変わりゆく中国・四川省の社会を背景に、失われた恋人や失われた母語や変わりゆく土地をめぐる『春樹』『ルオムの黄昏』がいよいよ劇場公開!
『キムチを売る女』『春の夢』『福岡』など中国・韓国・日本を横断しながら映画を撮り続けてきた中国出身のチャン・リュル監督が手掛け、変わりゆく中国・四川省の社会を背景に、失われた恋人や失われた母語や変わりゆく土地をめぐる物語『春樹』『ルオムの黄昏』が7月3日(金)より劇場公開される。
映画『春樹』は、変わりゆく現代中国のなかで喪失するアイデンティティをテーマに描いたドラマ。女優としての夢が行き場を失い、恋愛にも行き詰まってしまった37歳の春樹(チュンシュウ)。故郷の成都に20年ぶりに帰った彼女は、かつての演技指導者である張梅(ジャン・メイ)のもとを訪れるが、張梅は認知症で言葉を失いつつあった。故郷に居場所を見つけられない春樹に、母の世話をするため上海から戻ってきた張梅の息子である冬冬(ドンドン)が静かに寄り添う。過去の栄光も、教えも、学びも、時代の流れのなかで忘れ去られ、朽ちたまま残された国立映画撮影所のように、停滞する人々のかたわらで日々はささやかに過ぎていく。出演は『モンスター・ハント』のバイ・バイホー、『サタデー・フィクション』のワン・チュアンジュン。2025年の第38回東京国際映画祭コンペティション部門にて最優秀監督賞と最優秀男優賞(ワン・チュアンジュン)を受賞(映画祭上映時タイトル「春の木」)。本作の撮影後、同監督・同キャストによる姉妹編「ルオムの黄昏」が制作された。

映画『ルオムの黄昏』は、四川省の古都である羅目鎮(ルオム)を舞台に、消えた恋人の痕跡を追う女性の旅を描いたドラマ。劇団でダンサーをしているバイのもとに、3年前に突然姿を消した恋人の王(ワン)から、”羅目の黄昏”とだけ書かれた1枚の絵葉書が届く。バイはその言葉に導かれ、古都であるルオムの宿にたどり着く。そこには、かつて北京の魯迅博物館でガイドをしていた女性亭主の劉(リウ)や、劉を20年間思い続けた黄(ファン)、そして行き交う旅人たちの姿があった。時代のスピードとは別の時間が流れるこの古都でバイが見つけたのは、ワンの姿ではなく、彼が残した時間の痕跡だった。古都をさまようバイの前に、ワンは幻のように現れては消える。ある日、バイはワンに似た人物が山中の寺院で目撃されたという情報を得る。チャン・リュル監督が同年に手がけた映画『春樹』の姉妹編として制作された作品で、キャストもバイ・バイホー、ワン・チュアンジュンら『春樹』と同じメンバーがそろった。2025年の第30回釜山国際映画祭コンペティション部門にて最優秀作品賞を受賞している。

映画『春樹』『ルオムの黄昏』は、7月3日(土)より東京・銀座のシネスイッチ銀座で公開。関西では、7月25日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。
近年では『群山』『福岡』『柳川』が日本の劇場で公開され、アジア映画好きにも存分に知られるようになったチャン・リュル監督の作品。韓国・日本を横断しながら映画を撮り続けてきた監督だが、今回は、改めて現代中国を舞台にした作品が届けられた。
『春樹』では、行き詰まってしまった俳優のアイデンティティをテーマに描かれていく。この主人公は、オーディションを通じて起用されたが、当事者キャスティングを主体にした監督の意向に沿わず、行き場を失ってしまう。そこで、俳優としての礎を築くことが出来たきっかけとなる恩師を訪ねることに。だが、認知症を患っており、振り回されてしまう。とはいえ、恩師であるために見捨てることができず、共に過ごすことに。恩師が伝えてくることに振り回されながらも、その発言の本質を見極めようとしていく。それ故に、喜怒哀楽の感情が入り混じってしまい、自らのアイデンティティも見失いそうにもなってしまう。恩師が本当は何を伝えたかったのか、観る者にも委ねらているようにも感じる作品であった。
『ルオムの黄昏』では、『春樹』と同じキャスティングで、消えた恋人の痕跡を追う女性の旅を描いており、ホン・サンス監督作品を鑑賞しているような心持ちになってしまう。本作で主人公がお世話になるのは、旅先の宿にいる主人。相手が醸し出す空気感によって宿泊してもらうか判断しているようで、この主人公を受け入れたことは興味深い。四川省の古都である羅目鎮(ルオム)という比較的小さな都市を巡りながらも、何処にいるか分からない恋人を探す姿は、どことなく儚げであり、観る者を引き寄せてしまう魅力もある。そして、主人公にしか分からない恋人の声が聞こえてくることで、実はそんなに遠くない場所にいるのではないか、と思えてしまう。しかし、現実は思うようにはいかないのが旅であろうか。そんな彼女に寄り添ってくれるのが、このルオムであり、この宿であろうか。
両作品共に喪失を描きながら、それを癒すようなものは明確には描かれていかない。だが、ほんの少しだけの変化があるだけで、主人公や周囲の人物に良き与えるのかもしれない。そんなことを観る者それぞれによって気づかされるような作品達であった。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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