下級貴族の恋模様を怪談として描く『後朝の花雪』がいよいよ劇場公開!

©Hand to Mouse.栗栖直也
下級貴族の恋模様を怪談として描く『後朝の花雪』が10月17日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『後朝の花雪』は、2016年に個人制作で作りあげた3DCGアニメ『ねむれ思い子、空のしとねに』で国内外から高く評価された栗栖直也さんが、9年ぶりに完成させた短編3DCG怪談アニメ。今昔物語の1編をモチーフに、美しき平安の悲恋を徹底した時代考証により描き出す。1000年前の京都。かつて捨てた女の家を訪ねた時正は、その館の中で朽ちずに残っている女の骸と、周囲を漂う不気味な光を目撃する。自分を恨んで死んでいった女の祟りを恐れる時正は、陰陽師である賀茂忠行のもとへ向かうが…
物語の舞台となる建物は、平安京・右京六条一坊五町の発掘資料の図面をベースに、現存する平安時代の神社仏閣や資料から構造を導き出し3DCGで再現。1980年代から多くのゲーム音楽を手がけてきたサウンドコンポーザーのKawagenが音楽を手がけ、平安時代に存在した和楽器およびシンセサイザーのみを使用してサウンドトラックを制作した。テレビアニメ「BORUTO ボルト NARUTO NEXT GENERATIONS」の木島隆一さんが時正役、ボーカロイド”結月ゆかり”のボイスを担当する石黒千尋さんが小浜役で声の出演。なお、『ねむれ思い子、空のしとねに』のデジタルリマスターバージョンと同時上映される。
©Hand to Mouse.栗栖直也
映画『後朝の花雪』は、10月17日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田と京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。

7年の歳月をかけてほぼ1人で作画を手がけた3DCGアニメ『ねむれ思い子、空のしとねに』を公開当時に劇場で観た時、かなりの時間をかけたとはいえ、ほぼ1人でここまでの作品ができるのか、と畏れ入った。独特のタッチがある画による3DCGアニメーションであるが、時折見せる彩光までこだわっており、ほぼ1人で!?と信じずにはいられない作品だ。そして、9年ぶりに完成させた短編3DCGアニメが今作である。監督は、古典文学の中でも庶民が多く登場する『今昔物語』の一編(第二十四巻二十話 人妻成悪霊除其害陰陽師語 [人の妻悪霊と成り其の害を除く陰陽師の語]であろうか…)を脚色し、下級貴族の恋模様を怪談という形相で描いており、観る人によってはグロテスクに感じる画も含まれているが、切ない恋物語として描かれているのが印象的だ。そもそも、『今昔物語』は、いくつかの例外を除き、それぞれの物語はいずれも「今昔」(現代語訳:今は昔 ⇒ 今となっては昔のことだが)といった書き出しで始まり、「トナム語リ傳へタルトヤ」(現代語訳:と、なむ語り伝えたるとや ⇒ 〜と、このように語り伝えられているのだという)という結びの句で終わる。各々の物語が現代でも通ずる内容になっており、2020年代の現在に映像化されることは示唆に富んでいるのではなかろうか。なお、今回の作品は現代語版であるが、今後、古語版の公開を予定しているとのことで、本作が持つ奥ゆかしき美しさを伴った魅力を放ってくれることを楽しみにしておきたい。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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