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キャリアの初期から中期の作品を中心にラインナップ!「メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章」が関西の劇場でも開催!

2025年12月2日

©National Film Institute Hungary – Film Archive

 

女性として初めてベルリン国際映画祭の金熊賞に輝いたハンガリーの映画監督メーサーロシュ・マールタの特集「メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章」が12月5日(金)より関西の劇場でも開催される。

 

メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章」…

1975年、『アダプション/ある母と娘の記録』で、女性監督として初めてベルリン国際映画祭の最高賞を受賞したメーサーロシュ・マールタ。2023年、同作を含む5作品が日本でもようやく公開された。
今回の特集では、メーサーロシュの代表連作『日記』三部作を含む7作品を新たにラインナップ。孤児として育った女性が両親を追い求めるデビュー作『エルジ』、中年の危機に瀕した未亡人の息苦しさをシスターフッド的に描破した『月が沈むとき』、階級格差が男女の結び付きを蝕む『リダンス』など、初期作品には「家族」の有り様を洞察するメーサーロシュの作家性が光る。アンナ・カリーナを共演に迎えた中期の傑作『ジャスト・ライク・アット・ホーム』では、血の繋がらない男と少女の、親子のような親密さにカメラが向けられ、やはりここでも「家族」の形が問い直される。そして「日記」三部作には、冷戦下の恐怖政治を生き抜いた、メーサーロシュ自身の記憶が刻まれている。軍靴が耳をつんざくなか、生き別れた両親への思いがこだまするパーソナルな一大叙事詩が、ついにその全貌を現す。

 

『エルジ』は、1968年に発表した長編劇映画デビュー作。マールタ監督が後に繰り返し描く「養子」をテーマにした自伝的作品で、孤児として育った女性が両親を追い求める姿を描き出す。児童養護施設で育ったエルジは24年ぶりに、小さな村で暮らす実母を訪ねる。再婚していた母は娘の来訪に戸惑い、彼女を姪と偽って新しい家族に紹介する。家族関係の修復も曖昧なまま街へ戻ったエルジは、行きずりの男と交際しながら鬱々とした日々を送っていた。そんなある日、見知らぬ中年男性がエルジの前に現れ、彼女の両親が死んだことを告げる。

©National Film Institute Hungary – Film Archive

 

『月が沈むとき』は、1968年に手がけた長編第2作。「家」に囚われた女性の苦しみと、彼女に寄り添う女性との交流を描いたシスターフッド映画。政治家の夫を亡くしたエディトは、保険金や邸宅の相続を頑なに拒む。息子は父の名声が汚されることを恐れ、母エディトを別荘に軟禁してしまう。息子の婚約者も「看守」として軟禁に手を貸すが、壊れていくエディトの姿を目にするうちに、結婚という結びつきに違和感を覚え始める。

©National Film Institute Hungary – Film Archive

 

『リダンス』は、自身が労働者階級であることを隠して結婚しようとする女性の選択を描いたドラマ。工場に勤める女性ユトゥカは、ダンスパーティで大学生のアンドラーシュと出会い、恋に落ちる。彼に拒絶されることを恐れたユトゥカは、自分も学生であるかのように装い、名前も偽ってしまう。やがてアンドラーシュは彼女の素性を知るが、両親には真実を告げることができない。やがて両家合同の食事会が開かれると、アンドラーシュの家族は階級意識をあらわにする。
撮影は、後に『マレーナ』『海の上のピアニスト』等ジュゼッペ・トルナトーレ監督作を手がけるコルタイ・ラヨシュが務めた。

©National Film Institute Hungary – Film Archive

 

『ジャスト・ライク・アット・ホーム』は、血のつながらない男と少女が築く、親子のようでいて親子ではない関係を描いたドラマ。アメリカからハンガリーに帰国した根無し草のアンドラーシュは、放し飼いにされていた犬を気に入り、飼い主の少女から強引に買い取ってしまう。わだかまりを抱えたままの2人は、次第に親子とも言い切れない親密な関係を育んでいく。アンドラーシュの元恋人アンナは、そんな2人を気にかけるが…
メーサーロシュ監督作の常連俳優ヤン・ノビツキがアンドラーシュを演じ、『気狂いピエロ』等で知られる名優アンナ・カリーナが、2人の関係に揺らぎをもたらす女性アンナを好演。

©National Film Institute Hungary – Film Archive

 

『日記 子供たちへ』は、自伝的連作「日記」シリーズの第1作。1947年、ソ連から祖国ハンガリーに帰ってきた孤児のユリは、共産党員である養母のもとで育てられる。秘密警察に逮捕された父と亡き母の記憶に胸を締め付けられる日々を送っていたユリは、父にそっくりな男と出会い…
1984年の第37回カンヌ国際映画祭で、女性監督として初めて審査員特別グランプリを受賞。日本では1985年の第1回東京国際映画祭で上映された。

©National Film Institute Hungary – Film Archive

 

『日記 愛する人たちへ』は、自伝的映画「日記」3部作の第2部。モスクワ留学から1956年のハンガリー動乱前夜までを描き、1987年の第37回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した。養母マグダのもとを離れ織物工場に勤めるユリは、映画監督を志して、モスクワの大学で映画制作を学び始める。スターリン死去後、ユリは卒業制作として労働者の実情をとらえたドキュメンタリー映画を完成させるが、反社会主義リアリズム的な内容とみなされ再編集を命じられてしまう。そんな中、ユリは父がすでに亡くなっていたことを知らされる。メーサーロシュ監督の義理の息子ヤンチョー・ニカが撮影を担当した。

©National Film Institute Hungary – Film Archive

 

『日記 父と母へ』は、自身の激動の半生をモデルに描いた自伝的映画「日記」3部作の最終作。1956年のハンガリー動乱から民主化運動の挫折までを描き、戦争の余波と闘いの行方を問う。1956年10月23日、ブダペストで民衆が蜂起する。留学先のモスクワで足止めされていたユリは、12月になってようやく帰国を許される。カメラを手にしたユリは、祖国の荒廃した街並みや犠牲者を見つめていく。その年の大みそか、ユリたちは一堂に会し、政治的立場の異なる者たちも仮装や音楽、ダンスをともに楽しむ。しかし、反動分子への弾圧はとどまるところを知らず…

©National Film Institute Hungary – Film Archive

 

メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章」は、12月5日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都や神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。

2023年に「メーサーロシュ・マールタ監督特集上映」が開催され、これまで日本の劇場では公開されてこなかった監督作品がようやく知られるようになった。ハンガリーが誇る映画監督の一人であるメーサーロシュ・マールタは、第2次世界大戦中、スターリンの粛清が吹き荒れるなか、両親を亡くし孤児となり、ソヴィエトとハンガリーを行き来する人生を送っていたことから、作品にはハンガリー事件やファシズムの記憶が度々刻まれている。そんな背景がありながら、一貫して選択する女性の姿を描き続けてきた。そして、女性の主体性を脅かす社会の相貌にカメラを向け、ハンガリー映画の一翼を担ってきたのだ。今回の「第2章」では、マールタ監督自身の初期~中期作品を中心にした7作品をラインナップ。冷戦下の恐怖政治を生き抜いた監督自身の記憶が刻まれたパーソナルな一大叙事詩「日記」三部作は、社会的な映画監督になるべく、ブレない志を秘めた女性を描いていることが実に興味深い。また、監督の目を通して家族の形や有様を問い直すような作品も盛り込まれており、いつの時代においても女性の連帯感は必要であることにも気づかされる。故に、2020年代において、メーサーロシュ・マールタ監督の作品が特集上映される意義は十分にある、と言わざるを得ない。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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