母をテーマにしたオムニバス映画『Mothers マザーズ』各作品の脚本家・監督・俳優に聞く!

映画・テレビ・舞台などで活躍する5人の脚本家が、それぞれ“母”を題材に書き下ろしたオリジナルストーリーで構成されるオムニバス作品『Mothers マザーズ』が3月15日(土)より大阪・十三のシアターセブンでも公開される。今回、各作品の監督や俳優にインタビューを行った。
映画『Mothers マザーズ』は、映画やテレビなどで活躍する5人の脚本家が、それぞれ「母」を題材に書き下ろしたオリジナルストーリーで構成されるオムニバス映画。
無差別傷害事件を起こした息子を抱えた母の葛藤を描く『BUG』(脚本・監督:武田恒さん)、子育て幽霊の怪談をモチーフにした『夜想』(脚本・監督:高橋郁子さん)、母にコントロールされ続けた娘の悲哀を描いたサスペンス『いつか、母を捨てる』(脚本:進藤きいさん/監督:木内麻由美さん)、クリスマスを舞台に子育てに対する反省を描いたコメディ『だめだし』(脚本:たかはCさん/監督:野田麗未さん)、母の喪失と再生を描いた『ルカノパンタシア』(脚本・監督:難波望さん)の5作品で構成。
アキラ100%さん、小沢まゆさん、山野海さん、秋本奈緒美さん、高橋明日香さん、大島朋恵さん、嶋村友美さん、森山みつきさん、藤井太一さんら、映画やテレビ、舞台で活躍するキャストが各作品に出演している。
日本映画学校(現在は、日本映画大学)映像科脚本コースを卒業し、脚本家を主軸として活動してきた難波望さん。脚本家の仕事は、原作のある作品が圧倒的に多いが「脚本家自身がオリジナル企画を発信できる機会は少ない。そこに風穴を開けたい」と一念発起。「俳優や監督が自ら魅力的なインディペンデント映画を発信するプロジェクトが増えてきている。だが、普段現場に立つ機会のない脚本家たち映画制作をするのは簡単ではない。それでも、脚本家にもできることを示したいと思った」とこれまで他になかったプロジェクトを模索してきた。
母をテーマに選んだ理由については「”母”への想いや関係性は人それぞれ異なる。このテーマであれは、各々の脚本家の個性が発揮された作品になるはず」と着想した。作品は「劇場公開作品」を念頭に、ひとりでも多くの方に届けたいと強い想いで臨んだ。かつて、脚本家のマネジメントをしていた繋がりをもとに、プロジェクトに参加して欲しい脚本家たちに声をかけた結果、今回の5人で制作することになった。
無差別傷害事件を起こした息子を抱えた母の葛藤を描く『BUG』(監督・脚本:武田恒さん)…
母親の鳴海は息子の聖がなぜ無差別傷害事件を起こしたのか、分からずにいた。しかし、鳴海は息子と距離を置こうとする夫や、被害者家族のキャバ嬢の朋絵と話す中で、聖ともう一度、向き合おうとしていく。
本作のテーマが母と聞き「母親を登場させる必要がある。ならば、どのように物語を作っていくべきか」と検討。「分かり合えない相手とどのようにして向き合っていくことができるか」といったことに興味があり、物語に落とし込むことを考えた結果、息子が理解不明な動機で事件を起こした時、母親はどのように向き合っていくことが出来るか」というストーリーが思い浮かんだ。
キャスティングにあたり、オーディションを実施。母親役は「他の組と比べても演技の質が高く、その空間では、スタッフが何か言おうとしても言えないレベルで緊迫感が張り詰めていた。こんな光景を見たことがなく、演技の凄さを思い知った」と印象に残った小沢まゆさんを起用した。また、相対する夫の役には、同じ組にいた垣内健吾さんを、息子役の上田雅喜さんについては「演技経験は多くないが、目力に良い意味での狂気を感じた」と述べ、被害者家族のキャバ嬢役は全体のバランスを考え、悦永舞さんを選んだ。
クランクイン前には、俳優部とスタッフでシナリオを読み、理解を深める時間を設けた。武田さんにとっては、リライトするためにも意義があり「朋絵がどうしてあの場所に来たのか? という点に悩んだが、最後の台詞を書き上げた時に納得できた。撮ってみると、印象に残るシーンになった」と満足している。また、鑑別所での面会シーンが印象的な本作だが、脚本を書く際には鑑別所の見学も行った。実際の現場を見た上で「実際にある鑑別所を再現する形ではなく、廃墟というロケーションを選択した方がこの作品のテーマと合致する」とえた。ただ、その一方で動線や現場に置かれているモノにはリアリティがある」と説く。
子育て幽霊の怪談をモチーフにした『夜想』(監督・脚本:高橋郁子さん)…
――いちばんそばにあった光、それがあなた。闇を引き裂き、あなたは現れた――。飴屋の男のもとを毎夜訪ねる美しくもか細い女。しかし、その訪問は草木も寝静まる深夜ばかり。なぜこんな時間なのか男が尋ねると、女は一人抱えていた過去を語り始めた。
アニメや朗読劇の脚本を手がけてきた高橋さん。当初から、古典をモチーフにした作品を制作しようと決めていた。『子育て幽霊(飴買い幽霊)』は、母の執念を描いた物語だと感じたことから「これしかない」と決めた。また、世界の映画祭への出品についても考慮。「中国にも似た逸話(餅を買う女)があるという。西洋の方には東洋の逸話に触れる機会となり、アジア圏ではモチーフとなった逸話に気づく人もいるかもしれない」と期待している。物語の着想と同時に湧いたのは「大島朋恵さんをスクリーンで見たい」という思いだった。主演の一人、大島さんは、高橋さん主宰の朗読劇ユニットidenshi195(イデンシイチキュウゴ)の常連の出演者である。劇映画としてプロットを書き、出演を打診。すぐに快諾を得た。
しかし予算組で壁にぶつかる。その際に相談した西川文恵さん(企画協力)から「普段の朗読劇の手法を活かしてみたらどうか」とアドバイスを受ける。同時に、朗読劇の演出で多くの俳優と接している経験から、監督を兼任することを提案される。総合プロデューサーの難波望さんからの同意に押し切られる形で、監督業に挑戦することも決断した。ここで「言葉を織り重ね、聴いて想像する映画にする」という全体像が見えた。普段の朗読劇をただ撮影するのではなく、映像表現として成立する脚本の構成、撮影方法の検討が始まる。
北海道の切り絵作家、久藤エリコさんに協力を仰ぎ、その立体的な切り絵により、幻想空間を構築することが早々に決まる。飴屋の男役についてはオーディションを実施。女役の大島さんとの声と存在感のバランスを主軸に選考。結果、「言葉に対して繊細なアプローチにも瞬時に変化させて対応できる」と感じた加藤亮佑さんを抜擢した。
撮影現場では、撮影・録音スタッフらのチームが中心となり進行。芝居を見ながら即興的に撮る手法は相性が良く、撮影はスムーズに進行。高橋監督は演出に専念することができ、プロデューサーとしても「限られた条件の中で、臨機応変に対応して頂いた」と感謝している。
なお、切り絵に関わる時間には注力しており「切り絵を借りて吊るすのではなく、北海道から久藤さんが作品を携えて現場入りし、作家本人の手で設営。アクティングエリアを囲うように空間を作って頂いた。そこからカメラの導線を決めていった」と話す。東京・新木場にある倉庫内での撮影だったため、飛行機の音など考慮した録音は大変であったが「撮影自体は楽しかった」という記憶しか残っていない。なお、本作では、モノローグと現場での台詞を別々に収録しており、編集で掛け合わせている。
劇中に流れる音楽はSADAさんに依頼。「聞く映画にしたい。言葉が主旋律の、20分の楽曲として成立させたい」と伝えた。とある場面では、「無音を感じる音楽をお願いします」とリクエストし、制作して頂いている。また、劇中で披露されるコンテンポラリーダンスは即興である。女の独白に合わせて大島さんに舞って頂く場面と、男とすれ違う場面を撮影し、編集している。
母にコントロールされ続けた娘の悲哀を描いたサスペンス『いつか、母を捨てる』(監督:木内麻由美さん/脚本:進藤きいさん)…
母にコントロールされ努力を強いられてきた娘の晶子。息をひそめ、母の機嫌を損ねないよう生きている。だがある夜、母の望む大手商社に就職できたという嘘がバレそうになり、心の奥底に隠れていた思いが動き出す。たとえ実体がなくなっても母から逃れられない娘の哀しみを描くサスペンス。
脚本の進藤さんから、毒親をテーマにした作品をつくりたいと相談された木内監督。以前、ふたりで同様のテーマを練ったことがあるのだが、あらためてふたりで話し合うなかで「母も毒親だったかもしれないが、自分にも毒親の要素がある」「母も自分が毒親だと悩んだことがあるかもしれない」「自分も母と同じことを繰り返しているのでは」と気づかされ、互いに何度も涙があふれたという。
当初のプロットは介護が必要な母と娘を描いたものだったが、あるとき山野海さんのプロフィールを目にする機会があり、満面の笑みの山野さんに直感のようなものを感じた木内監督。「この気のいい“おばちゃん”が“毒親”を演じたらおもしろくなるはず!」と進藤さんに相談し、山野さんを母役としたストーリーに変更していくことになる。娘役は新しい出会いに期待してオーディションにしたのだが、なんと200名を超える応募だったそうだ。書類選考後にグループオーディションを行い、仮台本での演技のほか、母親との思い出を語ってもらった。つらい思い出やあたたかい思い出に涙をこぼす人がたくさんいて、母という存在はこんなにも大きいものなのかとあらためて気づかされた。そして、そのなかから選ばれたのが外山史織さん。映画初出演にして主演の大役なのだが、表情の多彩さと独特のオーラを放ち、未知数の可能性にキラキラと輝いていて、ほぼ満場一致での決定だった。キャストとスタッフが揃った顔合わせ&本読みの日、木内監督は、この座組ならきっと納得のいく映画が撮れると確信に似た気持ちが沸き上がってきたという。
撮影は神奈川県大和市で行われた。大和市のフィルムコミッションのおかげで実際に人が住んでいる民家をまるまる借りることができ、大掛かりなセットや小道具を用意することなく、普通の家庭の雰囲気を出せたことがとてもありがたかった。また、撮影監督の熱田大さんとは長年の信頼関係があり、演出について十分話し合いをしながら、その意図を的確に“画”にしてもらえたことで、20分の作品を2日間で撮り切ることができた。劇中、娘の晶子が料理を食べあさる印象的なシーンがあるのだが、このシーンはワンカット一発勝負で撮ろうと決めた木内監督。娘役の外山史織さんに「失敗してもいいから、今、自分のなかにある“晶子の気持ち”のまま演じて」と話した。役者の気持ちを信じること、それも監督の役割なのだろう。このシーンの迫力があるからこそ、観ているものに娘の気持ちが痛いほど伝わる。
撮影は夜のシーンがほとんどだったため、みんなで全部屋の暗幕張りをしたり、撮影初日、晶子が帰途につくシーンを夕日が沈む前に撮り切らなくてはならないプレッシャーのなか倉庫へ大移動したりと、緊張感のなかにもみんなで同じ方向を向いてつくっているという安心感と楽しさがあったそうだ。
木内監督は、「母という存在から生まれた以上、誰もが少なからず抱えた葛藤。永遠の課題でもある母と娘の複雑な関係。苦しい題材ではあるけれど、心に深く刺さる人がきっといるはず」と語った。
クリスマスを舞台に子育てに対する反省を描いたコメディ『だめだし』(監督:野田麗未さん/脚本:たかはCさん)…
12月24日。映像監督を生業にしている純也。年末は忙しく、編集作業に追われている。帰省中の妻から「あれ忘れないでね」という連絡が。純也は娘との約束をすっかり忘れてしまっていた…聖夜に巻き起こる子育て反省コメディ。
SNSで難波さんの企画についての投稿を偶然目にした野田監督。人と人との関係性を軸にした映画作りを大事にしており、「母がテーマなら、どのような内容になっても描けるのではないか」と考え、難波さんにメッセージを送った。構成作家として活躍しているたかはCさんとタッグを組み「父を主人公にした子育て反省コメディーを作りたい」という意向を聞いた。「夫婦の軽やかかつコミカルな攻防戦で展開する子育てへの反省を通して、親である意味を改めて伝えることを目指した。」と話す。また普遍的なテーマも取り入れた。「関係性が近くなるほど、お互いの頑張りや苦労が見えづらくなる。近すぎるからこそ見えないものを、互いに見ようとして分かり合うことの大事さを作品に込めた。」そういった意味も含めて、「父の視点を通すからこそ、母という存在に何を伝えたいか」という事を、たかはCさんと何度も話し合った。
キャスティングにあたり、たかはCさんと打ち合わせを重ねる中で、主演の候補にアキラ100%さんが挙がると、自然とお互いに賛同。年末に撮影を敢行する事が決まり、各所とスケジュール調整を重ねた。アキラ100%さんを当て書きするが如く、たかはCさんは脚本を書き進めたが、事前の顔合わせで対面すると「もう…ですよね。大変ですよね。いつも静かに追い込んでくるんですよね。わかります」とあっという間に意気投合し、父談義に花を咲かせた。母役の高橋明日香さんは、たかはCさんが手掛けた舞台でご一緒した経験があり「コメディエンヌとしての才能がある」という思いからオファーに繋がった。夫婦が揃って本読みをした際には「この2人で良かった」と、大笑いしながら確信できた。
本作自体は、主人公を中心に展開するドタバタコメディであるが、撮影現場もドタバタコメディさながらの状態に。様々なハプニングの果てに、たかはCさんが遮蔽担当となり、年末の夜、数時間ベランダ外に締め出される事件が起こった。(具体的なハプニングは諸事情により割愛する)「現場のドタバタ劇を撮影したメイキングシーンだけでも1本の映画になるんじゃないか」と笑いつつも、年末撮影だったこともあり「なんとかクランクアップして、今年を終わらせようとするチームの団結力と熱量に助けられ、無事に終える事が出来た」と回顧する。「当初は1本目に上映する作品だった。4本目の上映となり、3作目までの緊張感から解放されるように肩の力を抜いて観て頂いて、良い状態でルカノパンタシアにお渡しできる作品になった」と受けとめている。
娘と死別した母の喪失と再生を描いた『ルカノパンタシア』(監督・脚本:難波望さん)…
郊外の一軒家で暮らす原田路佳と娘の海凪。一見、なんの変哲もない暮らしを送る母娘のもとに、ただならぬ決意を秘めた元夫、茂が訪ねてくる。彼にはどうしても打ち明けなければならない想いがあった。茂の思いがけない告白を受け、母娘のかりそめの幸せはくずれてゆく。
「亡くなった恩人たちが、今も心のなかで私を支えてくれていると日頃から感じてきた。たとえ肉体が滅びても残された人の心の中で生き続けられることを描きたい」という思いがあり、母という存在との結び付け方を考えた難波さん。以前MV撮影の仕事でご一緒した嶋村友美さんが印象深く残っており「嶋村さんと共に作品を手掛けたい」と願い、彼女をイメージしながら脚本を書いていく中で、以前監督した短編映画に出演された森山みつきさんと偶然話す機会があり、母娘のイメージが固まった。また、映画『おっさんずぶるーす/21世紀のおじさん』で仕事をしたことがあった藤井太一さんの顔を思い浮かべたとき、一気に家族像が成り立った。嶋村さん自身は、SNSで難波さんの投稿を見つけ、オーディションの参加を希望していたが、オファーを頂くことに。
改稿された台本が届く度に良くなっている、と感じながらも「精神面も含め、私にかかる負担が次第に深くなっていった。これは大変なことになるな」と気がかりだった。とはいえ、藤井さんや森山さんと初対面後、家族写真の撮影や本読みを通じて「母役を演じられる。母としての気持ちが滲み出るようになった」と実感していった。藤井さんは台本を読みながら「過去に幸せだった頃にあった家族の空気感が大事だ」と察したが、リハーサルで安堵できた。事前に行われた劇中写真の写真撮影時では、家族で過ごす時間の楽しさを共有して、良き時間を過ごすことが出来た。
撮影は、過去に何度か一緒に仕事をして、最も信頼しているというカメラマンの大坪たかしさんが担当した。難波さん自身に監督の経験は少ないが、スタッフと共に可能な限りの準備をしたことでスムーズに撮影することができた。嶋村さんも藤井さんも、各シーンの撮影を一発撮りで終えていることに不安になりながらも、難波監督を信頼していった。とはいえ、難波監督は大坪さんと事前にオンラインで細かく準備していたことが大きかったようだ。
作品全体の最後には、『ルカノパンタシア』で劇伴を担当した、星爪梨沙さんによるエンディングテーマが流れる。難波さんは「全体を総括したような楽曲ではなく、マザーズの第六の作品として星爪さんによる母をテーマにした楽曲で映画を締めたい」と明確な依頼をした。そして「単純に母をテーマした作品ということではなく、各々の脚本家の想いの詰まった作品が並べることができた。エンドロールの冒頭に、すべての母への感謝の言葉を記載した」と思いを語った。
完成した作品は、第7回茅ヶ崎映画祭の特別招待作品として上映された。「5作品のジャンルは異なるが、全ての作品において心に響く瞬間があると思う。映画祭でお客さまの熱量を感じた瞬間、この映画が成功したと思った」と語った。
映画『Mothers マザーズ』は、3月15日(土)より大阪・十三のシアターセブンで公開。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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