閉じられた”家族”というモチーフだけでなく、開かれた”街”というモチーフにも変容が存在している…『見はらし世代』団塚唯我監督に聞く!

再開発が進む渋谷の街を舞台に、父と疎遠になった姉弟が、母の喪失をきっかけに関係を見つめ直そうとする姿を繊細に描く『見はらし世代』が10月10日(金)より全国の劇場で公開。今回、団塚唯我監督にインタビューを行った。
映画『見はらし世代』は、再開発が進む東京・渋谷を舞台に、母の死と残された父と息子の関係性を描いたドラマ。NHK連続テレビ小説「ブギウギ」で俳優デビューを果たし注目を集めた黒崎煌代さんの映画初主演作で、文化庁の委託事業である若手映画作家育成プロジェクト「ndjc(New Directions in Japanese Cinema)」で短編『遠くへいきたいわ』を発表した団塚唯我さんのオリジナル脚本による長編デビュー作。渋谷で胡蝶蘭の配送運転手として働く青年の蓮は、幼い頃に母の由美子を亡くしたことをきっかけに、ランドスケープデザイナーである父の初と疎遠になっていた。ある日、配達中に偶然父と再会した蓮は、そのことを姉の恵美に話すが、恵美は我関せずといった様子で黙々と自らの結婚準備を進めている。そんな状況の中、蓮は改めて家族との距離を測り直そうとするが…
主人公の蓮を黒崎さん、父の初を日本映画界に欠かせないバイプレイヤーの遠藤憲一さん、亡き母の由美子を俳優・モデルとして幅広く活躍する井川遥さん、姉の恵美を『菊とギロチン』『鈴木家の嘘』の実力派である木竜麻生さんがそれぞれ演じた。2025年の第78回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品された。
「これまで扱ってきた母親の喪失等のモチーフをもう一度使って、長編映画を制作しよう」と思っていた団塚監督。構想していく中で「このモチーフだけでは、長尺の作品として展開できない。長編作品になったとしても閉塞感がある」と気づき「解放されて希望がある映画にすることができだろうか」と熟考。そして「”街”と”家族”の変容をモチーフにしてみてはどうか」と考え始めてみることに。変容について「”家族”という閉じられたモチーフだけではなく、”街”という公共的で開かれた景色というモチーフにも存在している」と捉え「普遍的なドラマを作ることが出来ないか」と検討していった。そこで「”都市を描いた映画”と謳いつつ、正しくリアルタイムで描くことが出来ている作品はどれ程あるのか」と模索していく中で、東京・渋谷の宮下公園がMIYASHITA PARKへと変容したことはタイムリーな出来事であり「この映画を製作するのであれば、渋谷で撮らないといけない。特にMIYASHITA PARKは本作において大事なモニュメントだ」と確信する。なお、脚本執筆にあたり、終盤ではトリッキーな展開を施しているが「執筆中は、思い切ったことをしているつもりはなかった。映画でしかできない表現だと思いながら書いていた。不思議なことをしている感覚はなかった」と冷静に話す。
©2025 シグロ / レプロエンタテインメント
主演の黒崎さんとは、『さよなら ほやマン』にメイキングのスタッフとして携わった際に出会った。以降、仲良くしていく中で「彼が主演を担ったら、作品が一番おもしろくなるかな」と気づいていく。とはいえ、黒崎さんが近年演じたような明るく個性的な役柄ではない。しかし「彼とはプライベートでの交友関係があるので、明るい雰囲気以外の部分があることも分かっていた。明るいキャラクターだけを演じていると、オファーされる役が限定されてしまう」と危惧し、製作が決まった頃には直ぐにオファーし、快諾いただいた。その後、父の初役について「厳しい内容の台詞で硬い印象がある役ですが、憎めそうで憎めない感じにすることが出来るキャラクターを演じられる人は遠藤憲一さんしかいないな」と確信し、オファーしている。そして、木竜麻生さん、井川遥さん、菊池亜希子さんら女性のキャストについて、脚本を読んでもらい、皆さんから「やります!」と応じていただいた。
撮影にあたり、東京都内での撮影はどこも大変で、特に渋谷が大変、と云われているが「この題材では、渋谷で撮らないといけない」と拘り「皆で知恵を絞り、どのようにすれば実現可能か、とスタッフの人数を調整しながら、撮影手法を上手に組み合わせながら、なんとかして撮っていった」と振り返る。作中にはMIYASHITA PARKの近くにある歩道橋での会話シーンがあるが、クランクイン後に工事が始まってしまい、場所をずらしながら撮影できるようになったこともあったようだ。このようなトラブルは時々遭遇し大変ではあったが「どちらかといえば、トラブルを味方につけよう、と考えていた。工事中の歩道橋が少しだけ映っているけど、そういった街の変化をリアルタイムで映せることは貴重だ、といった発想の転換をしていった。そういった意味では、むしろラッキーだった」と思うようになり、さらに踏み込んでいくマインドがあった。なお、『遠くへいきたいわ』制作時に携わった製作会社と同じであり「長編デビュー作は、同じスタッフで製作したい」と要望し、既に見知っているスタッフの方々が今作でも沢山参加している。前作では大変な時があったが「我々の組は、淡々とやっているので、撮影しやすかった。各々が自身の仕事をやっていることが気持ちよく、楽しい日々だった」と懐かしんでいる。
©2025 シグロ / レプロエンタテインメント
その後、編集段階で、2025年の第78回カンヌ国際映画祭に応募した。まだファーストエディットの段階といった但し書き付きで応募したが、作家性や芸術性の高い作品や作家の才能が光る作品を発掘することを目的とした上映部門「監督週間」に日本人史上最年少で選出されることに。団塚監督自身も「まさか但し書き付きで選んでもらえるとは…」と心から驚いており「ndjc同期の皆さんが活躍されていたので、今回の長編作品デビューを決めて、自分も後に続かないといけないな」と自らにプレッシャーをかけていたことから、今回の喜びは何ごとにも代え難い。とはいえ、1ヶ月後に上映できる状態にする必要があり「猛スピードでポストプロダクションをしていったので、気づいたら完成していた」と言わざるを得なかった。その後、東京でジャパンプレミアが行われ「現在の街や家族のことについて、自身に重ねてくださっている方がいる。渋谷のロケ地で写真を撮ってSNSにアップしてくれる人がいた。映画を観終わった後の体験へ繋がっている様子を見ていると、作って良かったな、と素直に思える」と真摯に反応を受けとめている。そして、いよいよ全国の劇場で公開を迎える現在は「全国から沢山のフィードバックが返ってくることで、自分がどのような映画を作ったのか、が分かりそうだ」と話しており、公開日が楽しみで仕方がない日々を送っている。なお、今後は「テーマやジャンル等をあまり狭めず、オリジナルじゃなくても、作りたいものがあったら挑戦していきたい」と意気込んでおり「似たようなモチーフをずっと扱ってきたので、今回は節目のつもりで作りました…と言いつつ、家族映画も好きですし、今後はどのようなモチーフで何を作っていくか分からないですが、”映画”というフォーマットに限らず、可能な限り様々なものに挑戦してみたい」と未来に目を輝かせていた。
映画『見はらし世代』は、10月10日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田や難波のなんばパークスシネマ、京都・烏丸御池のアップリンク京都や烏丸の京都シネマ、兵庫・神戸のシネ・リーブル神戸や尼崎のMOVIXあまがさきで公開。
©2025 シグロ / レプロエンタテインメント

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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