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立場が弱い者が中心となって皆を繋ぎ、周りの者達が少しずつ動き出していく…『蔵のある街』平松恵美子監督に聞く!

2025年7月24日

自然と産業が共存する岡山県倉敷市を舞台に、幼なじみの自閉症の兄のため、高校生たちが打上花火を見せようと奮闘する『蔵のある街』が8月22日(金)より全国の劇場で公開される。今回、平松恵美子監督にインタビューを行った。

 

映画『蔵のある街』は、昔ながらの街並みが残る岡山県倉敷市の美観地区を舞台に、街で花火を打ち上げようと奔走する高校生たちの奮闘を描いた青春ドラマ。コロナ禍に日本各地の約300の街で開催され人々に笑顔をもたらした”サプライズ花火”のエピソードを元に、高校生たちの強い願いが街中の人々を巻き込んで大きな希望になっていく様子を描いた。倉敷市に住む高校生の蒼と祈一と紅子は、小学校からの幼なじみ。ある日、蒼と祈一は、紅子の兄で自閉スペクトラム症のきょんくんが神社の大木に登って叫んでいる場面に遭遇する。きょんくんをなだめようと、花火を打ち上げる約束をとっさに口走る蒼だったが、紅子から怒りの言葉をぶつけられてしまう。紅子の涙に約束の重みを痛感した蒼たちは、約束通り街で花火を打ち上げるべく奔走するが…
『君たちはどう生きるか』で主人公である眞人の声を担当した山時聡真さんが蒼、『九十歳。何がめでたい』の中島瑠菜さんが紅子を演じ、蒼たちの挑戦をサポートする学芸員の古城役でプロフィギュアスケーターの高橋大輔さんが映画初出演。監督・脚本は『小さいおうち』『家族はつらいよ』といった山田洋次監督作の助監督・共同脚本や『ひまわりと子犬の7日間』等の監督作で知られる、倉敷市出身の平松恵美子さん。手嶌葵さんが主題歌を担当した。

 

岡山県倉敷市出身の平松監督。幼稚園、小学校、中学校と同じところに通っていた同級生がコロナ禍にサプライズ花火をあげたことに関するエピソードを聞き、興味深かった。また、以前から「倉敷で映画を撮ってくれ」とリクエストを受け続けていたこともあり「誰かのことを思い合うことで、街全体が動いていくストーリーだったら、倉敷の街には合うんじゃないかな」と検討。未成年である高校生達が大人を動かしていく、といった構図があり「中学校までは同じだったけど、高校は別々になった3人が、とあるきっかけで再び邂逅し物語が始まっていく」といった物語を考えていった。さらに「立場が弱い者が中心となって皆を繋ぎ、周りの者達が少しずつ動き出していく。高校生達の動きだけではなく、大人まで影響を及ぼすことで、さらに大きな動きになっていく」といったように、小さな思いが拡がっていくストーリーを作りたかったようだ。

 

キャスティングにあたり、きょんくん役について「自閉スペクトラム症がある男の子は難しいので、どうしようかな。できる人いないかな?」と思い、様々な事務所に相談。そこで「堀家一希さんはいかがですか?」と提案を受けた。その際に主演作『世界は僕等にきづかない』を拝見し「演技力は確かなんだけど、彼の性格や人柄はどうなんだろう?一度会わせてください」と依頼。対面してみると「穏やかで、人懐っこい笑顔。理解度も早く、気遣いができる感じの青年でした。彼ならきょんくんを任せられる」と思い、オファーした。高校生3人についてはオーディションを行っており、沢山の俳優に会う中で絞っていきながら、全体的なバランスを考慮した。「山時君は、とびぬけている印象があった。表現力も優れていて目を引いた。真っ直ぐでありながら、少し天然なところに魅力があった。中島さんは、芸能ズレをしておらず、素朴さがある。自分を抑えた内向的な時と、心を開いた時の雰囲気の落差を表現できる。倉敷にいそうな生活感を感じた。櫻井君は、ユーモラスでユニークだけど、心に抱えている鬱屈を出せそうだ」と感じ取り、3人ときょんくんによる良いバランスを作り上げている。なお、プロフィギュアスケーター高橋大輔さんが映画初出演しており「その役はどうしてもネームバリューが欲しかった。東京で活動している俳優や同年代の俳優等から幅広く考えていった。どうしようかな、と悩んでいた時、偶然にもNHKのインタビュー番組を見て、ここにいた、と思った」と明かす。「芝居をする必要はない。もし芝居をしたら、やめさせよう」といった決意でオファーしており、承諾いただいたことは有難く「オリンピック選手だった方は凄い。肝が据わっている。カメラがどれだけ近くにあっても、全く動揺しない」と讃えた。

 

撮影地となった倉敷市には全面協力していただき、美観地区の方々には「頑張ってね」といった雰囲気で受け入れてもらい、助かった。とはいえ、観光客の方々もいる中で、協力してもらいながらの撮影は大変だったようだ。撮影は、7月20日から8月10日までの21日でスケジューリングした。さらに、映適のガイドラインに則った作品であり、3週間の中で4日間は休暇が必要であり、予備日も1日だけ確保しており、16日で撮影するスケジュールは1日でも雨が降れば予定が崩れてしまう程に大変だ。なお、当時の中島さんは高校生であったことから22時以降の撮影は禁じられており、幼い子どもも20時以降は撮影できず、シーンによっては時間がギリギリの撮影となった。また、近年の猛暑への対策は大変だったり、夕方は無風だったり、蝉の鳴き声など、環境からの影響も大いに受けたようだ。様々な要因により過酷な撮影となったが「人間関係に関するトラブルは一切なかったことは助かりました。皆が大変な思いをしながらも、穏やかに撮影を進められました」と安堵している。そういった環境の中で、クライマックスとなるようなシーンの撮影では「皆が高揚したし、泣きそうになっている方もいました。作られたような興奮の顔ではなく、心からの反応でした」と印象深い。

 

第20回大阪アジアン映画祭で世界初上映が行われ、観客賞を受賞しており「凄く嬉しかった。尖った内容ではないから、映画祭向きではない、とずっと言っていたけど、実際に貰えるとこんなに嬉しいんだ」と素直に喜んだ。当時、堀家さんと前野朋哉さんが京都で撮影していた合間に舞台挨拶へ登壇してもらい、劇場のロビーでお客さんと話す機会を持つことが出来た。倉敷の方以外からも「良かったよ」「あったかい気持ちになることが出来た」といった感想をいただき、大いに喜んだ。今後も「ヒーローやお金持ちといった大きな力を持った人などを描くことには興味がないかな。その逆の立場にいる人たちに寄り添った物語を変わらずに作っていきたいな」と話し、新たな作品作りを楽しみにした。

 

映画『蔵のある街』は、7月25日(金)よりMOVIX倉敷で先行公開、8月22日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田、京都・烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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