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冤罪は、これほどまでに人の体と心を壊すことを皆が知った…『いもうとの時間』鎌田麗香監督に聞く!

2025年2月7日

1961年に発生した名張毒ぶどう酒事件を46年間取材し続けた東海テレビのローカルTV番組に、追加取材・再編集を施したドキュメンタリー『いもうとの時間』が2月8日(土)より関西の劇場でも公開される。今回、鎌田麗香監督にインタビューを行った。

 

映画『いもうとの時間』は、1961年に発生した「名張毒ぶどう酒事件」の犯人として逮捕され、無実を訴えながらも獄中死した奥西勝元死刑囚の妹である岡美代子さんの姿をとらえたドキュメンタリー。事件を46年にわたって取材してきた東海テレビが、2024年2月に放送した番組に追加取材・再編集を施して映画化した。1961年、三重県と奈良県にまたがる集落・葛尾で、村の懇親会でぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡する事件が起こった。当時35歳の奥西勝が犯人として逮捕されたが客観的証拠はなく、あるのは自白調書のみ。一審判決では無罪を勝ち取ったものの、二審では一転して死刑判決が言い渡される。奥西は無実を訴え続けるも、2015年に89歳で獄中死した。奥西の妹・岡美代子さんは弁護団を結成して新証拠を出し続けるが、再審請求は半世紀にもわたって棄却され続ける。再審請求は配偶者と直系の親族および兄弟姉妹しかできず、2023年で94歳になった美代子さんがいなくなれば、事件は闇の彼方へと消えてしまう。それでも兄の無実を信じ、長生きを誓う美代子さんの姿を映しだす。俳優の仲代達矢さんがナレーションを担当した。

 

東海テレビの数多あるドキュメンタリーの中でも中心となっているのが、名張毒ぶどう酒事件。多くの作品に携わっていたプロデューサーの阿武野勝彦さんは、ドキュメンタリー精神を持って長く事件を追い続けることを大切にしており、名張毒ぶどう酒事件についても『ふたりの死刑囚』『眠る村』で取り上げており「映画にしなければいけない。名張毒ぶどう酒事件が冤罪事件であることに関心を持ってもらいたい」という思いはブレない。本作に関しては、阿武野さんが東海テレビを退職する前に制作したかったこともあり「奥西さんは亡くなられた。その次に請求人になった岡美代子さんも時間が限られている。また、袴田事件も決着がつきそうである。どうにかこれらを作品にすることができないか」と検討し、鎌田さんが監督として手掛けることになった。

 

岡美代子さんへ取材に伺う際、親戚の子どものような感覚で訪れており、楽しく取材させて頂いている。岡さんには娘さんがいらっしゃり、お仕事がお休みのタイミングに合わせてお互いに無理のないスケジュールで通ってきた。1年の中での節目や季節の移り変わりの時期に合わせて伺ったり、「今日は、戦争の話を聞いてみよう」といったテーマを携えたりしながら「こういった時の岡さんを撮りたいな。撮れるんじゃないか」と想定しながら、取材を続けてきた。とはいえ、岡さんが体調を崩さないか、気がかりではあり、感染症等にも気をつけていく。特に、コロナ禍真只中では、スタッフら皆が抗原検査を経た上で、マスクも欠かさずに取材をしていた。

 

また、本作では、袴田事件についても取り上げている。名張毒ぶどう酒事件と同様に長時間を要している事件であり「再審無罪になっており、意識せざるを得ない。岡さんにとっても同じ。取り上げないといけない」と説く。判決の結果は異なっており「こればかりは、”裁判官ガチャ”に尽きる。どういった裁判官が担当するか、これほどまでに結果が違ってしまう。次はどういう裁判官が担うのか、と弁護士は気にしている。そういった事情に惑わされず、各々の裁判官がしっかりと正しい決定を出してほしい」と願うばかりだ。また「奥西さんが表に出て来ることが出来なかったことも大きい。奥西さんの再審の開始が一度決まった時、同時に釈放されていれば表に出て来られた。冤罪は、これほどまでに人の体と心を壊すことを皆が知った。その衝撃は大きかった」と悔やまざるを得ない。改めて「世論が大いに影響する、と思います。袴田決定を受けて尚更に思います。検察は悪いことするんだ、という認識が次第に広がってきています」と冷静に世の中の動向を捉えている。このような状況下、撮影の区切りをつけるタイミングを図るのは難しく「袴田事件の再審決定が出ないことが判明し、まずは現時点で放送しよう、となった。映画化を決めた頃には、袴田事件の決定があったので、作品に入れましょう」と決断。本来であれば、再審は早く決まり結審していくと想定していたが、実際は1年がかりであり、阿武野さんの退職までに放送にこぎつけた。

 

編集段階となり「過去の映像の中で使用できる素材は限られており、取り入れたい映像には目星をつけていた。編集マンの奥田繁さんが長年このシリーズに携わっているので、適切な映像を提示してくれる」とスタッフを信頼。作中のナレーションは仲代達矢さんが担っており「全体の一部を読んでもらい、感情を入れ込んでいく箇所は仲代さんに読んでいただこう」と判断した。仲代さんからは「生きている限り、こういったドキュメンタリーやこの事件に関するお話があれば必ず受けますよ」と承諾頂いており「奥西さんイコール自分だ、という意気込みで演じたわけですからね。思い入れはありますよね」と鎌田監督は信頼を寄せている。

 

2024年2月、東海テレビで「いもうとの時間 名張毒ぶどう酒事件・裁判の記録」として放送され「東海テレビ、頑張って」「冤罪があってはダメだ。検察や警察はひどいよね」「奥西さんも妹さんも頑張ってほしいね」といった感想が視聴者から届いた。今回の映画化にあたり、全体的な内容は変えておらず、袴田事件に関する部分を増やしており、少しずつカットを増やすなど細やかな編集を加えている。既に、本作は東京をはじめ各地の劇場で公開しており、ポレポレ東中野には、仲代達矢さんが舞台挨拶に登壇。仲代さんのファンも駆けつけており「この事件自体を全然知らなかった人が多かった。だからこそ、様々な人に伝えたい人や、支援団体への寄付をしたい人もいた」と伺っている。「この事件に関心がある。近くに住んでなかったけど、地元のことだから観てみよう」という名張市出身の方も鑑賞しており、問題意識を持っている方が多くいることも実感できた。

 

なお、現在の岡さんは95歳でご健在、今年で96歳を迎える。鎌田監督は現在もコンスタントに取材に伺っており、その内容は報道特集などの発表する機会は沢山あり、今後も継続する予定だ。また、東海テレビは、誰がゴール決めて番組を制作してもいい環境にあり、様々なテーマで作品を作ろうと目論んでいる。

 

映画『いもうとの時間』は、関西では、2月8日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、2月14日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、2月15日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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