楽曲を制作する過程自体がおもしろくなっていった…!『ザ・ゲスイドウズ』宇賀那健一監督に聞く!

田舎への移住を命じられた売れないバンドの4人が再起をかけて奮闘する『ザ・ゲスイドウズ』が2月28日(金)より全国の劇場で公開される。今回、宇賀那健一監督にインタビューを行った。
映画『ザ・ゲスイドウズ』は、『みーんな、宇宙人。』『悪魔がはらわたでいけにえで私』の宇賀那健一さんが監督・脚本を手がけ、田舎に移住した売れないバンドが再起をかけて奮闘する姿を描いた音楽映画。4人組パンクバンド「ザ・ゲスイドウズ」はアルバムが全く売れず、マネージャーの高村から田舎に移住して曲を作るよう命じられる。携帯電話の電波も届かない田舎で暮らすことになった4人は、昼は近隣住民の畑仕事などを手伝い、夜は疲れ果てながらも曲作りに励んでいた。そんな中、ボーカルのハナコに突然の転機が訪れたことで、彼女の作る楽曲は徐々に変化していく。『MY (K)NIGHT マイ・ナイト』の夏子さんがボーカルのハナコ役で主演を務め、多国籍バンド「ALI」でボーカルを務める今村怜央さんがギター役、人気エアーバンド「ゴールデンボンバー」のギター担当・喜矢武豊さんがベース役、アメリカで映画監督としても活動するロコ・ゼベンバーゲンさんがドラム役、『ONODA 一万夜を越えて』の遠藤雄弥さんがマネージャー役をそれぞれ演じた。『ベイビーわるきゅーれ』の主題歌を手がけたKYONOさんが楽曲プロデュース、今村怜央さんが劇伴を担当している。
『サラバ静寂』や『Love Will Tear Us Apart』など、音楽にまつわる作品もこれまで手掛けてきた宇賀那監督は「音楽も映画も、自分の青春時代をすごく支えてくれた。そして、寄り添ってくれたものだった」と受けとめている。また、現在は映画に携わる仕事をしていることから「僕にとって音楽とは純粋な憧れを抱き続けられるもの。いい意味で、距離感がありつつも、幼少時代からずっと趣味として寄り添い続けてくれているもの」と語る。初長編映画『黒い暴動❤︎』より前に、バンドを描いた映画の企画はあったが、なかなか撮影する段階まで進めず「バンドものはいつかリベンジしたい」という思いをずっと抱えていた。そんな時、『異物 -完全版-』が劇場公開されている最中に、プロデューサーの角田陸さんとお会いして企画について話すことに。様々な話をしていく中でお互いに音楽が好きで好みのジャンルが共通していることが分かり「もう一度、バンドものに挑戦したい」と願いが叶うに至った。
脚本執筆にあたり、ホラー映画が好きなバンドという設定を検討。これは、『異物 -完全版-』や『悪魔がはらわたでいけにえで私』を携えて世界の映画祭を廻っていく中で、数多のジャンル映画・ホラー映画ファンの方々にお会いし「このファンの方々に楽しんで頂ける作品にしたい。そして、作品を愛してくださっている映画祭に回帰したい」と思い、口からカセットテープが出て来る、といったホラー映画らしさがある描写を添えていった。また、今回は、楽曲制作にも携わっている。そこで「日本人によるパンクなら、誰に頼めばいいのだろう」と検討していく中で、THE MAD CAPSULE MARKETSも大好きで、KYONOさん自身がパンクを大好きなことも存じていたことから、全く面識がなくともオファーし、承諾して頂いた。楽曲依頼の際、「私のはらわた」という楽曲では「グランジをベースにして、グラムロックのような艶やかさを入れて、昭和歌謡らしさも欲しい」といった無茶ぶりなオーダーをしてしまうことに。また、The Damnedらしさを求めた「決戦は13日の金曜日」という楽曲では「いつ頃のThe Damnedだろうか」といった議論をしながら、制作してもらっている。作詞は宇賀那監督が担当したが、十分な時間を確保することが出来ず、舞台挨拶で名古屋のシネマスコーレへ伺った際に行き帰りの新幹線の中で書き上げた。
キャスティングにあたり「出自がバラバラの方がおもしろいな。役者だけで揃える良さも勿論あるけども、役者じゃない方が混ざることで起こるケミストリーもあるな」と検討。様々な分野の方にお声がけしながら、実際に楽器を弾ける方にプライオリティを置いていった。ハナコ役については「カリスマ性、という言葉を用いると単純になりがちだけど、ボーカルを担うフロントマンとして、観客を惹きつけられる魅力があってほしい」と考えていく中で、夏子さんが思い浮かび、宇賀那監督が面接をした上でキャスティングしている。ギターのマサオ役を担った今村怜央さんとは20年来の友人であり「元々は、僕の友人から『小学校の同級生にすごい格好いいバンドがいるから見に来てほしい』と誘われていたことがあり、どことなく躊躇していたが、楽曲を聴いてみたら、格好良かった。LIVEも観に行ってファンになった。その後、『サラバ静寂』に役者として少しだけ出演したり、『悪魔がはらわたでいけにえで私』や『愚鈍の微笑み』の劇伴を作ってもらったりした」と振り返り「ミュージシャンとしてのカリスマ性とユーモアは、今回の映画にハマるんじゃないかな」と察し、オファーした。リュウゾウ役の喜矢武豊さんは、エアーバンドのゴールデンボンバーではギターを担当しているが「実はベースを弾けるらしい」という噂を聞き、興味津々。また「役者業をすごく楽しんでやっていらっしゃる」と聞き「役者とバンドの両方の側面を持っていらっしゃったので、怜央とは違った角度があり、おもしろさがあるな」と思い、オファーしている。ドラムのサンタロウ役を担ったロコ・ゼベンバーゲンさんに関しては、ロイド・カウフマンのアシスタントをやっていたことがあり、ロイド・カウフマン主催の映画祭トロマダンスで短編映画『往訪』を上映した際に、ロコさんの家に泊まり仲良くなった。彼がドラムをやっていることも知っていたし、彼が自身の監督作品に自ら出演したときの演技も良かったので、本作に映画監督が参加したら不思議なケミストリーが生まれるんじゃないかな」と思い、オファーした。総じて不思議なメンバーが集まり「皆が仲良くなって本当に良かったな」と安堵している。また、スタントパフォーマーでもある伊澤彩織さんも出演しており「彼女のアクションが凄いのは勿論ですが、伊澤さんのお芝居が僕は好きです。アクションをしていない彼女の違った魅力が出ている」と太鼓判を押す。
ザ・ゲスイドウズが移住した田舎の住居は、特異なバンドマンならではの独自の装飾が施されている。ハナコが好きそうなものについては、監督自身の好みに近いものを投影しており、独自の世界観を作り込んでもらった。メンバー各々の衣装は既存のものを用いて揃えているが「そこにあるものを着る、というスタイルにしていたので、薄着なんですよね。 寒さとかは俳優部の方々は大変だっただろうな」と思い返す。バンドによる演奏にあたり、クランクイン前には、全員が揃っては3回スタジオ練習を行っただけなので「夏子さんは元々バンドをやっていたわけでもないので、どうなるかな」とワクワクしていたが、実際に撮影を始めてみると、スムーズに進行していった。ハナコが思い悩みながらも着想した言葉にインスパイアされて楽器を奏で出すシーンがあるが、現場で決めながら撮影していったことも多く「現場でジャムセッションしていく中で曲が生まれていくような感覚は凄くおもしろい。上手くいったな」と実感。ジャン=リュック・ゴダール監督の『ワン・プラス・ワン』の如く、ザ・ローリング・ストーンズが楽曲制作過程を見せることで、最終的に楽曲が観客の耳に馴染んでいる状態にすることを目標にしていたが「このプロセスをどのようにおもしろく見せるか、は1つの課題だった。現場では、各々のピースが次々にハマっていく過程自体がおもしろくなっていった瞬間があり、これは勝ったな」と自信がある。
完成した作品は、各国の映画祭を周っていった。特に、トロント国際映画祭のワールドプレミアでは、1,244人規模のロイヤル・アレキサンドラ劇場で23時59分から上映が始まるミッドナイト・マッドネス部門での公開となったが「満席の中で、メンバー紹介シーンでは、拍手や指笛が飛び交った。まるでLIVEのような状態になって、めちゃくちゃ感動しました」と想像以上の盛り上がりに。また、モントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭では、近年の4年間で短編作品含め8本も上映してもらっており、今作ではtemps0部門にて初めて観客賞を受賞し「今までやってきたことによって、点と点が線になっていくような映画だな」と感慨深げだ。日本では、東京フィルメックスで上映されており、SNSでは「宇賀那さんの作品だけれども、どこか分かりやすさもある」「ぶっ飛んだ表現がなくならず、分かりやすくて凄く見やすい」「エンドロールで歌にやられた」と好評を頂いている。現在の宇賀那監督は、コンスタントに制作を続けており「ジャンル映画がしばらく続いていくかな。ぜひ他の作品も楽しみにしていただけたら嬉しい」と期待せずにはいられない。
映画『ザ・ゲスイドウズ』は、2月28日(金)より全国の劇場で公開。関西では、2月28日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田や堺のMOVIX堺、京都・烏丸御池のアップリンク京都、和歌山のイオンシネマ和歌山、4月18日(金)より神戸・三宮のkino cinéma神戸国際で公開。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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