観客10万人を目指す!10万人が観れば、世の中は変わるよ…『百姓、わらう。』柴田昌平監督に聞く!
日本の人口の約0.1%の49歳以下の若い農家を訪ね、4年にわたってその姿にカメラを向け続けた『百姓、わらう。』が10月17日(土)より関西の劇場でも公開される。今回、柴田昌平監督にインタビューを行った。
映画『百姓、わらう。』は、人々の毎日の食卓の向こう側に生きる、全国の若い農家たちを4年にわたって取材したドキュメンタリー。統計によると、49歳以下の農家は日本の人口のわずか0.1%にまで減少している。農業を取り巻く状況が年々厳しさを増していくなか、彼らは自分たちを「絶滅危惧種」であると笑いながら、さまざまな知恵と工夫で道を切り開こうとしている。土の中の微生物の力を引き出して週休1.5日を実現する有機農家。1億円の借金を抱えた大規模酪農から放牧へと舵を切り、牛を”適正規模”に減らすことで家族の笑顔を取り戻した酪農家の夫婦。マニュアルが通用しない理不尽な自然を相手に、若い農家たちは自らの創造力でタフに生き抜いていく。『百姓の百の声』『千年の一滴 だし しょうゆ』の柴田昌平監督が、生産現場の圧倒的な生命力と、消費社会の無知という“深い断絶”に迫り、再生へのヒントを見出していく。
前作『百姓の百の声』を全国各地で上映してきた柴田監督。トークショーにも登壇してきたが、その際に若い農家の方が観に来ており、知り合って盛り上がることが多かった。その後、すぐに帰京するのではなく、様々な農家の姿を見るべく取材に伺うことに。本作にすべてが登場しているわけではないが、様々な若い農家へ取材しており、「現代農業」といった専門誌を除けば、農家と消費者を繋ぐメディアがほとんどないことから「若い農家を取材していこう」と本作を手掛けることに至っている。なお、取材した農家は『百姓の百の声』を観ているため、柴田監督を快く受け入れており、農家に対する姿勢も信頼されていた。最初に登場する岡田和樹さんは、かつて制作したNHKスペシャル『クニ子おばばと不思議の森』を録画したテープが擦り切れるほど観ていたという。また、新潟の棚田で営む鴫谷幸彦さんは、東日本大震災後に『森聞き』を観たことが、就農するきっかけになっている。柴田監督が手掛けた作品が縁になっていることが大きく「農家にとっては邪魔になる存在。いてもいいや、と思える素地もあった。そうでなければ、2日目になると、うるせえな、と思われちゃうかもしれない」と話す。とはいえ、車移動は大変で車中泊も多く経験しており「機材があるので、車がないと取材に行けない。泊めてもらえる民家の拠点も作っていった」と明かす。最も長く取材したのが広島であったが、住みやすい家屋があったことで長期間の取材を実現させている。
作中では、棚田作りも解説されていく。棚田は、平野と比べて機械が使いにくく、ほぼ全てが手作業や小型の農具による人力頼みとなるため、重労働で非常に大変である。登場する若い農家は、最初は理想を追い求めてやって来ており「当時60代の方が営んでいたことから、先輩たちが格好良いと思っていた」と話す。また、収穫した作物はJAを介して販売するだけでなく、インターネット上で個人販売している姿も収められており「JAに売ると、自分で値段を決められない。農家が一番苦しいのは、自分で決められないこと。 JAだとそんなに高く買い取ってくれない。これからの農家が持続可能になっていく上では大事なポイント」と説く。とはいえ、今作に登場する農家の所得は決して高くないようだ。3年で400万円を達成している農家があれば、たまたま見た納税証明書に目が点になることも。だが「この状況を不満に思っていないことも興味深い」と受けとめ「少しは不満もあるけど、彼らは笑顔に満ちており、楽しくて農業をやっているからかもしれない。”満ち足りる”や”豊か”はどういうことなのか、と見せつけられている」と感じていた。その後、東北の畜産農家も取材しており「おもしろい画が撮れた。それぞれの農家も1年かければ取材を終えて、纏めていけるかな」と思っていた矢先、その畜産農家から倒産の報せを受けることに。改めて、取材の計画を立て直し、悩みながら心を痛めることがありながらも、2026年の3月には取材を終わらせよう、と決意した。結局、6月に終えることになったが「農業の現状を撮っている。中山間地域に関しては、次々に変化していく。どれだけ時間をかけて制作していても、変わり過ぎてしまったら、意味がない。何があっても、今秋には公開する」と決断している。
そして、目の前で倒産した姿を見たことで「何故、倒産に至ってしまうのか」と熟考し、現場に潜んでいる闇、補助金のあり方、現場を知らない農政、そして、メディアの酷さに気づかされていく。「これらを伝えず、農業万歳だと云うのは犯罪になってしまう」と危惧し「農業を営んでいる方の中には、クリエイティブで素晴らしい方が沢山いるし、可能性がある。だけど、農政やメディアが阻んでいる。その背景には、消費者の無関心がある。そこが変わらない限り、作品を手掛けていても、詐欺になってしまう」と考えるようになった。取材を続けていく中で、中山間地域等直接支払制度の切り替え時期があり「補助金をめぐる攻防を見ていた。ここまで切り捨てるのか…5年間の中で目標に到達できないとペナルティがあるかもしれない。このペナルティこそ農家が一番恐れていることだ」と気づかされていく。それ故に「農林水産省の中枢にいる人達や政治家たちにも観てほしい。観ざるを得ない状況に追い込みたい」と話す。そして、最後に、台所での料理シーンを撮影し「誰にとっても自分の台所のように思える雰囲気で撮影し、自分事として見えるようにしている。これで撮り切ったかな」と感じられ、長期間にわたった取材と撮影を終えている。
編集段階となり「土と農業との関係を伝え続け、酪農にまで至る。そして、村や補助金に関する事柄から農政の現状、そこから、どうやって我々は蘇っていけばいいのか」といった構成を考え、作り上げていった。沢山の撮影素材を”食材”として捉えており「編集では、食材を並べている。最終的に、どういうお皿に盛り付けていくか、と悩んだ。観客が自分事として感じられるように、食べている人は…と細かく様々なことを施しながら、途中で何処が変わったか分からないような味付けを沢山やっています」と明かす。編集の途中段階においても様々な方々に観てもらっており「自分一人で作るわけではない。映像制作を手掛けていない若い雑誌の編集者、普段は別の分野に携わっている方…と様々な若い方に観てもらい、いただいた感想を元に、問題点を認識して直している。最終的には、NHKの信頼するプロデューサーたちにも”友人として”観てもらい確認した」と述べ、属人的な制作になっていないことが伝わってくる。作中に添えられている音楽に関しては、当初、楽器ではなく、声によるものを検討していたが、最適な方がなかなか見つからず。そんな折、『ひめゆり』上映会に関連するライブに招待された際に、Maicoさんの楽曲を聞き「この声がすごく良い。この声でいきたいな」と惚れ込み、楽曲制作を依頼したところ、承諾いただいた。「歌詞のないオノマトペで歌を作ってほしい」と依頼しており、想像以上の楽曲を制作してもらい、作品の軸となるように添えられている。
既に東京のポレポレ東中野で公開されており、鑑賞したお客様の様子を見ながら「皆が笑顔で劇場から出てきてくれることが嬉しい。でも、自分なりの矛盾など様々な想いを抱えている。それでも、笑顔で出てこられているので、ポジティブなエネルギーが出ているんだな。ポジティブなエネルギーが起こらないと、社会を変えていけない。ネガティブなエネルギーでは変になってしまう。この映画を作って良かったな」と満足している現在だ。農政の厳しさも含めて現実を語っている作品ではあるが「自分は何ができるかな、自分はどうしたらいいかな、と自分事として感じながらポジティブに出てこられる映画になったことが良かった」と受けとめており「口コミで広まる作品だと思っている。10万人を目指す。 その10万人が観れば、世の中は変わるよ」と行く末を楽しみにしている。今後も農業に関する作品を手掛けることを模索しており、トークショー等で様々な方々に出会うことも楽しみにしているという。
映画『百姓、わらう。』は、関西では、10月17日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、10月23日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、10月31日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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