けられました」と感謝している。
撮影は、過去から現在に向かって時系列順に撮影し、編集によって入れ子構造の作品になっており「私達はどういう出来事があったか体感しながら、現在まで撮影させて頂けたので、演じやすかった」と役を作り上げていくプロセスは重視されていた。クライマックスを迎える手前の長回しシーンでは「自分の知らない深いところまで行けたような気がしました」と体感しており、初号試写を観た際には「私の知らない顔や、見たことない表情や声色が沢山あった。刹那的だけど永遠のような時間がギュッと詰まっていた。優実ではあるけど、私と優実が限りなく交わっていたような気がします」と印象深い。加藤監督は、明確な指示を出さない方ではあったが「感情のジェットコースターに抗えない。優実と直哉の関係性を築くためにやっていたことがあったんだ」と発見できた。「加藤さんがいきたいところはしっかりとあり、どうしたらいけるか、演じている俳優に合わせて演出しているんだな。凄いな。優実の気持ちを考えずとも体感してしまった」と気づかされ「しっかりと俳優を見ている。一人一人の俳優の性質や個性を見ていてくれる。凄い方ですね」と実感している。様々なメディアから取材を受けているが、本作に対し「男性と女性では、感想が違っていた。男性のインタビュアーには、直哉が駄目だと分かっているけど責め切れない、という方もいた」と受けとめ方が様々であることも興味津々だ。「重要じゃないのに大真面目に話しているのが面白くて。観ている人にも笑ってほしい」と期待しており「加藤さんが書く台詞は、横にいるカップルの会話を聞いている感覚になる。こういった作品に関わったのは初めてで、おもしろかった。良い時間を沢山頂いたなぁ」と感慨深い。
加藤監督が手掛ける作品について「演じる上では大変だろうけど、やりたい気持ちがあります。次は加藤さんが思い描く私の役に思い切り乗っかりたい。加藤さんがどのような思いで私に演出したのか含め、全て乗っかりたい」と出演する意欲は前のめりだ。加藤監督と藤原さんとの3人でインタビューを受ける機会があり、藤原さんが「加藤さんとは確実におもしろい作品を作ることが出来ると分かっているから、乗っかりきった方が楽しい。1回乗ったら降りられないジェットコースターなんだけど、最終的には信じられないところに行ける、と知ってしまったから、怖くても乗りたい」と仰っているのを聞き「もしこの3人でご一緒できるなら、私もジェットコースターに乗り切りたい。どんな役でも頑張ります。ご一緒できるように、目の前のことを誠実にやろうと思います」と楽しみにしている。今作に対し「日常の映画だけど、恋愛が大きく占めている。しっかりと恋愛を扱った映画は初めて。恋愛映画は、苦しいことと同じぐらい楽しいことがあるんだな。恋愛は普遍的なものなんだな」と理解しており「恋愛映画を観るのは好きなので、また演じてみたい。演じてみて、改めて『おもしろくて楽しかった』と思えたので、人が人を好きになる、ということはまた演じたいですね」と出演作の幅も広がりそうだ。
映画『わたし達はおとな』は、関西では、6月17日(金)より、大阪・梅田のテアトル梅田や難波のなんばパークスシネマや京都・烏丸御池のアップリンク京都、6月24日(金)より神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開。
全ての責任や選択を迫られるのは、いつも女性側であることを痛感させられる。対して、のうのうと生きていられる男性は言葉の全てが軽く聞こえてしまう。逃げてしまえば彼らは何食わぬ顔で新しい人生を始める。しかし、本作はどちらか片方の性を非難する作品ではない。大人になりたての若い男女による甘酸っぱい恋愛模様から、無知が招く結末までを描く。大人というには子供っぽさも残る2人、タイトルの『わたし達はおとな』の「おとな」の部分が平仮名表記なのは、大学生特有の子供と大人の中間地点を指した言葉なのだろうか。2人の気持ちが交差するラストシーン、藤原季節さん演じる直哉の目が見えない演出には、どんな思いが込められているのだろうか察したい。
fromねむひら
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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