お客さんの顔を見ると「小夜が届いているんだ」と感じます…『成れの果て』萩原みのりさんに聞く!
故郷に住む姉の婚約をきっかけに、帰郷した妹の言動や行動が過去の事件の真相や周囲の人々の本性をあぶりだしていく様を描く『成れの果て』が関西の劇場でも公開中。今回、萩原みのりさんにインタビューを行った。
映画『成れの果て』は、劇作家で映像作家のマキタカズオミさん主宰の劇団「elePHANTMoon」が2009年に上演した戯曲を、『転がるビー玉』の萩原みのりさん主演で映画化したヒューマンドラマ。東京でファッションデザイナーの卵として暮らす小夜のもとに、故郷で暮らす姉あすみから連絡が入る。婚約が決まったという姉に祝福の言葉をおくる小夜だったが、その相手は、8年前に小夜の心に大きな傷を残した事件に関わった布施野だった。居ても立ってもいられず友人エイゴを連れて帰郷した小夜は布施野と8年ぶりに再会し、順風満帆な人生を歩む彼にいらだちを募らせる。そして小夜の出現をきっかけに、あすみに思いを寄せる幼なじみや事件現場に居合わせた布施野の友人ら、それぞれ思惑を抱える人々の業があぶり出されていく。共演は『千と千尋の神隠し』の主人公である千尋の声で知られる柊瑠美さん、『おんなのこきらい』の木口健太さん、『カメラを止めるな!』の秋山ゆずきさん。
2019年に公開された『お嬢ちゃん』以来3年ぶりの主演となった本作。この3年間について「成長できているな、と思えることは自分自身では全然なくて」と率直に話す萩原さん。とはいえ「出演作品毎に頂く声の数は増えているかな」と実感している。役者として作品に挑む気持ちはデビュー当時から変わっておらず「皆さんに評価して頂いたことで自信に繋がっている」と冷静に話す。
本作の台本を読み、小夜と姉や布施野との距離感を細かく決めておく必要があると認識し「現場でお互いに感じ取って作るものではない。各々で蓄積してきたものを現場初日にインするまでに最大限に溜めておかないといけない」と宮岡監督と話し合いを重ねた。姉とのシーンについては十分にリハーサルを重ねており「このシーンではお姉ちゃんはこのように思っている、と監督に説明してもらった。台本を読んでいても、私もお姉ちゃんもそうだったの!?と思うようなことが沢山ありました」と事前に共有できたことが大きかった。なお、エイゴと縁側で佇むシーンは気に入っており「お客さんにとっても唯一の苦しくない気持ちにやっとなれる瞬間なのかな。演じていても楽しかったですね」と振り返る。逆に、冒頭の帰郷してきたシーンには難しさを感じており「皆の中に飛び込むシーンでは、少しでも気持ちの揺れがあると、カメラにバレる気がした。皆の前でも強がっているけど、カメラの前でも強がっていた」と明かし「小夜は様々な思いを沢山考えた上で帰宅した、と思っています。全く描写はないけど、そこに至るまでの小夜の思いを1カットの中に詰め込まないといけない」という思いを以て演じきった。
作品を観終えた方から「小夜の顔が焼き付いた」と云われると不思議な気持ちになりながらも「あ、その顔が印象に残るんだ」と感心し、嬉しさを感じる萩原さん。「表情の中に”この子強いんだな”と思われちゃいけない。ギリギリのところにいることがお客さんに伝わったらいいな」と願っている。「現場に入ってしまったら、どこから撮っているか意識していない。カメラマンがベストポジションで撮って下さるからお任せして、自分は準備してきたものやその場で溢れ出てきた感情を必死に出す作業をしている」と述べ「器用に賢く演じているタイプではないかな」と自らの演技について謙遜していた。
センシティブな作品である本作。萩原さん自身も「ターゲットは難しい」と感じている。とはいえ「思っていたよりも、刺さる人には刺さる。そうではなく、おもしろかったと受け取る方もいらっしゃる」と劇場公開後に気づかされた。「自分自身が演じた役が苦しいと、客観的に見られていない。周囲の人物に対しての滑稽さを当時は気づけていなかった」と打ち明け「人間の醜さや見たくない部分を楽しんで見てもらえるシーンもあったのかな」と冷静に感じている。また「作品毎に自分自身が達成感を持っている作品は今までにない。クランクアップしてもスッキリしない部分があります」と述べ「鑑賞したお客さんのコメントを読みながら、皆さんに良かったと思って頂けることで、自分の中で作品が完成する」と説く。本作においては、上映後の舞台挨拶で感じることが多く「観て頂いたお客さんの顔を見ると『小夜が届いているんだ』と感じます。自分の中で作品を終わりに出来る感覚が今はあります」と感慨深い。
『お嬢ちゃん』公開時、萩原さんにインタビューした際には「気持ちの奥の心の機微まで伝えられるような役者でありたい」と伺った。デビューした時から今もずっと同じ気持ちで「”あのシーンが好き”ではなく、”あのシーンのあの顔が凄かった”と思ってもらえるような、言葉に出来ない感情を残せる役者でありたい」と思い続けている。俳優という仕事について「階段を進んでいくものではない」と認識しており「毎回違う組で違うスタッフさん達と違う監督の、違うことが正しいことになっていく。正解が全くないからこそ、前に進んでいる感覚ではない。目標に近づけているか達成感を判断するのは難しいですが、毎回そういう表現をカメラの前で残せたらいいな。そんな思いで挑んでいることは変わらないかな」と真摯な思いを話してもらった。
映画『成れの果て』は、関西では、大阪・梅田のテアトル梅田で公開中。また、2022年1月14日(金)より京都・出町柳の出町座で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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